『アトミック・ブロンド』を最後まで見ても、「結局、ロレインはCIAなのか?」「サッチェルは誰だったのか?」「パーシヴァルは何をしたかったのか?」と混乱した人は多いはずだ。
私も初めて見たときは、派手なアクションには満足したが、登場人物の裏切りが多すぎて話を完全には理解できなかった。
全員が嘘をつき、味方に見えた人物が敵になり、敵に見えた人物が別の組織に所属している。しかもMI6、CIA、KGB、東ドイツ、フランス情報機関が同時に動くため、普通に見ているだけでは分かりにくい。
しかし、結論から言えばそれほど難しくない。
主人公ロレイン・ブロートンの正体は、MI6の職員として活動しながら、実際にはCIAのために動いていた三重スパイだと考えるのが自然だ。
さらに、KGBが探していた二重スパイ「サッチェル」もロレイン本人である。
ただし、ロレインは本当にソ連へ協力していたわけではない。偽の情報をKGBへ渡し、CIAのためにソ連を操作していたのだ。
ここからは、映画『アトミック・ブロンド』のあらすじ、登場人物の立場、サッチェルの正体、ラストの意味をネタバレありで分かりやすく解説する。

『アトミック・ブロンド』の作品情報
『アトミック・ブロンド』は、2017年に公開されたスパイアクション映画だ。
監督は『ジョン・ウィック』の共同監督としても知られるデヴィッド・リーチ。主人公ロレイン・ブロートンをシャーリーズ・セロンが演じている。
物語の舞台は1989年11月、ベルリンの壁が崩壊する直前のドイツだ。
東西冷戦が終わりへ向かう一方で、各国の情報機関は最後まで激しい情報戦を続けていた。街では自由を求める市民が動き、裏ではスパイたちが機密情報を奪い合っている。
この混乱した時代そのものが、映画の分かりにくさと危険な雰囲気を作っている。
公式サイトでは、ロレインはMI6でも特に危険な任務を担当する精鋭工作員として紹介されている。
Focus Features『Atomic Blonde』公式ページ
また、本作はアントニー・ジョンストンとサム・ハートによるグラフィックノベル『The Coldest City』を原作としている。
原作者アントニー・ジョンストン公式サイト
『アトミック・ブロンド』のあらすじ
MI6のスパイが殺され、重要なリストが盗まれる
ベルリンで活動していたMI6の工作員ジェームズ・ガスコインが、KGBのユーリ・バクティンに殺される。
バクティンが奪った腕時計には、ベルリンで活動する各国スパイの本名や所属を記録した極秘リストが隠されていた。
このリストがKGBへ渡れば、西側諸国のスパイが大量に殺される危険がある。
さらにリストには、KGBへ情報を流している謎の二重スパイ「サッチェル」の正体も記録されていた。
MI6はリストを取り戻すため、ロレイン・ブロートンをベルリンへ送る。
表向きの任務はリストの回収だが、ロレインにはサッチェルの正体を突き止める任務も与えられていた。
ロレインはパーシヴァルと行動する
ベルリンに到着したロレインは、現地責任者のデヴィッド・パーシヴァルと合流する。
パーシヴァルは長期間ベルリンで活動しており、現地の裏社会や情報網に深く入り込んでいた。
しかし、彼は最初から明らかに怪しい。
ガスコインと知り合いだったにもかかわらず、その関係を隠していた。また、リストの回収よりも、自分の利益を優先しているように見える。
ロレインとパーシヴァルは同じMI6に所属しているが、お互いをまったく信用していない。
この二人は協力者というより、同じ獲物を狙う競争相手に近い。
パーシヴァルがリストを手に入れる
バクティンは、盗んだリストを売ろうとする。
パーシヴァルはバクティンの動きを察知し、彼を殺して腕時計を奪う。これにより、パーシヴァルはロレインより先にリストを手に入れた。
しかし、パーシヴァルはMI6へリストを渡さなかった。
彼はリストを利用して自分の立場を守り、利益を得ようとしたのだ。
さらにパーシヴァルは、KGB側の責任者ブレモヴィッチと密かに接触する。
この時点で、パーシヴァルもMI6へ忠実な人物ではないことが分かる。彼は正式な二重スパイだったというより、状況に応じて情報を売る危険な裏切り者だったと考えた方が自然だ。
スパイグラスは何者だったのか
リストをすべて暗記した東ドイツの情報員
スパイグラスは、東ドイツの秘密警察シュタージに所属していた人物だ。
彼は西側への亡命を希望しており、その交換条件として極秘リストの情報を提供しようとしていた。
重要なのは、スパイグラスがリストの内容をすべて暗記していた点だ。
つまり、腕時計に入ったリストを回収できなくても、スパイグラスを西側へ亡命させれば情報を取り戻せる。
そのため、ロレインとパーシヴァルはスパイグラスを東ベルリンから西ベルリンへ脱出させようとする。
パーシヴァルが脱出作戦を妨害した理由
パーシヴァルはスパイグラスの脱出計画をKGB側へ漏らし、さらに逃走中のスパイグラスを撃つ。
スパイグラスが西側へ到着すれば、彼が暗記している情報によってリストの内容が明らかになる。
そうなれば、パーシヴァルがリストを隠していることや、KGBと接触している事実まで発覚する可能性がある。
つまり、パーシヴァルにとってスパイグラスは生きていては困る存在だった。
ロレインは大量のKGB工作員と戦いながらスパイグラスを守ろうとするが、最終的に車ごと川へ落とされ、スパイグラスは死亡する。
この長い戦闘場面は、本作最大の見どころだ。
登場人物の名前や所属を忘れても、この場面の痛さだけは嫌でも伝わってくる。ロレインも敵も疲れ切り、殴られても簡単には立ち上がれない。無敵のヒーローではなく、本当に体を削って戦っているように見える。
デルフィーヌはなぜ殺されたのか
パーシヴァルの裏切りを撮影していた
デルフィーヌ・ラサールは、フランスの情報機関に所属する若い工作員だ。
彼女はロレインへ近づき、二人は親密な関係になる。
最初は任務のために接触した可能性もあるが、少なくとも物語後半では、デルフィーヌは本気でロレインを信頼していたように見える。
デルフィーヌはパーシヴァルとブレモヴィッチが密会している場面を撮影していた。
この写真は、パーシヴァルがKGB側と接触していた証拠になる。
デルフィーヌは電話でパーシヴァルを脅すが、経験不足だった。証拠を持っていると本人へ直接伝えれば、当然ながら口を封じられる。
パーシヴァルはデルフィーヌの部屋へ行き、彼女を殺害する。
スパイ映画では、正直に動いた人物から死んでいく。嫌な世界だが、この映画では一貫している。
ロレインはデルフィーヌを利用しただけなのか
ロレインがデルフィーヌへ近づいた理由には、情報収集の目的もあったはずだ。
しかし、デルフィーヌの死を知ったロレインの反応を見ると、完全に利用していただけとは思えない。
感情を表に出さないロレインにとって、デルフィーヌは数少ない心を許せる相手だった可能性が高い。
だからこそ、ロレインがパーシヴァルを追い詰める場面には、任務だけでなく個人的な怒りも含まれている。
元の記事を書いた当時は、デルフィーヌとの関係が本当に必要だったのか疑問に感じた。
しかし、改めて見ると、この関係があることでロレインにも人間らしい感情が残っていると分かる。冷酷なスパイとして描くだけなら、デルフィーヌの存在は必要ない。ロレインの孤独を見せるために必要な人物だったのだ。
パーシヴァルはサッチェルだったのか
ロレインは証拠を加工してパーシヴァルへ罪を着せた
デルフィーヌが残した写真から、ロレインはパーシヴァルがKGBと接触していたことを知る。
その後、ロレインはパーシヴァルを待ち伏せし、彼を殺してリストを回収する。
ロンドンへ戻ったロレインは、MI6とCIAによる尋問を受ける。
そこでロレインは、デルフィーヌが撮影した写真と、加工した音声記録を提出する。これにより、パーシヴァルこそが二重スパイのサッチェルだったように見せた。
パーシヴァルが裏切り者だったこと自体は事実だ。
しかし、彼が本物のサッチェルだったわけではない。
ロレインは本物のサッチェルである自分を守るため、すでに死亡したパーシヴァルを利用したのだ。
死者は反論できない。スパイの世界では、都合の悪い秘密を押しつけるには最適な相手ということになる。
サッチェルの正体はロレイン本人
ブレモヴィッチがロレインを「同志サッチェル」と呼ぶ
尋問から3日後、ロレインはパリでKGBのブレモヴィッチと会う。
ブレモヴィッチはロレインを「同志サッチェル」と呼ぶ。
この場面によって、KGBへ情報を渡していたサッチェルの正体がロレインだったと判明する。
ここだけを見ると、ロレインはMI6を裏切ってKGBへ協力していた二重スパイに見える。
ところが、ロレインはブレモヴィッチの部下を倒し、最後にはブレモヴィッチ本人も殺す。
さらに、それまでのイギリス英語ではなく、アメリカ英語で話し始める。
ロレインはKGBへ協力していたのではない。
サッチェルとしてKGBへ接触し、偽の情報を流すことでソ連側を操作していたのだ。
ロレインはCIAの三重スパイだった
映画の最後で、ロレインはCIA職員エメット・カーツフェルドと共に飛行機へ乗る。
行き先は、CIA本部があるアメリカ・バージニア州ラングレーだ。
このラストから考えると、ロレインの立場は次のようになる。
MI6から見れば、ロレインはイギリスの工作員。
KGBから見れば、ロレインはサッチェルという名の協力者。
しかし実際には、ロレインはCIAのために働いていた。
つまり、ロレインはMI6とKGBの両方へ別の顔を見せながら、最終的にはCIAの利益のために動いていた三重スパイだ。
KGBへ渡していた情報も、ソ連を助けるための本物の情報ではない。CIAがKGBを操作するために用意した偽情報だった。
結局、極秘リストはどうなったのか
ロレインはパーシヴァルを殺した後、極秘リストを回収している。
しかし、MI6の尋問ではリストの所在を知らないと主張する。
MI6側は決定的な証拠を持っていないため、それ以上追及できない。
その後、ロレインはCIAのカーツフェルドと共にアメリカへ向かっている。
したがって、リストは最終的にCIAへ渡ったと考えるのが最も自然だ。
ロレインはMI6の任務を成功させたように見せながら、重要な情報をCIAへ持ち帰った。
「結局、勝ったのはアメリカ」という感想は、かなり正しい。
MI6はパーシヴァルを失い、KGBはブレモヴィッチを失い、フランスはデルフィーヌを失った。その一方で、CIAはロレインと極秘リストの両方を手に入れている。
恐ろしいほど効率的だ。
『アトミック・ブロンド』が分かりにくい理由
尋問と回想が交互に進む
本作の大部分は、任務を終えたロレインがMI6とCIAの前で説明している回想として描かれる。
しかし、ロレインは尋問で真実をすべて話しているわけではない。
観客はロレインの回想を見ているが、その回想自体が完全に信用できない。
この構造が物語を分かりにくくしている。
登場人物が全員嘘をつく
ロレインは本当の所属を隠している。
パーシヴァルはリストを持っていることを隠している。
デルフィーヌも最初はロレインへ自分の目的を明かさない。
ブレモヴィッチもサッチェルを信用していない。
味方と敵がはっきり分かれた映画ではないため、一度見ただけでは人物関係を整理しにくい。
組織名と人物名が多い
MI6、CIA、KGB、シュタージ、フランス情報機関が登場し、さらにガスコイン、バクティン、スパイグラス、ブレモヴィッチなど、短時間しか登場しない人物にも重要な役割がある。
アクションを楽しみながら全員の名前と所属を覚えるのは難しい。
分からなくなるのは理解力の問題ではない。映画側が意図的に観客を混乱させている。
『アトミック・ブロンド』を見た感想
最初に見たときは、正直なところ「スパイが多すぎて疲れる映画」という印象だった。
名前を覚えた直後に人物が殺され、誰かが重要な情報を持っていると思ったら、別の人物がすでに奪っている。物語を理解しようとすると、アクションに集中できない。
ただし、ラストまで理解したうえで見直すと評価は変わる。
ロレインは単に強い女性スパイではない。
MI6、KGB、パーシヴァルのすべてを利用し、最後にはCIAだけが利益を得る形へ持っていく。肉体的にも強いが、それ以上に情報戦で圧倒的に強い人物だ。
また、シャーリーズ・セロンのアクションには重さがある。
殴られれば傷つき、階段から落とされれば動きが鈍る。それでも近くにある物を武器にして戦い続ける。華麗というより必死であり、そこが格好いい。
映画の物語は複雑だが、理解できれば単純なアクション映画ではないことが分かる。
まとめ
『アトミック・ブロンド』のラストを整理すると、次のようになる。
主人公ロレインは、表向きはMI6の工作員としてベルリンへ派遣された。
KGBからは二重スパイ「サッチェル」として認識されていたが、実際にはCIAのためにKGBへ偽情報を流していた。
パーシヴァルはMI6を裏切り、リストを利用して自分の利益を得ようとした人物だ。ロレインは彼を殺し、証拠を加工してサッチェルの罪まで押しつけた。
最後にロレインは極秘リストを持ち、CIA職員カーツフェルドとアメリカへ帰る。
つまり、ロレインの本当の所属はCIAであり、MI6とKGBの両方へ潜入していた三重スパイだったと考えられる。
初見では分かりにくい映画だが、人物の所属を整理するとラストは明確だ。
そして結局、最も多くを失わず、極秘情報まで持ち帰ったのはCIAだった。
ベルリンの壁が崩壊し、冷戦が終わろうとしている裏側で、アメリカだけが次の時代へ向けて利益を回収する。
派手なアクションの裏に隠されているのは、正義ではなく、最後まで相手をだました者が勝つという冷酷な結論なのだ。


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