「今年の仕事だけれど、入金は来年。それなら売上も来年でいいのでは?」
この考え方は、かなり危険です。
お金がまだ入っていないのに税金だけ先に計算するのは、感覚的には納得しにくいでしょう。私も会計処理を考えるなら、銀行口座に入った日を基準にしたくなります。そのほうが圧倒的にわかりやすいからです。
しかし、税務では原則として**「いつ入金されたか」ではなく、「いつ売上が成立したか」**で判断します。
12月に仕事が終わり、代金の振込が翌年1月なら、基本的には12月の売上です。法人でも同じように、決算日までに売上が成立していれば、実際の入金が翌期でも当期の売上として処理します。
ここを間違えて翌期の売上にしてしまうと、単なる記帳ミスでは済まない場合があります。利益を翌期へずらしたと判断されれば、修正申告や追加納税につながる可能性もあります。
では、入金が来期になる売上は、具体的にどう仕訳すればいいのでしょうか。
売上金額の入金が来期でも原則は当期の売上になる
最初に押さえておきたいのは、税務上の売上は銀行口座への入金だけで決まらないという点です。
個人事業主の事業所得について、国税庁は商品販売なら原則として「引渡しがあった日」、請負なら目的物を引き渡した日や役務の提供を完了した日などを収入計上の時期としています。
法人についても、棚卸資産の販売では原則として引渡しがあった日の属する事業年度に収益を計上します。
つまり、
「まだ振り込まれていない」
という理由だけでは、売上を翌期へ移せません。
個人事業主なら12月に仕事が終われば基本的にその年の売上
たとえば、個人事業主が12月20日に10万円の仕事を完成させたとします。
請求書を12月25日に送り、実際の入金日は翌年1月31日だったとしましょう。
通常の処理であれば、翌年1月ではなく12月の売上です。
個人事業主の場合は1月1日から12月31日までが所得税の計算期間なので、12月中に売上が成立したのであれば、その年分の確定申告に含めます。
「振込は1月だから来年の売上」という処理は原則としてできません。
法人なら決算日までに成立した売上を当期に計上する
法人の場合も考え方はほぼ同じです。
たとえば3月決算の会社が3月25日に商品を引き渡し、代金が4月30日に入金されたとします。
入金日は翌事業年度ですが、商品を3月に引き渡しているのであれば、基本的には3月期の売上です。
国税庁の法人税基本通達でも、棚卸資産の販売による収益は、その引渡しがあった日の属する事業年度に計上する扱いが示されています。
現金が入った日だけを見て処理すると、決算をまたぐところで簡単に数字が狂います。
入金が来期になる場合は「売掛金」で処理する
では、まだ現金を受け取っていない売上をどう記帳するのでしょうか。
そこで使うのが「売掛金」です。
売掛金とは、簡単にいえば、
「売上はすでに成立しているが、まだ代金を受け取っていない状態」
を表す勘定科目です。
人間社会は、お金がないのに利益があるという不思議な状態を会計上きちんと管理しなければなりません。そのための科目が売掛金です。
12月に売上が成立して1月に入金される場合の仕訳
たとえば12月20日に110,000円のサービス提供が完了し、翌年1月31日に振り込まれるケースを考えます。
税込経理なら、売上が成立した12月20日に次のように処理します。
12月20日
借方 売掛金 110,000円
貸方 売上高 110,000円
まだ銀行口座には1円も入っていません。
それでも、この時点で売上は計上します。
そして翌年1月31日に入金されたら、
1月31日
借方 普通預金 110,000円
貸方 売掛金 110,000円
と処理します。
ここでは新しい売上は発生していません。
すでに計上していた売掛金が現金に変わっただけです。
この違いはかなり重要です。
税抜経理なら消費税を分ける
消費税の課税事業者で税抜経理をしている場合は、たとえば本体価格100,000円、消費税10,000円なら次のようになります。
借方 売掛金 110,000円
貸方 売上高 100,000円
貸方 仮受消費税 10,000円
そして翌期の入金時には、
借方 普通預金 110,000円
貸方 売掛金 110,000円
です。
税込経理か税抜経理かによって仕訳は変わりますが、売上を計上する時期そのものが入金日に変わるわけではありません。
「請求書を出した日=売上日」とは限らない
ここも間違いやすいところです。
売上日を確認するときに請求書の日付だけを見る人がいます。
しかし、
請求書の日付だけで売上時期が決まるとは限りません。
大切なのは実際に何をいつ行ったのかです。
商品販売なら引渡しの日が基準になる
商品販売については、原則として商品の引渡しがあった日が収入を計上する時期です。
ただし、実際の取引では「引渡し」といっても候補がいくつかあります。
たとえば、
- 出荷した日
- 相手に商品が到着した日
- 相手が検収した日
- 相手が商品を利用できるようになった日
などです。
国税庁も、商品の種類や契約内容に応じて合理的な日を選び、継続して使用する考え方を示しています。
毎年都合よく基準を変えるのはまずい、ということです。
サービス業なら役務提供が完了した日が重要
コンサルティング、制作、修理、講師、業務委託などのサービスでは、原則としてサービスの提供が完了した時期を確認します。
個人事業の人的役務について、国税庁は原則として人的役務の提供を完了した日を収入すべき時期としています。期間や進捗に応じて報酬が発生する契約では、その契約内容に応じた時期になる場合があります。
法人の請負についても、原則として引渡し等の日の属する事業年度に収益を計上する扱いがあります。
そのため、
「12月に仕事は全部終わっていたが、請求書を1月に作った」
というケースで、請求書の日付だけを理由に1月売上とするのは危険です。
逆に「入金済みでも当期の売上ではない」こともある
ここまで読むと、
「では、お金が入ったら売上ではないのか」
と混乱するかもしれません。
実は、お金を受け取っていても売上にならないことがあります。
代表例が前受金です。
翌期の仕事について先に代金を受け取った場合
たとえば12月25日に110,000円を受け取ったものの、実際のサービス提供は翌年1月だったとします。
この場合、12月時点では仕事が終わっていません。
そのため、内容によっては「前受金」として処理します。
12月25日
借方 普通預金 110,000円
貸方 前受金 110,000円
翌年1月にサービスを提供したときに、
借方 前受金 110,000円
貸方 売上高 110,000円
とします。
国税庁も消費税について、前受金を受け取った時ではなく、原則として実際に資産の引渡しやサービス提供が行われた時を取引時期としています。
つまり、
入金したから売上。入金していないから売上ではない。
この判断ではダメです。
実際に何が完了しているのかを見る必要があります。
消費税も入金日だけでは判断しない
売上の期ズレを考えるときは、所得税や法人税だけでなく消費税にも注意が必要です。
消費税についても、原則として課税資産の譲渡やサービス提供を行った時が基準になります。
国税庁は、前受金や未収金があっても、原則として代金の決済時期ではなく、資産の引渡しやサービス提供があった時を売上や仕入れの時期としています。
したがって、
「まだお金をもらっていないから消費税も来期」
とは限りません。
ここは資金繰りの面では少々厳しいところです。
売掛金のままでも売上や消費税が先に認識されるケースがあるため、決算前は利益だけでなく現金残高まで確認しておいたほうが安全です。
個人事業主には「現金主義」の特例もある
ここまで説明した処理には例外があります。
一定の小規模な青色申告者については、所得を現金の入出金を基準に計算する「現金主義による所得計算の特例」を選べます。
国税庁によると、小規模事業者とは、原則として前々年分の事業所得と不動産所得の金額の合計が300万円以下の人です。適用するには所定の届出が必要です。
現金主義なら入金日に売上を計上できる
この特例を正式に適用している場合は、基本的に実際に代金を受け取った時を基準に所得を計算できます。
そのため、12月に仕事をして翌年1月に入金された場合に、翌年の収入になるケースがあります。
ただし、
「今年の税金を減らしたいから今年だけ現金主義にしよう」
という使い方をする制度ではありません。
事前の届出などが必要です。
現金主義は青色申告65万円控除と相性が悪い
さらに重要な注意点があります。
現金主義による所得計算の特例を選択している人は、55万円の青色申告特別控除を受けることができません。
65万円控除は55万円控除の要件を満たすことが前提なので、こちらも対象外となります。現金主義の場合、要件を満たせば10万円の青色申告特別控除の対象となります。
わずかな期ズレを簡単に処理するためだけに現金主義へ変えるのは、私はあまり得策だとは思いません。
控除額まで含めて判断しなければ、帳簿が簡単になった代わりに税負担が増える可能性があるからです。
売掛金と未収入金を混同しない
翌期入金の処理では「売掛金」と「未収入金」がごちゃ混ぜになりやすいところです。
大まかに分けると、
通常の営業活動から発生した代金は「売掛金」。
本業以外の取引などから発生した未回収金は「未収入金」。
と考えるとわかりやすいでしょう。
たとえば商品販売、講師料、制作代金など本業の売上なら、通常は売掛金を使います。
一方、事業用の固定資産を売却して代金をまだ受け取っていない場合などは、未収入金を使うケースがあります。
名前は似ていますが、意味は同じではありません。
決済サービスからの振込が翌月でも注意が必要
ネット販売やオンラインサービスでは、さらにわかりにくくなります。
クレジットカード決済や決済代行会社を利用すると、
12月25日 顧客が決済
1月10日 決済会社から振込
ということがあります。
この場合も「自分の銀行口座に1月10日に入ったから1月売上」と単純には判断できません。
いつ商品を引き渡したのか、いつサービス提供が完了したのか、契約上いつ売上が成立するのかを確認します。
Amazon、楽天市場、Stripeなどを使っている場合でも同じです。
プラットフォームから振り込まれた日と、実際の売上が成立した日は別物になることがあります。
年末に決済サービスの未入金残高を確認しておくべき理由はここにあります。
決算・確定申告前に確認したいポイント
期をまたぐ売上では、私は次の項目を確認するのが安全だと考えています。
12月・決算月の請求書だけを見ない
まず確認するのは請求書ではなく、実際の取引です。
商品なら、
「いつ発送・引渡し・検収されたのか」
サービスなら、
「いつ仕事が完了したのか」
を確認します。
請求書の日付だけで判断すると簡単ですが、簡単な方法ほど年末には事故を起こします。
翌月入金の一覧を確認する
決算後、翌月に入金された金額を一覧にしてみる方法も有効です。
たとえば個人事業主なら1月の入金を確認します。
その中に、
「これは前年12月に終わった仕事ではないか?」
という入金があれば、前年の売上が漏れている可能性があります。
法人なら決算日の翌月について同じ確認をします。
売掛金残高と請求書を合わせる
決算日時点の売掛金残高と、未入金の請求書を照合します。
売掛金100万円なのに未入金請求書が50万円しかないなら、何かがおかしい。
逆に未入金請求書が100万円あるのに売掛金が50万円しかなければ、売上の計上漏れを疑うべきです。
地味ですが、この確認はかなり強力です。
毎年同じ基準で処理する
売上計上の基準は、合理的な方法を継続して使うことも重要です。
国税庁も商品の引渡しについて、出荷日、到着日、検収日などから、取引内容に応じて合理的な日を選び継続して使用する扱いを示しています。
利益が多い年だけ検収基準。
利益が少ない年だけ出荷基準。
こんな使い分けを始めると、会計処理ではなく利益調整に近づいてしまいます。
売上を翌期にずらしてしまった場合はどうする?
本来当期に計上する売上を翌期にしてしまった場合は、そのまま放置しないほうがいいでしょう。
すでに申告を提出した後に売上計上漏れが判明し、税額が不足している場合には、修正申告が必要になる可能性があります。
金額が小さいから大丈夫、と自己判断するのも危険です。
特に、
- 決算をまたぐ大口取引
- 毎年同じ取引先から翌月入金される取引
- 決済代行会社の未入金分
- 12月末や決算月末に完了した仕事
- 請求書の発行が翌月になる仕事
は確認しておいたほうがいいでしょう。
税額への影響が大きい場合や、売上成立日の判断が難しい契約については税理士や所轄税務署に確認するほうが安全です。
まとめ
売上金額の入金が来期になる場合でも、通常は入金日を基準に売上を翌期へ移すことはできません。
個人事業主なら、商品販売では原則として引渡しの日、請負やサービスでは原則として仕事を完成・提供した時期などを基準に収入を計上します。法人についても、資産の引渡しや役務提供が行われた事業年度に収益を計上するのが基本です。
したがって、当期中に売上が成立し、入金だけ翌期になる場合は、
売上成立時
売掛金 / 売上高
翌期入金時
普通預金 / 売掛金
という流れが基本です。
逆に、先にお金を受け取っていても、商品をまだ渡していない、サービスもまだ提供していないという場合は、前受金になることがあります。
結局のところ、銀行口座だけを見ても売上時期はわかりません。
見るべきなのは、
「お金がいつ動いたか」ではなく、「商品やサービスの提供がいつ成立したか」
です。
年度末になると、ほんの数日の違いが「今年の売上」なのか「来年の売上」なのかを分けます。面倒ではありますが、この数日を雑に処理しないことが、確定申告や決算で余計な修正を発生させない一番確実な方法です。
※本記事は一般的な税務・会計処理についての解説です。契約内容や取引形態によって売上計上時期が異なる場合があるため、個別の処理については税理士または税務署へ確認してください。
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