「日本には米があるはずなのに、なぜスーパーでは高いのか?」
令和の米騒動で、私が一番おかしいと感じたのはここだ。
2024年から2025年にかけて米の価格は急上昇し、店頭では5kg4,000円を超える価格が珍しくなくなった。その後、政府備蓄米の放出や供給増加によって価格は下がり始め、2026年7月13日の週には全国スーパー平均が5kg3,373円まで低下している。
しかし、これで問題が解決したと考えるのは早すぎる。
「農協が価格をつり上げた」「転売業者が米を隠した」「農家がもうけすぎた」など、さまざまな話が出た。しかし農林水産省の検証資料まで読むと、原因はもっと複雑だ。
結論から言えば、令和の米騒動はJAだけが起こした問題ではない。日本の米政策、需要予測、流通構造、備蓄制度、農業人口の減少が一気に表面化した事件だったと私は考えている。
しかも農林水産省自身が、需要を過小評価していたことや流通実態の把握が不十分だったことを認めている。これはかなり重い話だ。
一次情報:農林水産省「今般の米の価格高騰の要因や対応の検証」
では、令和の米騒動では一体何が起きていたのか。
令和の米騒動とは何だったのか
米不足ではなく「余裕がなくなった」ことが始まりだった
最初に押さえておきたいのは、「日本から突然米が消えた」という単純な話ではないことだ。
農林水産省によると、2024年6月末の民間在庫は153万トンだった。前年の197万トンから大幅に減っていた。
この153万トンという数字はかなり重要だ。
米は毎年秋に収穫される。当然、次の新米が出るまで前年の米を使う必要がある。在庫が減れば、少し需要が増えただけでも市場は敏感になる。
そこに2023年産米の高温障害が重なった。
農林水産省の検証では、高温障害などで精米歩留まりが悪化し、玄米から取れる精米量が減ったことが指摘されている。さらにインバウンド需要や家庭での米購入量も増えた。
つまり、
「収穫量だけを見れば足りそう」
でも、
「実際に食べられる精米量と需要を考えると余裕がない」
という状況になっていたわけだ。
人間社会では在庫が少ない商品ほど「まだあるから大丈夫」と言われ、なくなり始めてから全員が驚く。米でも同じことが起きた。
農水省自身が需要予測の失敗を認めた
ここは令和の米騒動を考えるうえで非常に重要だ。
農林水産省は人口減少などを前提として、「米の需要は今後も減っていく」という流れを基本に需要量を予測していた。
ところが実際には、インバウンド需要や家庭消費などによって需要が想定ほど減らなかった。
農水省の検証では、令和5/6年は需要量に対して40~50万トン程度、令和6/7年は20~30万トン程度、生産量が不足したと分析されている。結果として民間在庫を取り崩す形になった。
2025年8月には当時の農林水産大臣も、令和5年・6年の需給見通しを誤ったことが米騒動の一因だったとの認識を示している。
私はここが最大の問題だったと思う。
農家やJAだけを責める話ではない。
国の米政策そのものが「米需要は減り続ける」という前提に依存しすぎていたのだ。
なぜ米の価格は一気に高騰したのか
在庫減少が集荷競争を激化させた
米の在庫が減れば、卸売業者は当然焦る。
翌年まで販売する米を確保できなければ商売にならないからだ。
農水省の検証でも、民間在庫の減少によって「次年度の端境期に米が不足するのではないか」という不安が発生し、卸売業者などが新しい仕入れルートを開拓したり、スポット市場で比較的高い価格の米を調達したりしたと分析している。
こうなると米を集めるためには高値を提示する必要がある。
高値で仕入れれば、卸売価格も高くなる。
卸売価格が高くなればスーパーの価格も上がる。
要するに、
「米が足りないかもしれない」という不安が、価格上昇をさらに加速させた。
株式市場なら買いが買いを呼ぶ場面だが、今回は対象が日本人の主食だった。笑えない。
農協・JAは米価格高騰の犯人なのか
JAの「概算金」が米価格に影響するのは事実
米騒動ではJAの「概算金」がよく話題になった。
概算金とは、JAが農家から米を集める際に農家へ一時的に支払う金額だ。
JA全農によると、概算金は販売価格の見込み、運賃や保管料などの経費、集荷環境などを考えて県やJAごとに設定される。
一次情報:JA全農「米流通に関するファクトブック」
2025年産米では集荷競争が激しくなり、各地で概算金が大幅に上昇した。
農家から見れば、高い金額を提示してくれる相手に売るのは当然だ。
JAも米を確保するためには概算金を上げざるを得ない。
つまり、
JAが価格形成に影響を与えていることは確かだが、「JAが勝手に米価格を決めている」という説明では不十分だ。
概算金そのものも市場の集荷競争から影響を受けているからだ。
むしろJA以外の流通が増えたことも問題だった
さらに興味深いのがここだ。
農水省は今回の検証で、全農など大口集荷業者の取引を把握すれば米市場全体を把握できるという従来の考え方を続けていたため、流通構造の変化に対応できなかったと認めている。
農家から直接仕入れる業者、地域の集荷業者、ネット販売など、JAを通らない流通経路が増えていた。
しかし行政側の情報収集は、その変化に十分追いついていなかった。
これはかなり皮肉だ。
「JA中心の流通ではない時代」になっているのに、行政側の統計システムはJA中心だった時代の感覚を引きずっていたわけだ。
そのため市場のどこに米があり、いくらで取引されているのかが見えにくくなった。
令和の米騒動は、ある意味で日本の米流通システムが変化していることを行政が把握できなかった問題でもある。
備蓄米の放出はなぜ遅れたのか
「米は足りている」という判断が裏目に出た
政府は大量の備蓄米を保有している。
普通に考えれば、米価格が急騰しているなら備蓄米を出せばいい。
ところが実際の放出は遅れた。
農水省は、玄米ベースでは米が足りているとの認識を持ち、不作時に備蓄米を放出するという従来のルールを重視した。その結果、放出時期が遅れて価格上昇をさらに招いたと自ら検証している。
最終的に2025年3月から備蓄米の入札が始まり、その後は随意契約による販売も行われた。
そして備蓄米がスーパーなどに広がった後、米価格は下落へ向かった。農水省は、2025年5月頃をピークとして、6月以降は平均価格が低下したと分析している。
つまり備蓄米には一定の価格抑制効果があった。
だったらもっと早く使えなかったのか。
当然、この疑問は残る。
備蓄制度が存在していても、ルールが現実の市場変化に対応できなければ意味がない。
米が高くても農家が大もうけしているとは限らない
米農家にも重い生産コストがある
米5kgが4,000円を超えると、
「農家は相当もうかっているのでは?」
と思いたくなる。
しかし店頭価格がそのまま農家の収入になるわけではない。
農水省の統計では、2024年産米の60kg当たり全算入生産費は個別経営体で1万5,814円、組織法人経営体で1万2,090円だった。
一次情報:農林水産省「農林水産基本データ集」
ここには肥料、農薬、機械、燃料、土地、労働などさまざまな費用が含まれる。
特に小規模農家では大型農機を少ない面積で使うため、1kg当たりの生産コストが高くなりやすい。
つまり米価を無理に安くすれば消費者は助かるが、農家が消える。
逆に米価を高く維持しすぎれば消費者が米を買わなくなる。
このバランスが非常に難しい。
本当の深層問題は「日本農業そのものの弱体化」
農業従事者の平均年齢は69歳を超えている
令和の米騒動でもっと議論されるべきなのが、農家そのものの減少だと思う。
2024年の基幹的農業従事者は111万4千人。
さらに70歳以上が60.9%を占め、平均年齢は69.2歳だった。
これはかなり厳しい数字だ。
10年後、20年後に現在と同じ人数が米を作ってくれる保証などない。
高齢農家が離農すれば、農地を引き継ぐ人が必要になる。
しかも田んぼは土地を持っているだけでは米を作れない。
田植え機、コンバイン、乾燥機、トラクター、水管理、農道、用水路。
巨大な設備と地域インフラが必要だ。
米価格を「スーパーで安く買えるか」だけで考えていると、この問題を完全に見落としてしまう。
2026年には逆に「米余り」の問題が出てきた
令和の米騒動がさらに厄介なのは、不足の次に余剰問題が来ていることだ。
農水省によると、2026年6月末の民間在庫は243万トンとなり、前年の155万トンから88万トン増えた。2025年産米の生産量増加と需要減少などが主な理由だ。
価格も下落している。
令和7年産米の相対取引価格は2026年1月には60kg3万5,465円だったが、6月には3万1,305円まで下がった。
店頭価格も2026年7月13日の週には5kg3,373円まで下がった。
つまり日本の米市場は、
「足りないから増産しろ」
と言っていた直後に、
「余りそうだから価格が下がる」
という状況になっている。
農家からすればたまったものではない。
これこそ、現在の米政策最大の難題だ。
日本の米政策はどう変えるべきなのか
私は今回の米騒動から、少なくとも次の改革が必要だと思う。
- 米の生産量だけでなく、精米歩留まり・在庫・家庭消費・外食・インバウンドまで含めてリアルタイムに需給を把握する
- JAだけでなく商系業者や直接取引なども含め、流通量と価格の透明性を高める
- 備蓄米を「不作時だけ」ではなく、急激な需給変化にも柔軟に使える制度にする
- 農地の集約やスマート農業によって生産コストを下げる
- 農家が再生産できる価格と、消費者が購入できる価格を両立させる仕組みを作る
実際、農林水産省も今回の検証を受け、備蓄の柔軟活用、増産方向への政策転換、農地集積、スマート農業、需給見通しの改善、流通透明化などを今後の方向性として掲げている。
問題は、資料に書くだけで終わるのか、本当に実行できるのかだ。
日本の農政はそこを問われている。
まとめ|令和の米騒動は「農協問題」ではなく日本農業への警告だった
令和の米騒動を見ると、「JAが悪い」「政府が悪い」「農家が高く売ったからだ」と誰か一人を犯人にしたくなる。
しかし数字を追っていくと、そんな単純な話ではない。
高温による精米歩留まりの低下、インバウンドや家庭需要の増加、民間在庫の減少、需給予測の失敗、集荷競争、流通経路の変化、備蓄米放出の遅れ。
これらが重なって価格が急騰した。農水省自身も、需要予測や流通実態の把握、情報発信、備蓄米放出について問題があったと検証している。
そして、そのさらに奥には農業従事者の減少と高齢化という巨大な問題がある。
私は令和の米騒動を「一時的な米不足」で終わらせるべきではないと思う。
2026年には在庫が243万トンまで増え、今度は価格下落への警戒が必要になっている。
不足すれば消費者が苦しみ、余れば農家が苦しむ。
この極端な振れを小さくすることこそ、本来の農政の仕事だ。
令和の米騒動が本当に突きつけた問題は、米が高くなったことではない。日本がこれから先も、自分たちが食べる米を安定して作り続けられるのかという問題だ。
その答えを先送りすれば、次の「米騒動」は価格高騰だけでは済まないかもしれない。

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