「日本にはお金がない」「税収が足りないから増税は仕方がない」。ニュースや国会では、まるで決まり文句のように語られている。
しかし、本当に日本政府の金庫は空なのか? 国民から税金を集めなければ、政府は1円も使えないのか?
結論から言えば、現在の予算制度では税収だけで歳出を払えていない。だから、会計上は税収不足である。これは事実だ。
一方で、「税収が足りないから国はお金を使えない」「国の借金が増えたら、すぐに日本は破綻する」という説明は正確ではない。政府と家計を同じように考えると、日本財政の本当の問題を見失う。
私も以前は「国の借金は、国民全員で返さなければならない」と単純に考えていた。しかし、財務省や日本銀行の資料を読むと、話はそれほど簡単ではない。むしろ、分かりやすい言葉にまとめすぎた結果、重要な部分が消えている。
この記事では、「税収が足りない」という話のどこまでが真実で、どこからが誤解なのかを一次資料から整理する。
「税収が足りない」は数字だけ見れば本当である
2026年度予算の約4分の1は国債である
まず、国の一般会計予算を確認したい。
2026年度の一般会計歳出は、約122.3兆円である。これに対して、租税及び印紙収入は約83.7兆円、その他収入は約9兆円となっている。
残りの約29.6兆円は、国債の発行によって調達する予定だ。歳入全体に占める公債金の割合は24.2%である。つまり、国の予算の約4分の1は、新しい借金によって成り立っている。
この数字だけを見れば、「税収が足りない」という説明は間違いではない。
税収が83.7兆円ある一方で、歳出は122.3兆円ある。税収だけでは約38.6兆円足りない。その他収入を加えても不足するため、国債を発行している。
ただし、ここで注意が必要だ。
「現在の歳出を税収だけでは払えない」という話と、「政府に使えるお金が存在しない」という話は同じではない。この2つが、いつの間にか混ぜられている。
税収が増えても「不足」はなくならない
税収が増えれば、すぐに財政問題が解決するようにも見える。
しかし、実際には税収が増えても、それ以上に歳出が増えれば不足は続く。高齢化による社会保障費の増加、国債の利払い、防衛費、地方交付税など、国の支出には多くの項目がある。
2026年度予算では、社会保障費が約39.1兆円、国債費が約31.3兆円、地方交付税交付金等が約20.9兆円である。この3項目だけで、歳出の大部分を占めている。(財務省)
つまり、「税収が少なすぎる」というより、現在の制度と支出規模に対して税収だけでは足りないという表現のほうが正しい。
増税だけを議論しても、支出内容を変えなければ問題は終わらない。逆に、支出だけを乱暴に削れば、医療、年金、教育、公共事業などに影響が出る。
財政問題は、単なる節約ゲームではない。
政府の財政を家計と同じに考えるのは間違いである
家計は通貨を発行できない
家計は、働いて収入を得なければお金を使えない。足りなければ、預金を取り崩すか、銀行から借りる必要がある。
しかし、日本政府は円という自国通貨を使い、円建ての国債を発行している。国債を発行し、市場から資金を調達することで、税収を超える支出が可能になる。
もちろん、政府が自由に日本銀行から無制限に借りられるわけではない。財政法第5条では、日本銀行による国債の直接引受けは原則として禁止されている。日本銀行も、その理由として財政規律の低下や悪性インフレの危険を説明している。(日本情報オリンピック)
それでも、家計と政府には大きな違いがある。
家計は、自分が使う通貨を作れない。政府は法律、予算、国債発行、中央銀行制度を通じて、自国通貨の仕組みそのものを管理している。
そのため、「国の借金を国民1人当たりに割る」という説明にも注意が必要だ。
国民全員が金融機関から同じ金額を借りているわけではない。国債は政府の負債である一方、国債を持つ銀行、保険会社、年金基金、投資家にとっては資産になる。
政府の負債を国民の住宅ローンのように扱うのは、かなり雑な説明だ。
国債は満期のたびに全額を現金で消す必要はない
個人が住宅ローンを借りれば、返済期限までに収入から返済する必要がある。
一方、政府は満期を迎えた国債について、新しい国債を発行して借り換えることができる。現実の国債管理では、国債残高の全額を一度に返済するわけではない。
だから、「国債残高が1,000兆円を超えた。明日から国民が1,000兆円を返済しなければならない」という話ではない。
問題になるのは、残高そのものだけではなく、国債を買う人がいるか、金利はいくらか、経済が成長しているか、物価や通貨への信頼が保たれているかである。
借金の金額だけを叫んでも、財政の危険度は分からない。
日本はすぐに財政破綻するのか
日本国債の多くは国内で保有されている
日本銀行の2026年3月末の資料を見ると、国債等の保有割合は、中央銀行が42.21%、預金取扱機関が13.62%、保険・年金基金が16.42%、公的年金が6.39%となっている。
海外の保有割合は13.72%である。
日本国債の多くは、日本銀行や国内金融機関などによって保有されている。
海外投資家に大きく依存している国では、海外から資金が一気に逃げると、国債価格や通貨が急落する危険がある。日本にもその危険はあるが、外貨建て債務への依存が強い国とは状況が違う。
したがって、「国債残高が多いから、すぐに日本が支払い不能になる」と断定するのは無理がある。
ただし、「国内で保有されているから安全」という説明も極端だ。
国内で国債を持っていても、金利が上がれば政府の利払い費は増える。銀行や保険会社が保有する国債の価格が下がれば、金融機関にも影響が出る。
国内保有だから問題が消えるのではない。問題の形が変わるだけだ。
日本銀行が国債を持っていれば借金は消えるのか
日本銀行は国債等の約4割を保有している。これを見て、「政府と日本銀行をまとめれば、国債は事実上消える」と説明する人もいる。
確かに、政府が日本銀行へ支払った利息の一部は、日本銀行の利益を通じて国庫納付金として政府に戻る。この点では、民間や海外に利息を払う場合とは違う。
しかし、国債そのものが完全に消えたわけではない。
日本銀行が国債を購入すると、金融機関の日銀当座預金などが増える。政府の負債が、別の形の公的な負債に変わった面がある。
さらに、金利が上昇すると、日本銀行が金融機関へ支払う当座預金への利息が増える可能性がある。日本銀行の利益が減れば、国庫納付金も減る。
「日銀が持てば全部無料」という話は、さすがに都合が良すぎる。人間は無料という言葉を見ると、急に計算をやめる。
日本政府には資産があるから問題ないのか
国の資産は約783兆円ある
財務省の「国の財務書類」によると、2024年度末の国の資産合計は約783.4兆円である。
一方、負債合計は約1,483.3兆円であり、資産と負債の差額は約マイナス699.9兆円となっている。(財務省)
「政府には資産もあるのだから、借金だけを見せるのはおかしい」という意見には一理ある。
国の財政状態を見るなら、負債だけでなく、現金、有価証券、貸付金、外貨資産、固定資産、出資金なども確認するべきだ。
ただし、資産783兆円をすべて売って、国債返済に使えるわけではない。
道路、河川、庁舎、防衛施設などは、国民生活や行政に必要である。売却できない資産も多い。また、外貨資産や貸付金には、それに対応する負債が存在する場合もある。
「国には資産があるから借金はゼロと同じ」という説明も正しくない。
正しい見方は、政府には大きな資産があるが、それを差し引いても負債超過であり、しかもすぐに現金化できない資産が多いというものだ。
都合のよい数字だけを取り出せば、財政危機にも財政無敵にも見せられる。数字は悪くない。使う人間がだいたい欲張りなのである。
税金は政府の支出に本当に必要なのか
現在の制度では税金は重要な財源である
日本の予算制度では、税収は政府支出を支える中心的な財源である。
2026年度の一般会計でも、租税及び印紙収入は歳入の68.5%を占める。税収が大きく減れば、国債発行を増やすか、支出を削るか、別の収入を確保する必要がある。
したがって、「税金は財源ではない」と断定するのは危険だ。
少なくとも、現在の法律と予算制度の中では、税金は明確に財源として扱われている。
ただし、税金の役割は、政府がお金を使うためだけではない。
税金には物価と格差を調整する役割がある
政府が支出を増やすと、民間にお金が流れる。
しかし、国内で作れる商品やサービス、人材、設備には限界がある。供給できる量を超えて需要だけが増えれば、物価が上がる。
そこで税金によって民間からお金を回収すれば、需要を抑えることができる。
また、所得税や相続税には格差を調整する役割がある。たばこ税や環境関連税には、人や企業の行動を変える目的もある。
税金には、少なくとも次の役割がある。
1つ目は、公共サービスを支えるための財源である。
2つ目は、景気や物価を調整することである。
3つ目は、所得や資産の格差を調整することである。
4つ目は、国民に円で納税する義務を持たせ、通貨への需要を作ることである。
そのため、「政府は通貨を発行できるから税金は不要」という話にはならない。
政府がお金を出せることと、何にいくら出しても問題がないことは別だ。
本当の限界は税収ではなく供給力とインフレである
お金を発行しても人や物は増えない
政府が予算を増やせば、数字の上では多くの事業を行える。
しかし、医師が足りなければ、医療予算だけ増やしても医療サービスは増えない。建設作業員や資材が足りなければ、公共事業費を増やしても工事費が上がるだけになる。
半導体、エネルギー、食料などを海外から輸入している場合、円安が進めば輸入価格が上がる。
政府が作れるのは通貨であって、医師、介護士、教師、農作物、電気、住宅ではない。
したがって、財政支出の本当の限界は、国の生産力、人材、設備、資源、輸入能力、インフレ率にある。
税収が足りるかだけを見ていても、経済の限界は判断できない。
無制限の国債発行はできない
「自国通貨建てなら財政破綻しない」という説明は、一部では正しい。
日本政府が円そのものを完全に失い、技術的に円建て国債を支払えなくなる可能性は、外貨建て債務を抱える国より低い。
しかし、支払えることと、通貨の価値を守れることは別である。
国債発行と支出を無制限に増やせば、インフレ、円安、金利上昇、輸入価格上昇などが起きる可能性がある。
財務省の試算でも、将来の金利上昇は国債費を増やす要因として扱われている。2026年度予算の積算金利は3.0%で、その後の試算では3%台への上昇を想定したケースも示されている。(財務省)
つまり、日本の財政には限界がある。
ただし、その限界は「税収を1円超えた瞬間」ではない。物価、金利、為替、供給力、市場の信頼などを総合的に見て判断するべきだ。
「国の借金は将来世代へのツケ」は半分だけ正しい
国債は将来世代に資産も残す
国債で道路、学校、防災設備、研究開発、エネルギー設備などを整備すれば、将来世代はその効果を受ける。
国債発行によって景気の悪化を防ぎ、失業や企業倒産を減らせる場合もある。
このような支出まで、すべて「将来世代への迷惑」と扱うのはおかしい。
将来世代には国債という負債だけでなく、インフラ、技術、教育、企業、人材なども残る。
大切なのは、借金をしたかどうかではなく、何に使ったかである。
無駄な支出と利払い負担は将来に残る
一方で、効果の低い事業や一時的な人気取りに国債を使えば、将来には負担だけが残りやすい。
金利が上昇すれば、税収の多くを利払いに回す必要が出る。そうなれば、教育、子育て、科学技術、防災などに使える予算が減る。
また、国債発行によるインフレが起きれば、現金や預金を持つ人の購買力が下がる。
したがって、「国債は将来世代への負担ではない」と言い切ることもできない。
正確には、国債の負担は金額だけでは決まらず、使い道、金利、成長率、物価、保有者によって変わる。
増税か積極財政かという二択がおかしい
必要な支出と不要な支出を分けるべきである
財政議論では、「増税して財政再建する側」と「国債を発行して積極財政をする側」に分かれやすい。
しかし、本来は支出ごとに判断するべきだ。
災害復旧、教育、子育て、研究開発、老朽インフラ対策など、将来の生産力や安全性を高める支出は、国債を使ってでも行う価値がある場合がある。
一方で、効果が分からない補助金、利用者が少ない施設、複雑すぎる事業には厳しい評価が必要だ。
「国債はすべて悪い」「政府支出はすべて正しい」。どちらも思考停止である。
税制の公平性も議論する必要がある
税収不足を理由に増税する場合でも、誰が負担するのかが重要だ。
消費税は広く負担を求められる一方、所得が低い人ほど負担感が大きくなりやすい。所得税、法人税、金融所得課税、資産課税には、それぞれ違う効果と問題がある。
単に「財源が必要だから増税する」では足りない。
どの税を増やすのか。誰の負担が増えるのか。景気や消費にどのような影響があるのか。集めた税金を何に使うのか。
ここまで説明して、初めてまともな財政議論になる。
まとめ
「税収が足りない」という説明は、完全な嘘ではない。
2026年度予算では、一般会計歳出約122.3兆円に対し、税収は約83.7兆円である。その他収入を加えても不足し、約29.6兆円を国債で調達する。現在の予算制度では、税収だけで支出を賄えていない。(財務省)
しかし、そこから「日本政府は家計と同じ」「国債は国民全員の借金」「税収がなければ政府は何もできない」「日本はすぐ破綻する」と結論づけるのは間違いだ。
日本政府は自国通貨建てで国債を発行している。国債の多くは国内や日本銀行が保有している。国には資産もある。満期になった国債は借り換えることもできる。
だからといって、国債を無制限に増やしてよいわけでもない。
本当の制約は、インフレ、金利、円の信用、人材、設備、エネルギー、食料などの供給力にある。国債の危険性は残高だけでは決まらない。
私が一次資料を読んで感じたのは、日本財政には「完全な嘘」よりも、都合のよい半分だけを見せる説明が多いということだ。
財政危機を強調する側は、政府の資産や自国通貨建て国債の特徴を小さく扱う。積極財政を主張する側は、インフレ、金利、円安、供給力の限界を軽く扱う。
日本に必要なのは、「お金がない」という脅しでも、「いくら使っても平気」という夢物語でもない。
何に使えば経済と生活が良くなるのか。どの税を誰が負担するのか。国債発行による利益と危険をどう管理するのか。
この中身を数字で判断するべきだ。
「税収が足りない」という一言で議論を終わらせるのは簡単である。しかし、簡単な説明ほど、大事な事実を隠している。

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