「SAN値が削れる」「SAN値ピンチ」「SAN値直葬」。
SNSや動画のコメント欄を見ていると、ときどきこんな謎の言葉が飛び交っている。
知らない人からすれば、「SANって何の単位だ?」「体力?メンタル?」「直葬って何を葬るんだ?」となるのも当然だろう。
しかも厄介なのは、「SAN値」が今では普通のネットスラングのように使われていることだ。本来の意味を知らなくても、ショッキングな画像を見て「SAN値が減った」と書く人までいる。
では、そもそもSAN値とは何なのか?
結論から言えば、SAN値はホラーTRPG『クトゥルフ神話TRPG』で使われる「正気度(Sanity)」を表す言葉だ。
そして「SAN値直葬」は、そのSAN値が一気に吹き飛びそうなほど恐ろしいものを見たときに使われるネットスラングである。
ただし、調べていくと「SAN値」という言葉自体にも少し注意が必要だった。公式用語とネット文化が混ざり、かなり独自の進化をしているからだ。
SAN値とは何?意味を簡単に説明すると「心のHP」
SAN値とは、英語の「Sanity(正気)」から来た言葉である。
『クトゥルフ神話TRPG』では、キャラクターが恐ろしい怪物や異常な出来事に遭遇したとき、精神的なショックに耐えられるかどうかを数値で表す。
私なら、初心者には**「心のHP」**と説明する。
敵に殴られれば体力が減る。
それと同じように、
「人間では説明できない怪物を見た」
「理解できない超常現象に遭遇した」
「知人の恐ろしい死体を発見した」
といった経験をすると、正気度が減っていく。
KADOKAWAの『クトゥルフ神話TRPG』公式サイトでも、正気度について「精神の耐久力」と説明されている。
要するに、
HP=肉体がどれだけ耐えられるか
SAN=精神がどれだけ耐えられるか
と考えればかなり分かりやすい。
ただし、後述するように、実際のメンタルヘルスを数値化したものではない。あくまでホラーゲームを楽しむための仕組みだ。
SANは何の略?
SANは「Sanity」の略である。
Chaosiumの公式ルールでも「Sanity(SAN)」という表記が使われている。
Sanityには、
・正気
・健全な精神状態
・正常な判断力
といった意味がある。
つまり「SAN値」をかなり直訳すると、「正気の数値」くらいの意味になる。
ネットで使われる「もうSAN値がない」という表現も、元の意味を知れば分かりやすい。
「もう正気を保てない」というネタなのである。
SAN値はどこの用語?元ネタはクトゥルフ神話TRPG
SAN値の元をたどると、『クトゥルフ神話TRPG』に行き着く。
英語では『Call of Cthulhu』と呼ばれるTRPGだ。
Chaosiumによると、『Call of Cthulhu』はゲームデザイナーのサンディ・ピーターセンによって作られ、1981年に初めて発売された。
つまり40年以上の歴史を持つゲームである。
ネットスラングとして見ると新しい言葉に感じるが、根っこのゲームはかなり古い。
そもそもクトゥルフ神話とは?
『クトゥルフ神話TRPG』は、H・P・ラヴクラフトなどの作品をもとに作られたホラーTRPGである。
この世界では、人間よりはるかに強大で、人間の常識では理解できない存在が登場する。
ここが普通のファンタジーRPGとはかなり違う。
勇者が剣を持って巨大な魔王を倒す。
そんな気持ちのいい話になるとは限らない。
むしろ、「知ってはいけないものを知ってしまった」「人間では理解できない存在を見てしまった」という恐怖そのものがゲームの重要なテーマになっている。
そこで登場するのが正気度だ。
強い怪物を見ても「HPが100あるから問題なし」とはならない。
見ただけで精神が削られる。
場合によっては戦闘が始まる前からおかしくなる。
なかなか容赦がないゲームである。
だが、私はこの仕組みこそ『クトゥルフ神話TRPG』が普通のRPGと大きく違う理由だと思う。
「SAN値」は実は正式名称ではなく通称
ここは意外と重要だ。
ネットでは当たり前のように「SAN値」と呼ばれているが、日本の『クトゥルフ神話TRPG』公式サイトでは、**「正気度(通称SAN値)」**と説明されている。
つまり、
「SAN値」
という日本語そのものが正式な能力値名というわけではない。
正式には「正気度」「正気度ポイント」と考えたほうが正確だ。
とはいえ、SANという略称そのものは英語版公式ルールでも使われている。
そのため、
正気度・Sanity・SAN
ここまではゲーム本来の表現。
そこから日本のプレイヤーやネット利用者の間で、
SAN+値=SAN値
という分かりやすい呼び方が広がった、と理解するとよい。
今では公式サイト自身も「通称SAN値」と説明するほど定着している。
人間、正式名称より短くて分かりやすい言葉があれば、だいたいそちらを使う。実にネットらしい進化である。
SAN値はどうやって減る?
『クトゥルフ神話TRPG』では、恐ろしい出来事に遭遇すると〈正気度〉ロールを行う。
現在の正気度を基準に、100面ダイス相当の判定をする仕組みだ。
例えば現在のSANが50なら、基本的には50以下を出せるかどうかが重要になる。
成功すれば精神的ダメージが小さくなり、失敗するとより大きく正気度を失うことがある。
Chaosium公式ルールでも、現在のSanityを基準にパーセントロールを行い、その結果によって失うSANポイントが変化すると説明されている。
一気に減ると「狂気」に陥ることもある
問題は、SANが単純に減るだけでは終わらないことだ。
『新クトゥルフ神話TRPG』では、1回の正気度ロールによって5ポイント以上を失った場合、さらに判定が発生し、一時的狂気に陥る可能性がある。
幻覚を見る。
その場から逃げ出す。
叫ぶ。
動けなくなる。
異常な行動を取ってしまう。
こうした展開そのものがゲームの一部になる。
つまりSANは単なる飾りの数字ではない。
減れば減るほどゲーム展開そのものが危なくなっていく重要な数値なのだ。
SAN値が0になるとどうなる?
正気度が減り続け、0になった場合はさらに深刻だ。
日本の公式解説では、正気度ポイントがゼロになると「回復困難な永久的狂気」に陥ると説明されている。
だからこそ、プレイヤーはSANが大きく減る場面で騒ぐ。
「これはSANが飛ぶ」
「SANチェックだ」
「もうSAN値ゼロだろ」
こうした表現がネット文化にもそのまま持ち込まれていったわけだ。
「SANチェック」とは何?
SAN値と一緒によく見るのが「SANチェック」という言葉だ。
意味としては、恐ろしいものを見たときに行う正気度の判定を指している。
ただし公式の日本語表記では、基本的に**〈正気度〉ロール**と呼ばれる。
そのため「SANチェック」も、プレイヤー間で使われている通称として考えたほうが分かりやすい。
ネットではさらに意味が広がっている。
例えば不気味な画像が貼られていて、
「閲覧前にSANチェック」
と書いてあった場合、本当にサイコロを振れという意味ではない。
「かなり怖いぞ」
「精神的に来るぞ」
くらいの意味だ。
SAN値直葬とは?「産地直送」をもじったネットスラング
そして問題の言葉が「SAN値直葬」である。
読み方は、
さんちちょくそう
だ。
もう気付いた人もいるだろう。
「産地直送」とほぼ同じ読み方になっている。
つまり「SAN値直葬」は、「産地直送」をもじったネットスラングだ。
「葬」という漢字が入っているのがポイントである。
SANが少し減るのではない。
恐怖や衝撃によって、一気に正気を葬られる。
そんな強烈な状態をネタとして表現している。
現在では『クトゥルフ神話TRPG』公式サイトでも、「SAN値直葬」という言葉をネットで見かける表現として紹介している。
ただし、「SAN値直葬」という言葉自体がTRPGの正式なルール用語というわけではない。
ここは勘違いしないほうがいい。
SAN値直葬はどんなときに使う?
ネットでは、
・ものすごく怖いホラー画像を見た
・不気味すぎる映像を見た
・意味を理解すると怖い作品を見た
・クトゥルフ神話の異形の存在を見た
・予想外のグロテスクな場面が出てきた
といったときに使われる。
例えば、
「この画像はSAN値直葬すぎる」
なら、
「怖すぎて一瞬で正気を失いそう」
という意味になる。
もちろん本当に精神状態を測っているわけではない。
かなり大げさなネット表現だ。
そこまで恐ろしくない画像に対して「SAN値直葬」と書くこともあるので、実際には「怖い」「キモい」「理解できない」「衝撃的」といった感情を面白く表現する言葉として使われている。
「SAN値が削れる」と「SAN値直葬」の違い
この2つは似ているが、強さが違う。
「SAN値が削れる」
なら、少しずつ精神的ダメージを受けている感じだ。
対して、
「SAN値直葬」
になると、一撃で持っていかれる感じになる。
例えば不気味な廃墟動画を見続けているなら、
「SAN値が削れる」
突然とんでもなく恐ろしいものが画面いっぱいに表示されたなら、
「SAN値直葬」
という使い分けが近い。
ゲーム的に言えば、大量のSANを一気に失うイメージである。
「SAN値ピンチ」「SAN値ゼロ」もネットで使われる
SAN値からは、ほかにも多くのネット表現が生まれている。
SAN値ピンチ
「SAN値ピンチ」は、正気度がかなり危険な状態を表す言葉だ。
ゲームだけでなく、
「仕事が多すぎてSAN値ピンチ」
「ホラーゲームを3時間やってSAN値ピンチ」
のように日常的なネタにも使われる。
かなり意味が軽くなっているのが分かる。
SAN値が削れる
精神的に疲れる、怖い、不快、つらいといった状態をゲーム風に表現した言葉だ。
「月曜日の朝からSAN値が削れる」
などと使われる。
もはやクトゥルフ要素はほぼない。
だが元をたどれば全部同じ正気度システムにつながっている。
SAN値ゼロ
「もう正気ではいられない」という大げさな表現として使われる。
ゲームではSAN0は非常に重大だが、ネット上では単なるジョークとして使われることも多い。
この温度差は理解しておいたほうがいい。
SAN値を現実の精神状態と同じものだと思うのは間違い
SAN値について調べていて、私はここは分けたほうがいいと思った。
SANは、現実の人間の精神状態を医学的に表す数値ではない。
Chaosium公式も、Sanityというゲームシステムについて、現実世界のメンタルヘルスの状態を再現したり軽視したりする目的のものではないと明確に説明している。
つまり、
「SAN値が低い人」
「SAN値ゼロの人」
などと現実の精神疾患や人間そのものを評価する言葉として使うのは、本来の意味から外れている。
ネットスラングとして、
「怖すぎてSAN値減った」
くらいに使うなら意味は通じる。
だが、実際の病気や精神状態と混同する必要はまったくない。
ゲームの正気度は、あくまでホラー作品の恐怖を表現するゲームシステムだ。
なぜSAN値という言葉だけネットでここまで広まったのか?
少し面白いのは、『クトゥルフ神話TRPG』を遊んだことがなくてもSAN値という言葉だけ知っている人がいることだ。
理由はかなり単純だと思う。
「精神的ダメージ」を数字で表せるからだ。
怖いものを見る。
SANが減る。
もっと怖いものを見る。
さらにSANが減る。
限界を超える。
SAN値直葬。
非常に分かりやすい。
しかもゲームを知らなくても、なんとなく意味が伝わる。
ネットスラングとして強すぎる構造である。
その結果、「SAN値」はクトゥルフ神話TRPGのプレイヤーだけの言葉ではなく、ホラーゲーム、アニメ、漫画、SNS、動画コメントなどへ広がっていった。
今では「SAN値直葬」という言葉を先に知り、あとからクトゥルフ神話TRPGを知る人すらいる。
元のゲーム用語がネットミームになり、そのネットミームが元の作品への入口になる。
なかなか面白い逆輸入だ。
まとめ|SAN値はクトゥルフ神話TRPGの「正気度」から生まれた言葉
SAN値とは、『クトゥルフ神話TRPG』で使われる正気度(Sanity/SAN)を表す通称である。
恐ろしい怪物や理解できない出来事に遭遇すると正気度が減り、大きく失えば狂気に陥る可能性がある。
「SAN値」を簡単に覚えるなら、
心のHP
と考えると分かりやすい。
そしてネットでよく見る「SAN値直葬」は、「産地直送」をもじったスラングだ。
あまりにも恐ろしいものや衝撃的なものを見て、
「SAN値が一瞬で吹き飛んだ」
という状態を大げさに表現している。
整理すると、
・SAN=Sanity(正気)
・SAN値=正気度を表す通称
・SANチェック=正気度ロールを指す通称
・SAN値が削れる=精神的にダメージを受ける
・SAN値ピンチ=正気度が危ない
・SAN値直葬=一撃で正気を持っていかれそうなほど衝撃的
という意味になる。
ただのネット用語だと思っていた「SAN値」の奥には、1981年から続くホラーTRPGのゲームシステムがある。
「SAN値直葬」というふざけた言葉まで誕生したあたり、日本のネット文化は妙なところで言葉遊びへの執念が強い。
それでも、次にSNSで「SAN値が削れる」というコメントを見たときは、もう意味に迷うことはないはずだ。
それは「正気を保てるか?」という、クトゥルフ神話TRPGの恐怖を表す言葉なのである。
【一次情報・参考】
クトゥルフ神話TRPG公式サイト「正気度(通称SAN値)について」 クトゥルフ神話TRPG公式サイト
Chaosium公式「Sanity(SAN)」 Call of Cthulhu RPG Wiki・Sanity
Chaosium公式「What is Call of Cthulhu」 Call of Cthulhu公式解説

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