「障害年金を受給している人は、65歳になれば老齢年金も追加でもらえる」
こう聞くと、障害年金に老齢年金が丸ごと上乗せされ、毎月の年金額が一気に増えるように感じるかもしれない。
しかし、残念ながらそこまで単純ではない。
公的年金には「1人1年金」という原則があり、障害年金と老齢年金を何でも自由に重ねて受給できるわけではないからだ。
ところが、65歳になると話が少し変わる。
障害基礎年金を受給しながら、自分の老齢厚生年金を受け取れるケースがある。
つまり、「65歳になっても何も増えない」と決めつけるのも間違いだ。
私もこの制度を確認していて、もっと単純な仕組みにできなかったのかと思う。年金制度は、なぜか重要な部分ほど組み合わせ問題にしてくる。
では、障害年金を受給している人が65歳になると、実際には何が変わるのか。
2026年8月時点の日本年金機構の情報をもとに、できるだけわかりやすく整理する。
障害年金受給者は65歳になったら追加で年金をもらえる?
結論から言えば、追加でもらえる人はいる。ただし、全員ではない。
特に重要なのが「障害基礎年金+老齢厚生年金」という組み合わせだ。
日本年金機構は、65歳以後について、障害基礎年金と自分の老齢厚生年金をあわせて受給できる仕組みを案内している。
65歳になるだけで年金が自動的に上乗せされるわけではない
ここは最初に押さえておきたい。
65歳になった瞬間、
「障害年金10万円+老齢年金7万円=17万円」
というように、すべての年金が自動的に足される仕組みではない。
公的年金では、老齢・障害・遺族といった支給理由が違う年金を複数受けられる場合、原則としてどれかを選択する。
ただし、65歳以後には例外がある。
この例外こそが、障害年金受給者にとって非常に重要になる。
65歳以後は「障害基礎年金+老齢厚生年金」を選べる
65歳になった障害年金受給者が特に確認したいのが、自分に老齢厚生年金の受給権があるかどうかだ。
会社員や公務員などとして厚生年金に加入した期間がある人なら、条件を満たせば65歳から老齢厚生年金を受給できる。
そして65歳以後は、障害基礎年金と老齢厚生年金を同時に受給できる。
これはかなり大きい。
障害基礎年金を受給している人は老齢厚生年金が追加される可能性がある
たとえば、障害基礎年金を受給している人に会社員として働いた期間があり、65歳から老齢厚生年金を月4万円受給できるとする。
65歳以後に条件を満たせば、
障害基礎年金
+
老齢厚生年金
という形を選択できる。
この場合は、実質的に65歳から受取額が増える可能性がある。
「障害年金受給者は65歳になったら追加で年金をもらえるのか?」という質問に対して、YESになる代表的なケースがこれだ。
障害基礎年金と老齢基礎年金は両方もらえない
では、障害基礎年金に老齢基礎年金も追加できるのだろうか。
これはできない。
ここが非常に紛らわしい。
日本年金機構も、65歳以後であっても障害基礎年金と老齢基礎年金をあわせて受給することはできないと明記している。
「基礎年金+基礎年金」はできない
老齢基礎年金は、原則として受給資格期間が10年以上ある人が65歳から受給できる年金だ。
しかし、すでに障害基礎年金を受給しているからといって、
障害基礎年金
+
老齢基礎年金
という二重取りはできない。
どちらかを選ぶことになる。
そのため、厚生年金への加入歴がほとんどない人では、65歳になっても年金額が大きく増えないケースがある。
ここを知らずに「65歳になれば老齢年金が追加される」と思っていると、実際の金額を見て驚く可能性が高い。
障害厚生年金を受給している人はどうなる?
障害厚生年金を受給している人は、さらに少し複雑になる。
障害厚生年金を受けている人は、通常、障害基礎年金と障害厚生年金を組み合わせて受給しているケースがある。
65歳になって老齢基礎年金と老齢厚生年金の受給権も発生すると、複数の組み合わせから選択することになる。
日本年金機構が示している代表的な組み合わせは次の3つだ。
- 老齢基礎年金+老齢厚生年金
- 障害基礎年金+障害厚生年金
- 障害基礎年金+老齢厚生年金
つまり、65歳になったら障害年金を強制的に老齢年金へ変更するわけではない。
障害年金を継続する選択肢も残る。
さらに、障害基礎年金を残しながら老齢厚生年金を受け取るという「混合型」も選択できる。
ここが65歳以後の大きな特徴だ。
どの組み合わせが一番得なのか?
では、どれを選択すればよいのか。
これは人によって違う。
たとえば、
障害基礎年金+障害厚生年金が年間140万円
老齢基礎年金+老齢厚生年金が年間130万円
障害基礎年金+老齢厚生年金が年間155万円
だったとする。
この場合、単純な受給額だけを比べれば「障害基礎年金+老齢厚生年金」が有利になる。
ところが、実際には税金なども考える必要がある。
障害年金は原則非課税だが老齢年金は課税対象になることがある
日本年金機構は、障害年金には税金がかからない一方、老齢年金には税金がかかる場合があると説明している。
そのため、
「年金額が年間5万円高いから絶対こちら」
と金額だけで決めるのは少し危険だ。
所得税や住民税、社会保険料などへの影響まで含めると、手取り額が変わる可能性がある。
私は、こうした制度では「額面の年金額」より「最終的に残る金額」で比べるべきだと思っている。
年間数万円の違いなら、税金などを含めて確認した方が安全だ。
会社員として働いた期間がある人ほど65歳で変化しやすい
65歳以後の年金額を大きく左右するのが厚生年金への加入期間だ。
老齢厚生年金は、老齢基礎年金を受給できる人に厚生年金への加入期間がある場合、加入期間や過去の報酬などに応じて支給される。
障害基礎年金だけの人でも厚生年金加入歴を確認したい
現在「障害基礎年金しか受給していないから、自分には厚生年金は関係ない」と考えるのは早い。
障害年金を受給する原因となった病気やけがの初診日時点では国民年金だったとしても、それ以前やそれ以後に会社員として厚生年金へ加入していた期間があるかもしれない。
その期間から老齢厚生年金が発生する可能性がある。
障害基礎年金の種類だけを見るのではなく、これまでの厚生年金加入記録を見ることが重要だ。
ねんきんネットなどで加入記録と将来の老齢年金見込額を確認しておく価値は高い。
自営業中心だった人は65歳になっても増えない場合がある
反対に、長期間ずっと自営業などで国民年金のみだった人は注意したい。
65歳になると老齢基礎年金の受給権が発生する可能性はある。
しかし、
障害基礎年金+老齢基礎年金
という組み合わせはできない。
そのため、現在の障害基礎年金を選択した方が有利であれば、65歳になっても障害基礎年金をそのまま受給する形になることがある。
つまり、65歳になったからといって必ず収入が増えるわけではない。
「厚生年金に入っていた期間があるか」がかなり重要になる。
65歳になれば誰でも老齢年金をもらえるわけではない
もう一つ忘れてはいけないのが、老齢年金そのものの受給条件だ。
老齢基礎年金は、保険料納付済期間や保険料免除期間などを合計した受給資格期間が原則10年以上必要になる。
障害年金を受給しているから、自動的に65歳から老齢年金も発生するという仕組みではない。
自分の年金加入記録に応じて老齢年金の受給権が決まる。
年金制度は「65歳」という数字だけを見ても答えが出ない。加入期間まで確認しないと判断できないのだ。
65歳になったら障害年金は打ち切られる?
「65歳になると障害年金が老齢年金へ切り替わって、障害年金はなくなるのでは?」
これもよくある疑問だ。
しかし、65歳になったという理由だけで、障害年金を老齢年金へ強制的に変更する仕組みではない。
65歳以後も条件を満たしていれば、障害年金を選択できる。
日本年金機構が65歳以後について「老齢基礎年金+老齢厚生年金」「障害基礎年金+障害厚生年金」「障害基礎年金+老齢厚生年金」という複数の組み合わせを示していることからも分かる。
ただし、有期認定となっている障害年金では、障害状態確認届などによる審査が続く場合がある。
65歳になったことと、障害状態の認定が続くかどうかは別の問題として考える必要がある。
65歳になったら手続きが必要になる場合がある
年金は、受給できる年齢になれば行政が勝手に一番有利な組み合わせへ変更してくれる。
そんな便利な制度ならよかったのだが、残念ながらそうではない。
老齢年金は受給権が発生しただけで自動的に支給開始されるものではなく、原則として請求手続きが必要になる。
障害年金と老齢年金の両方の受給権がある場合には、組み合わせによって「年金受給選択申出書」の提出が必要になる。
65歳になる前に年金事務所で試算してもらうのがおすすめ
ここはかなり重要だ。
65歳が近づいたら、
現在の障害年金を続けた場合
老齢年金へ変更した場合
障害基礎年金+老齢厚生年金にした場合
それぞれいくらになるのかを確認した方がよい。
自分で計算するより、年金事務所などで実際の加入記録を使って確認する方が確実だ。
「一番高そうだから」という感覚だけで選ばない方がいい。
障害年金受給者は老齢年金を繰下げできる?
65歳になると「老齢年金を75歳まで繰下げれば増額できる」と考える人もいるだろう。
通常の老齢年金では、66歳以後75歳まで繰下げ受給を選択できる。
しかし、障害年金の受給権がある人には重要な制限がある。
2026年8月12日更新の日本年金機構の案内では、65歳から66歳になるまでの間に障害給付や遺族給付の受給権がある場合、原則として老齢年金の繰下げ申出はできない。
ただし例外がある。
障害基礎年金だけの受給権がある人は、老齢厚生年金について繰下げ受給を選択できる。
ここもかなり複雑だ。
「障害年金をもらっているから繰下げは全部無理」と決めつけるのも、「普通の人と同じように全部繰下げできる」と考えるのも正しくない。
自分が障害基礎年金だけなのか、障害厚生年金もあるのかによって扱いが変わる。
65歳前に確認しておきたい3つの数字
年金の名称ばかり見ていると、だんだん何の話をしているのか分からなくなる。
実際に重要なのは金額だ。
65歳が近づいたら、少なくとも「現在の障害年金額」「65歳からの老齢基礎年金見込額」「65歳からの老齢厚生年金見込額」の3つを確認しておきたい。
この3つが分かれば、自分がどの組み合わせを選べるのか、どれが有利そうなのかがかなり見えやすくなる。
特に老齢厚生年金がある人は重要だ。
障害基礎年金と組み合わせて受給できる可能性があるからだ。
まとめ|障害年金受給者は65歳から年金が増える可能性がある
障害年金受給者が65歳になったからといって、老齢年金が丸ごと自動追加されるわけではない。
ここを勘違いすると話が大きくずれる。
一方で、65歳以後には特例があり、障害基礎年金+老齢厚生年金を同時に受給できる可能性がある。
会社員などとして厚生年金へ加入していた期間がある人なら、65歳から実際の受取額が増えるケースも十分に考えられる。
反対に、障害基礎年金と老齢基礎年金は同時に受給できない。そのため、国民年金だけで厚生年金加入歴がない人では、65歳になっても単純な上乗せが発生しないこともある。
そして障害厚生年金まで受給している人なら、老齢年金と障害年金の複数の組み合わせを比較する必要が出てくる。
65歳は「障害年金が終わる年齢」ではない。
むしろ、どの年金を、どの組み合わせで受け取るのかを改めて判断する年齢と考えた方が近い。
年金額、加入記録、税金、繰下げの可否まで条件は人によって違う。65歳が近づいた段階で、ねんきんネットや年金事務所で自分の老齢年金見込額まで確認しておくべきだ。
制度を知っているだけで年金が増えるわけではない。
しかし、選べる組み合わせを知らなければ、本来選択できた受給方法を見落とす可能性はある。そこだけは避けたいところだ。

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