「戦争が始まった。株を全部売ったほうがいいのでは?」
イスラエルとイランの衝突に米国が本格介入し、原油価格や株式市場が大きく動いている。ニュースを見るたびに不安になり、投資をやめたくなる人もいるはずだ。
しかし、本当に警戒すべきなのは戦闘そのものだけではない。ホルムズ海峡の物流、原油価格、米国の長期金利、そしてインフレの再加速だ。
逆にいえば、この流れを冷静に見れば投資チャンスも見えてくる。
私は、戦争が起きたから株を全部売るという判断には反対だ。重要なのは、相場が下がるかを当てることではない。「どの経路で企業利益が悪化するのか」を考えることだ。
この記事では、2026年8月1日時点の状況をもとに、イスラエル・イラン衝突と米国介入が株式市場へ与える影響を分かりやすく解説する。
イスラエル・イラン衝突と米国介入で何が起きているのか
米国はすでに「支援」ではなく当事国になっている
今回の問題は、単なるイスラエルとイランの対立ではない。
2026年2月28日、米国とイスラエルがイランへの攻撃を開始し、イランはイスラエルや中東の米軍基地などに反撃した。つまり、米国はイスラエルを後方支援する立場ではなく、直接攻撃を行う当事国になっている。
一時的な停戦や交渉もあったが、7月7日から米軍はイラン国内のミサイル発射地点、防空設備、海軍関連施設、指揮通信施設などへの攻撃を再開した。米政府も、この作戦が続いていることを公式に認めている。
さらに7月30日には、米軍がイラン革命防衛隊の関連施設など数十か所を攻撃したと報じられた。衝突は終わるどころか、攻撃と報復が繰り返される段階に入っている。
この状況では、突然の停戦発表で株価が急上昇する可能性もあれば、報復攻撃によって一晩で原油価格が跳ねる可能性もある。
相場が最も嫌う「先が読めない状態」なのだ。
最大の焦点はホルムズ海峡だ
株式市場にとって最大の問題は、戦闘地域の広さよりもホルムズ海峡の状態だ。
米国エネルギー情報局によると、2025年前半には1日平均約2,090万バレルの石油がホルムズ海峡を通過した。これは世界の石油消費量の約20%、海上輸送される石油の約4分の1に当たる。
国際エネルギー機関も、2025年に世界の原油取引量の約34%がホルムズ海峡を通過したとしている。特に日本を含むアジア向けの割合が大きい。
つまり、ホルムズ海峡の通航が止まれば、中東だけの問題では済まない。
原油、ガソリン、電気、航空運賃、輸送費、商品の製造費が上がる。企業の利益が減り、消費者の財布も苦しくなる。最終的には世界経済全体へ影響が広がるのだ。
株式市場へ与える最大のリスク
原油高がインフレを再加速させる
最も警戒すべきリスクは原油高だ。
2026年7月には米国とイランの衝突が再び激しくなり、原油価格が一時約9%上昇した。世界株は下落し、特に金利上昇に弱いハイテク株や半導体株が売られた。
原油価格が上がると、企業の輸送費や電気代が増える。企業がその負担を商品価格へ転嫁すれば、物価が再び上昇する。
インフレが強くなれば、FRBは利下げしにくくなる。場合によっては利上げを考えなければならない。
この流れは、NASDAQ100や成長株にとって大きな逆風だ。
成長株は将来の利益を期待して高い株価が付いている。金利が上がると、将来利益の現在価値が下がるため、株価も下がりやすい。
「戦争だからハイテク株が下がる」のではない。
「原油高からインフレと金利上昇が起きるため、ハイテク株が下がる」のだ。この違いはかなり重要だ。
金利上昇で米国株全体の評価が下がる
原油高によってインフレへの警戒が強まると、米国債が売られ、長期金利が上がりやすくなる。
2026年7月31日には、中東情勢による原油高への警戒から、米国10年債利回りが4.7%台まで上昇した。株式市場は企業決算に支えられたものの、債券市場には強い圧力がかかった。
長期金利が上昇すると、株よりも債券を選ぶ投資家が増える。
特にPERが高い企業、利益がまだ少ない新興企業、借金が多い企業は売られやすい。住宅、自動車、不動産など、金利の影響を受けやすい業界にも悪影響が出る。
米国株が強いから何が起きても大丈夫、という考えは危険だ。
企業業績が良くても、金利が高すぎれば株価は下がる。相場とは実に面倒な仕組みで、人間が決算を喜んだ直後に金利が全部を台なしにする。
核施設への攻撃は市場の急落要因になる
イランには複数の核関連施設がある。
国際原子力機関は、核施設への軍事攻撃について、放射線や核安全に深刻な影響を与える危険があると繰り返し警告している。
実際に大規模な放射線漏れが起きなくても、「核施設が攻撃された」という速報だけで投資家心理は悪化する。
アルゴリズム取引が売りを出し、短時間で株価が急落する可能性もある。問題は被害の大きさだけではない。被害が分からない時間そのものがリスクになる。
イスラエル・イラン衝突で上昇しやすい業種
エネルギー株と石油関連企業
原油価格が上昇すると、石油会社の販売価格も上がりやすい。
そのため、原油や天然ガスを生産する企業、油田設備、パイプライン、LNG関連企業などには追い風になる可能性がある。
特に米国のシェール企業は、中東産原油の供給が減った場合の代替先として注目されやすい。
ただし、原油価格が上がった後にエネルギー株を慌てて買うのは危険だ。停戦や備蓄放出が発表されれば、原油価格は一気に下がる。
2026年には、中東の供給障害に対応するため、IEA加盟国が過去最大規模の石油備蓄放出を決めた。政府も原油高を放置しているわけではない。
エネルギー株は「長期保有すれば必ず勝てる銘柄」ではなく、地政学リスクに左右される景気敏感株として見るべきだ。
防衛・航空宇宙関連株
紛争が長期化すれば、ミサイル、防空システム、ドローン、レーダー、通信設備などの需要が増える。
米国防総省は、イランのミサイル設備、海軍、軍事インフラなどを攻撃対象として挙げている。攻撃が続けば、米国や同盟国による兵器の補充需要も増える可能性が高い。
ただし、防衛株もすでに期待を織り込んでいることがある。
ニュースを見てから飛び乗るのでは遅い。買うなら株価、利益、受注残、政府予算まで確認しなければならない。
金は有力だが、必ず上がるわけではない
戦争が起きると金が買われる、という考えは半分正しい。
不安が強まれば、安全資産として金が買われやすくなる。2026年3月に米国とイスラエルがイランを攻撃した際にも、投資家の資金が金へ向かう動きが見られた。
一方で、原油高によって金利上昇の予想が強まれば、金が売られることもある。実際、7月には中東情勢が悪化していたにもかかわらず、利上げへの警戒から金価格が下落する場面があった。
金は戦争だけで動くわけではない。
実質金利、ドル、中央銀行の購入、投資家心理など、複数の要因で動く。安全資産という言葉だけを信じて全力投資するのは雑すぎる。
下落リスクが大きい業種
航空・旅行・運輸業界
原油高は航空会社にとって大きな負担になる。
燃料費が増えれば、航空券を値上げするか、利益を減らすしかない。中東周辺の空域が閉鎖されれば、遠回りによる追加コストも発生する。
旅行会社やホテルも、消費者が旅行を控えれば影響を受ける。
海運会社は運賃上昇で利益が増えることもあるが、船舶の安全、保険料、航路変更などの負担も増える。単純に「運賃が上がるから海運株は買い」とは言えない。
小売・外食・一般消費財
ガソリン代や電気代が上がると、消費者が自由に使えるお金は減る。
最初に削られやすいのは、外食、衣服、旅行、娯楽、高額商品などだ。
特に低価格を売りにしている企業は、仕入れ価格が上がっても値上げしにくい。売上が維持されても利益率が悪化する可能性がある。
原油高は石油会社だけの話ではない。ほぼすべての商品価格に少しずつ入り込んでくる。
高PERのハイテク株
AI、半導体、クラウド関連企業は、長期的には成長が期待される。
しかし、短期的には金利上昇に弱い。
2026年7月の衝突再燃時にも、原油高と債券利回り上昇を受けてNASDAQや半導体株が大きく下落する場面があった。
ただし、業績が強いハイテク企業は、その後すぐに買い戻されることもある。実際、中東情勢が続く中でも、好決算を出した大型ハイテク株が米国市場を押し上げる場面が見られた。
「ハイテク株は全部危険」ではない。
高すぎる株価、弱い利益、過大な借金を持つ企業が危険なのだ。
今後考えられる3つのシナリオ
シナリオ1:停戦交渉が進み、原油価格が下落する
米国とイランが停戦し、ホルムズ海峡の安全な通航が回復するシナリオだ。
この場合、原油価格は下落し、インフレ不安も弱まる。長期金利が下がれば、NASDAQ100や成長株には追い風になる。
2026年6月にも、停戦期待とホルムズ海峡の再開によって原油価格と市場の不安が低下した。
短期的には、このシナリオが最も株高につながりやすい。
シナリオ2:攻撃と交渉を繰り返す
私は、現時点ではこのシナリオを基本に考えている。
全面戦争にはならないが、攻撃、報復、数日間の停止、交渉再開を繰り返す形だ。
この場合、株式市場全体が長期間暴落するとは限らない。しかし、原油価格やニュースによって相場が激しく上下する。
エネルギー株、防衛株、金、ハイテク株が日ごとに入れ替わって動くため、短期売買はかなり難しくなる。
無理にニュースを当てるより、資産配分を守るほうが現実的だ。
シナリオ3:ホルムズ海峡が再び大きく止まる
最も危険なのが、船舶への攻撃や封鎖によって、ホルムズ海峡の通航が大きく減るシナリオだ。
2026年にはすでに、紛争によってホルムズ海峡の石油輸送量が大幅に減少し、IEAが「世界の石油市場で過去最大の供給障害」と表現する事態が起きた。
同じ規模の混乱が再発すれば、原油価格、インフレ、金利が同時に上昇する可能性がある。
株式、債券、消費関連企業には厳しい展開だ。日本もエネルギー輸入への依存度が高いため、円安と原油高が重なれば家計と企業の負担がさらに増える。
投資家が今確認すべき5つの指標
1.原油価格
最初に見るべきなのは、株価指数より原油価格だ。
特にブレント原油が短期間で急上昇している場合、世界的なインフレ懸念が強まっている可能性がある。
2.ホルムズ海峡の通航状況
海峡が「閉鎖された」という強い見出しだけで判断してはいけない。
実際に何隻が通過できているのか、輸送量がどの程度減っているのかを見る必要がある。
政治家の発言より、船舶と原油の動きを見たほうが早い。
3.米国10年債利回り
原油価格が上がっても、長期金利が下がっていれば、景気悪化への警戒が強い可能性がある。
反対に、原油と金利が同時に上がっている場合は、株式市場にとって厳しい。
NASDAQ100を持つ投資家は特に確認すべき指標だ。
4.VIX指数
VIX指数は、米国株の先行きに対する不安を示す指標として使われる。
米国によるイラン攻撃後にはVIXが急上昇した一方、株価が大きく崩れず、不安だけが先に低下する場面もあった。
VIXが上がったからすぐ売るのではない。市場がどの程度の下落を予想しているかを見る材料として使うべきだ。
5.停戦交渉と米政府の発表
攻撃のニュースだけでなく、米国、イラン、イスラエル、オマーンなどの発表も重要だ。
停戦交渉が進めば原油価格は下がりやすい。逆に、交渉の打ち切りや追加攻撃が発表されれば、原油や防衛株が動きやすくなる。
ただし、発言だけの停戦は信用しすぎてはいけない。実際の攻撃停止と船舶の通航回復まで確認するべきだ。
今の相場で私ならどう投資するか
私は、イスラエル・イラン衝突を理由に、S&P500や全世界株を全部売ることはしない。
戦争の結果を正確に予想することは不可能だからだ。
代わりに、次の方針を取る。
まず、生活費や数年以内に使うお金を株式市場へ入れない。次に、一度に大きく買わず、積立や分割購入を続ける。
NASDAQ100など成長株の割合が高すぎる場合は、全世界株、債券、金、現金などへ分散する。借金や信用取引を使った投資は避ける。
急落したときに買える現金を残すことも重要だ。
戦争による下落は怖い。しかし、優良企業の利益が長期的に成長するのであれば、短期的な急落は安く買える機会になる。
一方で、原油高が続き、企業利益が実際に悪化しているのに「戦争はいずれ終わる」と言って買い続けるのも危険だ。
大切なのは、ニュースへの感情ではなく、企業の利益と資産配分を見ることだ。
まとめ
イスラエル・イラン衝突と米国介入は、株式市場に大きな不安を与えている。
しかし、株価への影響は戦闘のニュースだけでは決まらない。
最大のポイントは、ホルムズ海峡、原油価格、インフレ、米国金利だ。
原油高が続けば、エネルギー株や防衛株には追い風になる可能性がある。一方、航空、運輸、小売、高PERのハイテク株には逆風になりやすい。
停戦が進めば、原油価格が下がり、ハイテク株や株式市場全体が反発する可能性もある。
だからこそ、「戦争が起きたから全部売る」「防衛株なら必ず上がる」といった単純な判断は避けるべきだ。
今必要なのは、未来を当てることではない。
どのシナリオになっても投資を続けられる資産配分を作ることだ。相場の恐怖に振り回されず、現金、株式、債券、金を適切に分ける。それが個人投資家にできる最も強い防衛策になる。

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