「高齢の親はパソコンを使えないから、私が確定申告を全部やってあげよう」
家族としては、とても自然な考えです。しかし、その親切が税理士法に触れる可能性があることを知っているでしょうか?
家族の書類を集めたり、パソコンの操作を横で助けたりすることは問題ありません。一方で、家族に代わって税金を判断し、確定申告書を作成して提出する行為には注意が必要です。
しかも、「お金をもらっていないから大丈夫」とも限りません。国税庁は、税務代理、税務書類の作成、税務相談について、税理士などの資格がない人が有償・無償を問わず行うことを禁止しています。
私も確定申告をしていると、「入力するだけなら家族が全部やっても同じでは?」と思うことがあります。しかし、税金の判断まで引き受けてしまうと、単なる操作補助では済みません。
この記事では、家族の確定申告をどこまで手伝えるのか、何をすると問題になりやすいのかを、できるだけ分かりやすく解説します。

家族の確定申告を手伝うこと自体は禁止されていない
家族の確定申告を少し手伝っただけで、すぐに違法になるわけではありません。
高齢の親や、スマートフォンやパソコンの操作が苦手な家族に対して、次のような作業を手伝うことは一般的に行われています。
書類を集めて整理する
確定申告では、多くの書類が必要になります。
たとえば、次のようなものです。
- 給与所得や公的年金の源泉徴収票
- 医療費の通知や領収書
- 生命保険料控除証明書
- 地震保険料控除証明書
- 国民年金保険料の控除証明書
- 寄附金の受領証明書
- 事業に関係する領収書や請求書
これらを一緒に探したり、種類ごとに分けたりする作業は、申告書そのものを作成する行為とは異なります。
書類を日付順に並べる、医療費を家族ごとに分類する、足りない証明書を確認するといった作業であれば、家族が支援しやすい部分です。
パソコンやスマートフォンの操作を補助する
国税庁の「確定申告書等作成コーナー」を開く、画面をスクロールする、文字を大きくするといった操作も支援できます。
本人が入力内容を判断し、家族がその指示に従ってキーボードを操作するだけなら、税務判断を代わりに行っているとは限りません。
ただし、家族が資料を見ながら勝手に所得や控除を判断し、最初から最後まで申告書を完成させると、単なる操作補助とは言いにくくなります。
大切なのは、申告する本人が内容を理解し、判断していることです。
税務署や申告相談会に同行する
高齢の親や体調に不安がある家族に付き添い、税務署まで一緒に行くこともできます。
待ち時間の管理、必要書類の確認、職員への状況説明などを手伝えば、本人の負担はかなり軽くなります。
ただし、税務署の職員から申告内容について質問されたときは、原則として申告者本人が答える必要があります。
家族が本人に代わってすべての税務判断を行うのではなく、本人と税務署の間を支える立場にとどめるべきです。
家族でも確定申告書を勝手に作成してはいけない
家族の手伝いで最も注意したいのが、確定申告書そのものの作成です。
「親の申告だから問題ない」「無償だから大丈夫」と簡単に考えるべきではありません。
税務書類の作成は税理士業務に含まれる
税理士法では、他人の依頼を受けて行う次の行為を税理士業務としています。
- 税務代理
- 税務書類の作成
- 税務相談
国税庁は、税理士などの資格を持たない人が、これらの業務を有償・無償を問わず行うことは税理士法第52条に違反すると案内しています。
つまり、「無料で手伝ったから絶対に問題ない」という説明は正確ではありません。
特に、複数の人の申告書を継続して作成したり、知人や親戚から申告を引き受けたりしている場合は注意が必要です。
入力補助と申告書作成の違い
境界線を考えるときは、「誰が税金の判断をしているか」が重要です。
本人が次のように指示している場合は、操作の補助に近いと考えられます。
「この源泉徴収票の金額を、ここに入力してほしい」
「医療費控除を申告するので、この一覧を入力してほしい」
一方、家族が資料を確認しながら、次のような判断をしている場合は注意が必要です。
「これは経費にできるだろう」
「この収入は申告しなくてもよい」
「この控除を使えば税金が安くなる」
「事業所得ではなく雑所得にしておこう」
このような判断は、単なるパソコン操作ではなく、税務相談や税務書類の作成に近づきます。
私は、家族を手伝う場合でも、最終的な判断は本人に確認してもらうべきだと考えています。分からない項目を家族だけで勝手に決めるのは危険です。
家族のマイナンバーカードを勝手に使ってはいけない
e-Taxでは、マイナンバーカードを利用して本人確認や電子署名を行います。
便利な仕組みですが、家族だからといって、本人に無断でカードや暗証番号を使ってよいわけではありません。
暗証番号を家族が管理するのは危険
マイナンバーカードには、複数の暗証番号があります。
その中には、電子署名に使われる重要な暗証番号も含まれています。
家族の暗証番号を聞き出し、本人が知らないところでログインや申告を行うと、後から「自分はその内容を確認していない」という問題になりかねません。
家族が操作を手伝う場合でも、本人がその場にいて、入力内容と送信内容を確認する形が安全です。
本人名義で送信する以上、本人の確認が必要
e-Taxで本人のマイナンバーカードを使って申告すれば、税務署には本人が電子署名した申告として送信されます。
家族が入力した場合でも、申告内容についての責任が自動的に家族へ移るわけではありません。
送信前には、少なくとも次の内容を本人と一緒に確認するべきです。
- 所得の種類と金額
- 必要経費の金額
- 所得控除の内容
- 還付される金額
- 納付する税額
- 還付金の振込口座
- 申告書に表示される住所や氏名
「よく分からないけれど送っておいた」は通用しません。税金は、人間の善意より入力された数字を信じる世界です。
委任状があれば家族が申告書を作成できるわけではない
家族の確定申告について調べると、「委任状があれば代理申告できる」という説明を見かけることがあります。
しかし、ここは誤解しやすい部分です。
委任状は税理士資格の代わりにならない
委任状は、特定の手続きや書類の受け取りなどを家族へ任せる意思を示すものです。
しかし、委任状を書けば、税理士ではない家族が自由に税務代理や申告書作成を行えるようになるわけではありません。
税理士法が定める資格の制限は、家族間の委任状だけで消えるものではないからです。
元気な親から委任状をもらい、子どもが所得や経費を判断して確定申告書を作成する方法は、「委任状があるから絶対に合法」とは言い切れません。
委任状を魔法の許可証として扱うべきではないのです。
e-Taxの委任関係登録は主に税理士向け
e-Taxには「委任関係の登録」という仕組みがあります。
しかし、国税庁が案内している申告に関する委任関係の登録は、基本的に納税者と関与税理士の間で利用する仕組みです。税理士が自身の利用者識別番号を納税者へ伝え、納税者が委任関係を登録する流れになっています。
一般の家族がこの仕組みを使い、税理士と同じ立場で申告を代理できるわけではありません。
マイナポータルの「代理人設定」と代理申告は別の話
マイナポータルには、家族を代理人として登録する機能があります。
しかし、これも「家族が本人に代わって確定申告書を自由に作成できる制度」と理解してはいけません。
家族分の控除証明書を取得できる
マイナポータルで代理人設定を行うと、家族分の医療費や生命保険料控除証明書などを取得できる場合があります。
国税庁も、家族分の医療費や生命保険料などの情報を取得するには、事前にマイナポータルで代理人登録が必要だと案内しています。
たとえば、夫が妻や子どもの医療費情報を取得し、自分の医療費控除を申告する場合に利用できます。
これは情報を取得するための代理設定です。
代理人設定が税理士資格を与えるわけではない
マイナポータルの代理人になったとしても、税理士業務を行える資格が与えられるわけではありません。
家族の証明書を取得できることと、家族の所得や経費を判断して申告書を作成できることは別問題です。
制度の名前に「代理人」と入っているため混乱しやすいのですが、代理できる範囲は手続きごとに異なります。
高齢の親の確定申告を安全に手伝う方法
実際には、高齢の親が一人で確定申告を行うことが難しい家庭も多いでしょう。
その場合は、家族が一切関わらないのではなく、問題になりにくい形で支援することが大切です。
本人と一緒に作成する
最も分かりやすい方法は、本人と家族が同じ画面を見ながら申告書を作成することです。
家族は画面操作や文字入力を補助し、所得や控除については本人に確認します。
分からない項目が出た場合は、家族だけで決めず、国税庁の案内を確認するか、税務署や税理士へ相談します。
送信前には、完成した申告書を本人にも見てもらいます。
本人が細かな数字まで確認できない場合でも、「どのような収入を申告したのか」「税金はいくらになるのか」程度は共有しておくべきです。
確定申告書等作成コーナーを利用する
給与や年金、医療費控除などが中心であれば、国税庁の「確定申告書等作成コーナー」を利用できます。
画面の質問に沿って金額を入力すると、税額が自動計算されます。
【国税庁・確定申告書等作成コーナー】
https://www.keisan.nta.go.jp/
ただし、自動計算されるからといって、入力内容まで自動的に正しくなるわけではありません。
収入の入力漏れや、控除の重複、医療費の対象外費用などは、自分で確認する必要があります。
税務署の相談を利用する
判断に迷ったときは、税務署へ相談する方法があります。
確定申告期間中は混雑するため、相談方法や予約の必要性を事前に確認した方が安全です。
【国税庁・税についての相談窓口】
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shirabekata/9200.htm
電話相談や税務署の相談会場を利用すれば、本人が説明を受けながら申告を進められます。
家族は横でメモを取ったり、必要な資料を出したりする役割に回るとよいでしょう。
税理士へ依頼した方がよいケース
家族の申告内容が複雑な場合は、無理に家族だけで完成させるべきではありません。
特に、次のようなケースは税理士への相談を検討した方が安全です。
個人事業や副業の収入がある
個人事業では、売上だけでなく必要経費、減価償却、家事按分、棚卸し、青色申告特別控除などの判断が必要になります。
副業についても、事業所得になるのか雑所得になるのかで申告方法が変わる場合があります。
家族が感覚だけで判断すると、経費の過大計上や所得区分の誤りにつながります。
不動産を売却した
土地や建物の売却では、取得費や譲渡費用、所有期間、特例の適用などを確認する必要があります。
古い不動産では取得時の資料が残っていないこともあり、計算が複雑になります。
扱う金額も大きいため、少しの間違いでも税額に大きな差が出ます。
株式や暗号資産の取引が複雑
証券口座の種類や取引内容によっては、確定申告が不要な場合もあります。
一方で、損失の繰越控除や複数口座の損益通算を行う場合は申告が必要です。
暗号資産も、売却だけでなく交換や決済によって利益が発生することがあります。
取引件数が多い場合は、家族が片手間で集計できる量を超えます。
相続や贈与が関係している
相続税や贈与税は、所得税の確定申告とは別の制度です。
「家族間のお金だから税金はかからない」と思い込むのは危険です。
不動産、保険金、貸付金、名義預金などが関係する場合は、専門家へ確認した方がよいでしょう。
家族が間違えて申告した場合はどうなる?
家族が入力を手伝った申告書に間違いがあったとしても、原則として申告者本人の申告として扱われます。
税金が少なかった場合
本来より税額を少なく申告していた場合は、修正申告が必要になることがあります。
不足している税金に加えて、延滞税や過少申告加算税がかかる可能性もあります。
「子どもが入力を間違えた」という事情だけで、税金そのものが免除されるわけではありません。
税金を多く払いすぎた場合
所得や控除の入力を間違え、税金を多く払いすぎた場合は、更正の請求によって訂正できる可能性があります。
ただし、手続きには期限があります。
申告後に間違いへ気づいたら、そのまま放置せず、早めに税務署や税理士へ確認するべきです。
虚偽の内容を入力してはいけない
存在しない経費を計上する、売上を除外する、医療費を水増しするといった行為は、単なる入力ミスではありません。
本人の指示であっても、家族が虚偽申告を手伝うべきではありません。
家族を助けるつもりが、家族全体を税務トラブルへ引きずり込む結果になります。
まとめ:家族の確定申告は「操作を支える」範囲にとどめる
家族の確定申告を手伝うこと自体が、すべて禁止されているわけではありません。
書類を集める、領収書を整理する、パソコン操作を補助する、税務署へ同行するといった支援は可能です。
しかし、税理士資格のない家族が、本人に代わって税金を判断し、確定申告書を作成したり、税務署との交渉を引き受けたりする行為には注意が必要です。
特に覚えておきたいのは、次の3点です。
- 無償であっても税理士業務の制限はある
- 委任状が税理士資格の代わりになるわけではない
- マイナポータルの代理人設定と税務代理は別である
家族を支援するときは、本人と一緒に内容を確認し、家族は操作や資料整理を補助する立場にとどめるのが安全です。
分からない項目を家族だけで決める必要はありません。税務署の相談窓口や税理士を利用すればよいのです。
確定申告は、善意だけで進めると危険です。家族だからこそ、適当な処理で済ませず、本人の意思と正しい手続きを守るべきです。


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