「遺族年金が5年で打ち切られる」「夫が亡くなっても、もう一生もらえない」「これは実質的な改悪ではないのか?」
こんな話を聞いて、不安になった人も多いはずです。
私も最初にこの制度改正を知ったときは、「また社会保障が削られるのか」と感じました。保険料は取る。物価は上がる。そして給付は複雑にする。実に日本の制度らしい話です。
しかし、実際に厚生労働省の資料を確認してみると、すべての人の遺族年金が5年で終了するわけではありません。
一方で、これまで無期限で遺族厚生年金を受け取れた一部の女性が、将来的には原則5年間の有期給付になるのも事実です。
つまり結論から言えば、「全員にとって改悪」は間違いですが、「一部の人には実質改悪」という見方は決して大げさではありません。
しかも制度は2028年4月から変わる予定です。今から知っておけば備えられますが、知らずに「配偶者が亡くなっても遺族年金があるから大丈夫」と考えていると、将来の生活設計が大きく崩れる可能性があります。
この記事では、遺族年金の制度改正で何が変わるのか、誰が影響を受けるのか、本当に改悪なのか、そして今後どのように備えるべきなのかを、できるだけ分かりやすく説明します。
遺族年金の制度改正は2028年4月から始まる
2025年6月13日、年金制度改正法が成立しました。今回の改正には、遺族年金制度の見直しも含まれています。
厚生労働省によると、遺族厚生年金の大きな見直しは2028年4月から施行予定です。最大のポイントは、これまで男女で大きく違っていた遺族厚生年金のルールを、男女共通の制度へ近づけることです。 (厚生労働省)
厚生労働省の公式情報はこちらです。
現在の遺族厚生年金は男女差がかなり大きい
現在の制度では、18歳年度末までの子どもがいない場合、女性と男性で扱いが大きく違います。
女性の場合は、30歳未満で夫を亡くすと原則5年間の有期給付です。しかし、30歳以上で夫を亡くした場合は、基本的に無期限で遺族厚生年金を受け取れます。
一方、男性は妻を亡くしたときに55歳未満であれば、原則として遺族厚生年金を受け取れません。55歳以上で受給権が発生しても、実際の支給開始は原則60歳からです。
つまり現在の制度は、
「夫が働き、妻は夫に生活を支えてもらう」
という昔の家族モデルが強く残っています。
しかし今は共働き世帯も多く、妻の収入で生活を支えている家庭も珍しくありません。そのため、政府は男女差をなくす方向で制度を変えることにしました。
考え方自体には理解できる部分があります。しかし問題は、男女差をなくすために女性側の手厚い部分を縮小する方法も使われていることです。
ここが「実質改悪ではないか」と言われる最大の理由です。
2028年から遺族厚生年金は原則5年間になる
60歳未満で配偶者を亡くすと原則5年間の有期給付へ
改正後は、18歳年度末までの子どもがいない人が60歳未満で配偶者を亡くした場合、男女ともに遺族厚生年金は原則5年間の有期給付になります。
ただし、いきなりすべての女性が対象になるわけではありません。
男性については2028年4月から新制度が始まります。一方、女性については2028年4月から20年かけて段階的に対象年齢を引き上げます。
2028年の制度開始直後に新しく原則5年間の有期給付の対象になる女性は、18歳年度末までの子どもがおらず、2028年度末時点で40歳未満の人です。
厚生労働省の資料では、新たに対象になる30代女性は年間約250人と推計されています。
ここは非常に重要です。
ネット上では「2028年から女性の遺族年金が全員5年で打ち切られる」という情報も見かけますが、それは正確ではありません。
2028年度に40歳以上になる女性は影響を受けない
厚生労働省は、次の人については今回の見直しの影響を受けないと説明しています。
すでに遺族厚生年金を受給している人、60歳以降に遺族厚生年金の受給権が発生する人、そして2028年度に40歳以上になる女性です。
また、18歳年度末までの子どもがいる人については、その子どもが対象年齢に達するまで、給付内容は現在の制度と同じです。
したがって、現在すでに遺族厚生年金を受給している高齢女性まで、一斉に5年間で打ち切られるわけではありません。
ただし若い世代ほど将来的な影響は大きくなります。
私はここが今回の改正で最も注意すべき部分だと感じます。
今の40代、50代だけを見て「自分は対象外だから問題ない」と考えるのは簡単です。しかし、30代、20代、そして今の子ども世代にとっては、遺族年金の役割そのものが変わっていくのです。
遺族年金は本当に「実質改悪」なのか
一部の女性には明らかに不利になる
結論から言います。
これまで無期限で受け取れた女性が、原則5年間の給付になるケースについては、明らかに不利です。
現在は、子どものいない女性が30歳以上で夫を亡くした場合、原則として無期限で遺族厚生年金を受け取れます。
しかし制度改正後は、対象年齢が20年かけて段階的に広がり、最終的には60歳未満で配偶者を亡くした人について、男女とも原則5年間になります。
仮に40歳で配偶者を亡くし、これまでなら65歳まで25年間受け取れる可能性があった人が、原則5年間になるなら、その差は小さくありません。
そのため「男女平等だから改悪ではない」とだけ説明するのは、かなり乱暴だと私は思います。
制度を公平にすることと、保障を削ることは別の話だからです。
一方で男性には大きな改善になる
ただし、男性側から見ると話は逆です。
現在は妻を亡くしたときに55歳未満であれば、子どもがいない男性は原則として遺族厚生年金を受給できません。
新制度では、60歳未満で妻を亡くした男性も原則5年間の遺族厚生年金を受け取れるようになります。
厚生労働省は、制度開始直後に新たに対象になる男性を年間約1万6,000人と推計しています。
これは男性にとって明確な改善です。
特に妻の収入が家計の大きな部分を占める共働き家庭では、妻が亡くなっても夫にほとんど保障がない現在の制度には、確かに大きな問題がありました。
だから私は、今回の制度改正を単純に「全部改悪」と呼ぶのも正確ではないと思います。
男性には改善。若い一部の女性には不利。そして長期的には、遺族年金を一生の生活保障ではなく、生活再建までの一時的な保障へ変えていく。
これが今回の制度改正の本当の姿でしょう。
5年間で完全に打ち切られるとは限らない
5年間の年金額は現在の約1.3倍になる
「5年間しか受け取れない」と聞くと、単純な大幅カットに見えます。
しかし、新制度では「有期給付加算」が追加され、5年間の有期給付の遺族厚生年金は、現在の約1.3倍になる予定です。
つまり、受給期間を短くする代わりに、最初の5年間の金額を増やす仕組みです。
政府としては、配偶者を亡くした直後の生活再建を手厚く支援するという考えです。
理屈としては分かります。
しかし、50歳前後で配偶者を亡くし、長期間仕事を離れていた人が、5年間で十分な収入を得られる状態になるとは限りません。
介護、健康問題、地域の雇用状況など、人の生活は制度の表ほど簡単ではないのです。
低所得や障害がある場合は継続給付もある
5年間が終了しても、すべての人が必ずゼロになるわけではありません。
障害年金の受給権がある人や、収入が十分でない人については、5年を過ぎても継続して遺族厚生年金を受け取れる仕組みがあります。
厚生労働省の公表資料では、単身者について、2025年度税制改正を反映した地方税所得ベースなら就労収入年間132万円程度が、継続給付の全額支給基準の目安として示されています。
さらに収入が増えると徐々に給付額が減り、遺族厚生年金の金額にもよりますが、おおむね月収20万円から30万円を超えると継続給付が終了する想定です。
ただし、この数字だけを見て安心するのは危険です。
「生活できるほど収入は高くない。しかし継続給付を十分にもらえるほど低収入でもない」
そんな中間層が最も苦しくなる可能性があります。
制度というものは、いつも境界線の少し外側にいる人を困らせます。人間が数字で生活を区切る以上、悲しいほど避けにくい問題です。
子どもがいる家庭はどうなるのか
子どもが18歳年度末になるまでは原則現行制度と同じ
18歳になった年度末までの子どもがいる場合、その子どもが対象年齢を迎えるまでは、基本的に現在の給付内容が維持されます。
一定の障害状態にある子どもについては20歳未満まで対象になる場合があります。
そして子どもが対象年齢を超えた後は、さらに5年間、増額された有期給付を受けられます。その後も、障害や所得などの条件を満たせば継続給付の対象になる可能性があります。
「子どもがいる家庭も2028年から一律5年で終了」という理解は間違いです。
子どもの加算額は増額される
今回の改正では、子どもがいる家庭への加算も見直されます。
厚生労働省の資料では、2024年度価格で、遺族基礎年金などの子どもの加算額を1人につき年額28万1,700円へ引き上げる仕組みが示されています。対象となる年金の範囲も広がります。
つまり、子育て世帯については給付が増える部分もあります。
ここでもやはり、「遺族年金改正=すべて削減」という説明は正しくありません。
中高齢寡婦加算も段階的に縮小される
もう一つ見逃せないのが「中高齢寡婦加算」です。
現在は一定の条件を満たす40歳以上65歳未満の妻について、遺族厚生年金に中高齢寡婦加算が上乗せされる制度があります。
しかし、この制度にも男女差があります。夫には同じ仕組みがありません。
そのため2028年4月以降、新しく発生する中高齢寡婦加算は、25年かけて段階的に縮小され、最終的には新規受給が終了する予定です。
ただし、施行前からすでに加算を受けている人には影響しません。また、一度受給を開始した後は、その時点の金額が原則として65歳まで維持されます。
これも「男女平等」という理由はあります。
しかし現実には、これまで存在した女性向けの保障が将来的に縮小することになります。
だからこそ私は、今回の改正について、制度全体では公平化だが、個人レベルでは明確な給付減になる人もいると考えています。
きれいな言葉だけで判断してはいけません。
遺族年金改正で知らないと損する3つのポイント
自分が対象になるかは「現在の年齢」だけで判断しない
2028年度に40歳以上になる女性は、今回の遺族厚生年金の有期化による直接的な影響を受けません。
しかし、若い世代では対象範囲が徐々に広がります。
女性については2028年から20年かけて段階的に対象年齢が引き上げられるため、現在30代、20代の人は特に注意が必要です。
「今は対象外だから問題ない」という話ではありません。
遺族年金だけを老後や死亡保障の柱にしない
これからの遺族厚生年金は、少なくとも60歳未満の現役世代については、「配偶者が亡くなった後、一生生活を支えてくれる制度」から「生活再建までの一定期間を支える制度」へ変わっていきます。
そのため、
預貯金、生命保険、収入保障保険、NISAなどの資産形成、自分自身の就労収入などを組み合わせて考える必要があります。
ただし、不安だからといって高額な生命保険に入ればいいわけでもありません。
まず確認するべきなのは、
「配偶者が亡くなったら、毎月いくら不足するのか」
という金額です。
生活費が月25万円で、自分の収入が月15万円なら、不足は月10万円です。そこから遺族年金、預貯金、死亡退職金などを引いて、本当に足りない部分だけを保険で補うべきです。
不安を金額に変える。それが最も重要です。
ねんきんネットで自分と配偶者の加入状況を確認する
遺族厚生年金の金額は、亡くなった人の厚生年金の加入期間や報酬によって変わります。
基本的には、亡くなった人の老齢厚生年金の報酬比例部分を基準に計算され、現行制度では原則としてその4分の3が基準になります。
日本年金機構の「ねんきんネット」を使えば、自分の年金記録や将来の年金見込み額を確認できます。
夫婦で一度確認しておく価値はあります。
家計は「何とかなるだろう」で作るものではありません。特に年金制度は、何とかならなかったときに政府へ文句を言っても、生活費を返してはくれません。
今後の備えは「遺族年金ゼロ」で考える必要があるのか
私は、すべての家庭が遺族年金をゼロとして計算する必要はないと思います。
それでは必要以上に不安を大きくし、保険をかけすぎたり、現在の生活を我慢しすぎたりする可能性があります。
おすすめなのは、3つのケースで考える方法です。
「現在の制度に近い金額を受け取れるケース」
「5年間だけ受け取るケース」
「遺族年金がほとんどないケース」
この3つで家計を試算しておけば、制度変更にも対応しやすくなります。
特に30代以下の夫婦は、「配偶者が亡くなった後も遺族厚生年金を一生受け取れる」という前提で住宅ローンや老後資金を考えないほうが安全です。
制度は変わります。
今回も変わりました。そして将来また変わる可能性は十分にあります。
国の制度を無視する必要はありません。しかし、人生のすべてを国の制度だけに預けるのも危険です。
まとめ|遺族年金は一部で実質改悪。しかし全員が5年で打ち切られるわけではない
遺族年金の制度改正について調べた私の結論は、**「一部の人にとっては実質的な改悪だが、全員が損をする制度改正ではない」**です。
2028年4月から、60歳未満で配偶者を亡くした場合の遺族厚生年金は、男女とも原則5年間の有期給付へ変わっていきます。
特に、これまで30歳以上なら原則無期限で受給できた女性にとって、将来的な有期化は大きな変更です。
一方、これまで55歳未満では原則受給できなかった男性は、新たに5年間の給付を受けられるようになります。
さらに、有期給付の金額は現在の約1.3倍となり、障害がある人や収入が十分でない人には継続給付も用意されます。子どもがいる家庭については、子どもが対象年齢になるまで現在の仕組みが基本的に維持され、子どもの加算額が増える部分もあります。
だからこそ、単純に「大改悪だ」と騒ぐだけでも、「男女平等だから問題ない」と片付けるだけでも不十分です。
大切なのは、自分が何歳なのか、子どもがいるのか、配偶者の厚生年金加入状況はどうなっているのか、自分自身に収入があるのかを確認することです。
そして一番危険なのは、制度を知らないまま「配偶者が亡くなっても遺族年金があるから大丈夫」と思い込むことです。
2028年までまだ時間はあります。
しかし、住宅ローン、生命保険、NISA、老後資金などは、数年で簡単に準備できるものではありません。
知らなければ損をする。知っていれば、少なくとも備える時間は作れます。
制度改正を必要以上に恐れる必要はありません。しかし、無関心でいるのはもっと危険です。
これからは「遺族年金があるから安心」ではなく、「自分の場合はいくら、何年間受け取れるのか」まで確認する時代です。


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