開業準備を始めると、思った以上にお金がかかるものです。店舗の契約費用や備品購入、広告宣伝費など、さまざまな出費が発生します。これらの費用の中には「開業費」として経費に計上できるものがあります。正しく処理すれば、節税につながり、開業初年度の資金繰りも安定させられます。この記事では、開業費に計上できるものとできないもの、仕訳の方法や注意点まで、わかりやすく解説します。
開業費とは?定義と基本的な考え方
開業費とは、事業を始める前の準備段階で発生した費用のうち、事業開始後に利益を生み出すために必要だった支出を指します。つまり、開業に直接関連する出費であれば、事業が始まる前でも経費として扱えるのです。
税法上では「繰延資産」に分類され、開業後に**任意で償却(経費化)**することができます。つまり、一度に全額を経費にすることも、数年に分けて計上することも可能です。
開業費に計上できる主な支出項目
開業費に該当するかどうかの判断基準は、「開業準備に直接必要な支出かどうか」です。以下に、一般的に計上できる項目を詳しく見ていきましょう。
1. 店舗や事務所の賃貸関連費用
- 物件の敷金・礼金(返還されない部分)
- 仲介手数料
- 契約書の印紙代
- 開業前の家賃(内装工事や設備設置のために借りた期間分)
特に、開業前から事務所を借りて準備を行うケースでは、その期間の家賃も「開業準備費」として計上可能です。
2. 内装・設備工事関連費用
- 店舗内装工事費(電気・水道・壁紙・什器設置など)
- 看板設置費用
- 開業時のリフォーム・改修費
これらは「固定資産」にもなり得ますが、小規模な改装や装飾などは開業費として処理可能です。工事費の一部を開業費として分けて記帳しても構いません。
3. 広告宣伝費・開店告知費
- チラシ・パンフレット・ポスター作成費
- 開業案内の郵送費
- ホームページ制作費
- SNS広告・リスティング広告などの出稿費
開業前に行った宣伝活動や告知費用も「開業費」に含められます。広告活動は売上に直結するため、忘れずに記録しておきましょう。
4. 事務用品・備品の購入費
- 文房具・ファイル・プリンター用紙などの事務用品
- パソコン・モニター・電話機・机や椅子
- レジスター・店舗用品・工具類
購入時期が開業前であっても、開業準備のためであれば開業費に含めることができます。なお、高額な備品(10万円以上)は固定資産として減価償却の対象となる場合があります。
5. 開業前の交通費・宿泊費
- 開業準備のための出張費
- 店舗物件を見に行くための交通費
- 仕入れ先との打ち合わせにかかる交通費・宿泊費
ただし、プライベート目的の旅行や娯楽的な出費は対象外です。業務目的であることを明確に記録しておくことが重要です。
6. 各種手数料・登録費用
- 会社設立のための登記手数料
- 税務署・行政への登録申請費用
- 資格登録や免許申請にかかる費用
- 許認可取得のための手数料
これらは開業のために不可欠な費用であり、全額を開業費として計上できます。
7. 研修・セミナー参加費用
- 開業に関するセミナー・講習会の受講料
- ビジネススキル向上のための研修費
- 事業計画づくりや補助金講座などの参加費
事業に関する知識を得る目的で受講したものであれば、開業費として認められます。
8. 顧問料・専門家への相談費用
- 税理士や行政書士への相談料
- 事業計画や資金繰りのアドバイス料
- 開業届作成のサポート費用
開業準備段階での専門家サポート費用も、開業費に含めることができます。開業後に役立つ知識を得るための支出であれば問題ありません。
9. 開業準備期間中の光熱費・通信費
- 自宅や事務所での電気代・水道代・ガス代
- インターネット通信費・電話料金
ただし、プライベート利用分と事業利用分を区別する必要があります。按分(あんぶん)して記録しておくと、税務上も安心です。
10. 開業前の人件費(アルバイト・スタッフ研修)
開店準備のために一時的に雇った人の給与や日当も開業費に含まれます。
- オープン準備スタッフの人件費
- アルバイトの研修費・交通費
これらの費用も「開業準備のため」であれば、全額を開業費にできます。
開業費に計上できないもの(注意が必要な支出)
すべての費用が開業費になるわけではありません。以下のような支出は対象外です。
- 事業と関係のない私的支出
- 開業後に発生した経費(これは通常の経費として処理)
- 家族との飲食代・娯楽費
- 開業準備とは関係のない学習費
「開業準備のため」という目的が明確でない場合、税務調査で否認されるリスクがあるため注意しましょう。
開業費の仕訳方法と会計処理
【仕訳例】
例:開業準備で広告費10万円を支払った場合
(借方)開業費 100,000円
(貸方)現金 100,000円
【償却方法】
開業後は、以下の方法で費用化できます。
- 一括償却:開業初年度に全額を経費に計上する
- 分割償却:数年に分けて経費に計上(任意償却)
一般的には一括で処理して問題ありませんが、利益調整のために分割償却を選ぶケースもあります。
青色申告と開業費の関係
青色申告者は、開業費を「繰延資産」として正しく計上すれば、節税効果を最大化できます。
- 繰延資産として貸借対照表に計上
- 任意のタイミングで償却可能
- 税務調査時にも根拠を示しやすい
一方で白色申告者の場合、開業費の扱いが曖昧になりがちなので、帳簿を正確に残しておくことが重要です。
開業費の領収書・記録の保存方法
開業費として認められるためには、領収書や明細を必ず保管しておくことが必要です。
- 支出日・金額・内容・目的をメモする
- 電子領収書やPDFでも保存可
- クレジットカード明細を補足資料として保管
記録を残すことで、後から税務署に説明を求められた際もスムーズに対応できます。
個人事業主と法人での違い
個人事業主と法人では、開業費の扱いに一部違いがあります。
| 項目 | 個人事業主 | 法人 |
|---|---|---|
| 開業届の提出先 | 税務署 | 法務局・税務署 |
| 開業費の計上期間 | 開業届提出前まで | 設立登記日まで |
| 償却方法 | 任意償却 | 任意償却(会計方針に従う) |
ただし、基本的な考え方は共通しており、どちらも「開業準備に必要な支出」は経費計上が可能です。
開業費を正しく計上するためのポイント
- 「開業前の支出」を漏れなく記録する
- 事業に関連する支出かどうかを明確にする
- 領収書・明細・契約書を必ず保存する
- 金額が大きいものは固定資産との区別をつける
- 開業費は繰延資産として仕訳する
これらを守れば、開業初年度の経費を最大限活用できます。
まとめ
開業費は、開業準備にかかった費用を節税しながら有効に活用できる制度です。
- 開業準備中の支出でも、事業に関連していれば経費にできる
- 領収書や明細をしっかり残せば、税務上のトラブルを防げる
- 一括償却と分割償却を上手に使い分ける
正しく計上すれば、開業初年度の資金繰りを安定させる大きな助けになります。これから開業を考えている方は、ぜひこの記事を参考に、開業費を賢く管理していきましょう。

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