ICL STAAR Surgical における “D = –8.5 / 3.0 / 091” の意味を徹底解説:レンズ仕様から臨床判断まで

眼科手術の分野で、「ICL STAAR Surgical D-8.5 / 3.0 / 091」といった表記を見かけたとき、それが単なるコードの羅列ではなく、レンズスペックや個別適合性を示す重要な情報であることは理解しておく必要があります。本記事では、この表記が示す意味を、レンズの光学設計、適応眼、注意点などを含めて詳細に解説します。


目次

ICL(インプランタブル・コラマー・レンズ:Implantable Collamer Lens)とは何か?

まず、ICLとは何か、どのような目的で使われるのかを押さえておきましょう。

  • ICL(Implantable Collamer Lens)は、眼内に挿入される(植込み型の)レンズであり、近視(および一部では乱視を含む)を矯正するために使われます。自然晶体(本来のレンズ)は温存され、角膜切除を行うわけではありません。(Staar Surgical)
  • STAAR Surgical 社が販売する「Visian ICL」シリーズがよく知られており、EVO ICL / EVO+ ICL などの改良モデルも存在します。(アイワールド)
  • 適応範囲として、一般的には近視 −3.0 D ~ −15.0 D まで(場合によっては −20 D 近傍までの縮小適応も)で、乱視を併記するタイプもあります。(Staar Surgical)
  • また、レンズ設計上「前房深度(anterior chamber depth:ACD)」が一定以上(たとえば 3.0 mm 以上)が必要とされるなど、目の内部構造面での条件もあります。(アイワールド)

このように ICL は、レーザーによる角膜切除(LASIK 等)では適さない条件の目にも対応できる選択肢として注目されています。

さて、ここから本題。「D = –8.5 / 3.0 / 091」といった表記が何を意味するか、段階的に読み解いていきましょう。


“D = –8.5 / 3.0 / 091” 表記の各要素の意味

この種の表記には、少なくとも次のような情報が込められている可能性があります。

  1. 球面度数(Spherical power)
  2. 光学系直径または有効光学径(一般に “Optic size” や “光学径” の意味)
  3. 軸方向(Astigmatic axis)またはその他識別番号

以下、それぞれについて具体的に説明します。

球面度数 “–8.5” の意味

  • これはレンズの主な屈折力(球面成分)を示す表記であり、近視矯正用レンズであることを示します。たとえば “–8.5 D” は “−8.50 ジオプター” を表します。
  • ICL の適応範囲では、−3.0 D から −15.0 D 程度が標準的な設計範囲であり、−8.5 D はその中間付近にあたります。(Staar Surgical)
  • ただし、ICL の製造・設計仕様上、球面度数が大きくなるにつれてレンズの形状(厚み、曲率、直径など)にも制約・変化が生じます。(FDA Access Data)

したがって、–8.5 は主たる屈折補正量であると理解できます。

“3.0” の意味(光学径/有効径/中心開口径など)

“3.0” は球面度数とは別の設計パラメータを指している可能性が高く、主に以下のような意味が考えられます。

  • 有効光学径(Optic diameter):レンズの有効透過領域、つまり実際に光が通過して像形成に寄与する範囲の直径(mm 表記)。
  • 中心部開口(Center hole)径:近年の ICL(EVO ICL など)では、レンズ中央に流体通過用の小孔 (central port) が設けられており、その径が定められています。
  • その他構造直径:たとえばレンズの光学部+非光学部を含めた全体的な設計直径の一部指標。

ICL の設計資料によれば、Visian ICL のレンズには「全体径 (overall diameter)」や「光学径 (optical/optic diameter)」の仕様が記載されており、度数に応じて異なる直径が設定されることがあります。(FDA Access Data) また、EVO / EVO+ モデルでは中央孔 (central port) の設計も扱われています。(Edfu)

ただし、一般に “3.0” を有効光学径とする例はあまり典型的ではなく、むしろ「中心孔径=3.0 mm」などを指している可能性もあります。たとえば、中央孔が 0.36 mm 程度であるレンズもあるため、3.0 mm の孔径はあまり現実的ではないですが、特定設計の識別用コードの一部として使われる可能性はあります。

“091” の意味(識別番号・軸方向・ロット番号など)

“091” のような三桁の数値は、以下のいずれかを意味する可能性があります。

  • 乱視用レンズ (Toric ICL) の軸方向 (Axis, in degrees):乱視補正(円柱成分)があるレンズでは、補正軸 (0°~180°) が指定され、それが “091”(=91°)を意味している可能性があります。
  • ロット番号/製造番号:レンズごとの個体識別番号、製造バッチ番号として設けられている可能性。
  • シリーズ番号/モデル識別コード:特定設計型番を示す内部コードとして機能している可能性。

たとえば、Toric ICL(乱視併用型 ICL)では、球面成分と乱視成分および軸向 (cylinder axis) を指定する必要があります。EVO/TICL の設計資料には、軸印 (axis alignment markings) が記されており、角度表示による識別がなされます。(Edfu) よって、“091” が 91° の軸方向を示す可能性は十分考えられます。


表記 “D = –8.5 / 3.0 / 091” を総合して解釈する例

以上を踏まえると、 “ICL STAAR Surgical D­–8.5 / 3.0 / 091” という表記は、以下のように解釈できる可能性があります:

  • 球面成分:–8.5 D(近視度数)
  • 設計直径または構造径:3.0(たとえば有効光学径、中央孔径、またはその設計指標)
  • 識別/軸方向:091(=軸 91° / ロット番号 / モデル番号など)

このような形式で仕様が記載されているのは、特定の施設や手術記録、製造ラベル、または輸送パッケージ表記などで見られることがあります。特に乱視補正を含む ICL(Toric ICL:TICL)では、球面・乱視・軸方向を正確に管理する必要があります。(Edfu)

ただし、確実に “3.0 = 光学径” や “091 = 軸方向” と断言できるわけではなく、装置・施設ごとの符号体系にもよります。最も妥当な解釈は、–8.5 D の球面度数、3.0 mm ないし近傍数値(光学径または設計基準径)、そして 91°(またはそれに準ずる識別コード)を示す、という設計仕様コードと読むことです。


ICL レンズ設計の基本注意点と仕様選定時の考慮要素

このような仕様が意味を持つ背景には、ICL レンズ選定時の複数の技術的・生物学的条件があります。以下、主な考慮点を示します。

前房深度(Anterior Chamber Depth:ACD)

  • レンズを虹彩より後方、かつ自然晶体前方に挿入するため、前房深度が十分であることが必須です。FDA 等の適応基準では、少なくとも 3.0 mm 以上 の ACD(角膜内皮から晶体前面までの距離)を求める文献があります。(Edfu)
  • ただし “前房深度” の定義(角膜表面基準か角膜内皮基準か)には混乱があり、文献や施設によって測定手法の違いがあります。(アイワールド)
  • ACD が浅すぎると、レンズが前部構造(虹彩、角膜内皮)に干渉し、角膜内皮細胞減少・緑内障リスク上昇・視界不良などの合併症リスクが高まります。(PMC)

レンズ直径およびフィット感

  • レンズの全体径(overall diameter)や有効光学径 (optic diameter) は、眼球の前後長・前房構造・虹彩周辺空隙などを考慮して選定されます。過大な径は虹彩と干渉する可能性、過小な径はレンズずれリスクを高める可能性があります。(FDA Access Data)
  • また、度数が高くなるとレンズ形状(厚み、湾曲度など)が変化し、それに応じて直径なども調整されることがあります。(FDA Access Data)

乱視補正および軸方向指定(Toric ICL)

  • 乱視成分を補正するため、Toric 型の ICL(TICL)では円柱成分 (cylinder) とその軸方向 (axis) を指定します。たとえば、91° (=091) を軸として指定することがあります。(Edfu)
  • 軸方向のずれは視力低下を招くため、正確な設置(トルク調整・回転調整)が必要とされます。(Edfu)

長期安全性と合併症リスク

  • ICL は可逆性が特徴ですが、長期的には 角膜内皮細胞数減少白内障(前嚢白内障) 発生のリスク、房水循環障害による眼圧上昇レンズ偏位/回転 などが懸念されます。(PMC)
  • 実際、臨床報告では中長期経過においてこれらリスクを評価したデータがあります。(ResearchGate)

「D = –8.5 / 3.0 / 091」表記を目にした際の注意点・確認すべきこと

このような仕様表記を見たとき、次のような点を必ず確認・確認しておくと安全性・適合性を担保しやすくなります。

  1. 球面度数と設計範囲の整合性
     –8.5 D がその施設/製品で許容されている設計範囲かどうかを確認。
  2. “3.0” が指す仕様の実態
     この “3.0” が有効光学径なのか、中心孔径なのか、あるいは別の指標コードなのかを設計図面やレンズ仕様書で確認。
  3. “091” の意味を仕様書で明確に把握
     軸方向なのか識別番号なのか、設置時の向き指示かどうかを確認。特に乱視補正型レンズでは軸方向のズレに敏感であるため重要。
  4. 前房深度 (ACD) の測定方法と実測値
     3.0 mm という基準が、どの測定法に基づくか(角膜表面基準か内皮基準か)を確認し、自分の眼の実測値と照合。
  5. レンズ挿入後の安全なクリアランス
     レンズと虹彩/角膜内皮とのクリアランス(隙間)が過度に狭くならないよう設計されているかの確認。
  6. 長期追跡・合併症リスクの説明と術後フォロー体制
     製造元・手術施設が、長期追跡・異常時対応をしっかり行う体制を持っているかを把握。

以上の点を確認すれば、単なる仕様コードを超えて、そのレンズが目に対して適合するかどうかの判断材料となります。


まとめ

ICL STAAR Surgical の「D = –8.5 / 3.0 / 091」という表記は、一見すると専門的でわかりにくいものですが、球面度数、設計径または中心孔径、そして識別番号や軸方向を示す重要な手がかりを含んでいます。具体的には、–8.5 D の近視補正レンズであり、3.0(mm)という設計直径要素、そして 091 が軸方向や識別コードを示す可能性があります。

ただし、このようなコード表記の解釈には設計者・施設固有の符号ルールが混ざるため、必ずレンズ仕様書・設計図・手術記録と照合する必要があります。また、ICL 手術を安全かつ有効に行うには、前房深度、レンズクリアランス、乱視軸合わせ、内皮細胞数、長期フォロー等、多くの要素を総合的に考慮することが不可欠です。

この表記を目にした際には、仕様の裏に隠された意味と危険因子を丁寧に読み解き、安全な治療判断を支える一助にしてください。

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