文化財への落書き、私有地への侵入、竹林を傷つける行為、路上へのごみ捨て、無許可の撮影。日本各地の観光地で、一部の外国人観光客による迷惑行為が問題になっている。
「日本の文化を壊す観光客など、日本から排除すべきだ」
SNSでは、このような強い意見も珍しくなくなった。しかし、本当に外国人観光客を一括して排除すれば問題は解決するのだろうか?
私は、それでは根本的な解決にならないと考えている。ただし、「観光客だから仕方がない」「経済効果があるから我慢しろ」という態度も完全に間違っている。
必要なのは、外国人を無条件で歓迎することではない。日本の法律やルールを守る人は受け入れ、文化財や自然、地域住民の生活を傷つける者には厳しい責任を負わせることだ。
国籍でまとめて排除するのではなく、問題行為をした人を確実に排除する。この仕組みを作らなければ、日本の観光地はさらに疲弊していくだろう。
外国人観光客による文化・自然破壊が問題になる背景
訪日外国人が急激に増えている
日本政府観光局によると、2025年の訪日外国人数は4,268万3,600人だった。2024年より580万人以上増え、年間の過去最高を更新している。単純計算すれば、1日平均で約11万7,000人が日本を訪れたことになる。
一次情報:日本政府観光局「訪日外客数(2025年12月推計値)」
外国人観光客が増えること自体は悪くない。ホテル、飲食店、鉄道、小売店などには大きな売上が生まれる。
観光庁によると、2025年の訪日外国人旅行消費額は9兆4,549億円と推計されている。これは日本経済にとって無視できない金額だ。
一次情報:観光庁「インバウンド消費動向調査」
しかし、観光客の数が短期間で増えれば、交通、ごみ処理、トイレ、警備、救急、道路などの負担も増える。
観光客から得られる利益は一部の事業者に集中しやすい。一方、混雑や騒音、ごみ、私有地への侵入といった負担は、そこで生活する住民が直接受ける。
この利益と負担の差が、「もう来てほしくない」という感情を生んでいるのだ。
日本の観光地は生活の場でもある
海外の有名観光地には、観光目的で整備された大きな広場や施設も多い。
しかし、日本の観光地は事情が異なる。京都の祇園や嵐山、鎌倉、奈良などでは、観光地のすぐ近くで一般の住民が生活している。
観光客が写真を撮っている細い道も、住民にとっては通勤や通学、買い物に使う生活道路だ。美しい町家も、撮影用のセットではなく誰かの家である。
ところが、SNSで人気になった場所では、その区別が見えなくなる。
「写真を撮りたい」という個人の欲望が、「ここに住んでいる人の生活を守る」という当然の権利より優先されてしまう。これは観光ではない。ただの迷惑行為だ。
SNSが迷惑行為を拡散させている
現在の観光では、SNSへの投稿が大きな目的になっている。
普通に景色を見るだけでは満足せず、ほかの人が撮っていない写真や動画を撮ろうとする。その結果、立入禁止区域への侵入、危険な場所での撮影、文化財への接触などが起きる。
一人が禁止区域に入って撮影し、その動画が拡散されれば、同じ行為をまねする人が現れる。
特に問題なのは、迷惑行為によって撮影した動画ほど注目を集めやすい点だ。静かにルールを守って旅行する人より、危険な行動をする人の方がSNSでは目立ってしまう。
人間は注目を数字に変えられるようになると、柵の意味まで忘れるらしい。実に面倒な仕組みである。
実際に起きている文化・自然への被害
京都では私有地への侵入や竹を傷つける行為が問題化
京都府が2026年3月に公表した観光関係者向けの資料では、私有地への侵入、線路や竹林への侵入、町家への侵入、文化財への落書き、路上喫煙、ごみのポイ捨てなどが問題として挙げられている。
さらに、嵐山周辺などで竹を傷つける行為についても、旅行会社やツアーオペレーターを通じて注意するよう求めている。
一次情報:京都府「外国人観光客を対象としたツアーオペレーター等への協力依頼」
竹林はテーマパークの背景ではない。竹に文字を彫ったり、撮影のために柵を越えたりすれば、元の状態に簡単には戻せない。
文化財への落書きも同じだ。古い建物や仏像、鳥居などは、一度傷つければ完全に修復できない場合がある。
数百年守られてきたものが、数秒の動画や一枚の写真のために壊される。これを「文化の違い」で済ませるべきではない。
祇園では無断撮影や私道への侵入が続く
京都市は、芸妓や舞妓を許可なく撮影する行為、狭い道をふさぐ行為、飲食禁止場所での食べ歩き、私有地への侵入などについて、外国人観光客向けにマナーを案内している。
一次情報:京都市「外国人観光客等へのマナー啓発の取組等について」
芸妓や舞妓は、観光客の撮影用キャラクターではない。仕事のために移動している人間だ。
それを追いかけ、進路をふさぎ、顔の近くにカメラを向ける行為は、観光マナーの問題というより、場合によっては人権や安全の問題になる。
注意書きを増やすだけでは足りない。悪質な行為には警察や行政が対応し、罰則を現実に使う必要がある。
富士山では安全と自然環境の両方が危険にさらされる
環境省によると、2025年夏の富士山登山者数は約20万5,000人だった。富士山では登山者の集中、安全対策、環境保全を目的として、入山料や登山規制が導入されている。
一次情報:環境省「2025年夏期の富士山登山者数について」
一次情報:富士登山オフィシャルサイト
富士山で問題になるのは、ごみだけではない。
十分な装備を持たない登山、山小屋を予約せずに夜通し登る行為、無理な日程による体調不良などは、本人だけでなく救助隊やほかの登山者にも負担をかける。
自然は無料の娯楽施設ではない。登山者が増えれば、登山道やトイレ、救護体制にも限界が来る。
人数制限や入山料を「観光客への嫌がらせ」と考えるべきではない。環境と命を守るために必要な費用である。
なぜ「外国人観光客を日本から排除すべき」という声が強まるのか
注意しても罰を受けないと思われている
迷惑行為に対する不満が強まる最大の理由は、違反者が十分な責任を負っていないように見えることだ。
立入禁止区域に入っても、警備員から注意されるだけ。ごみを捨てても、そのまま立ち去る。文化財を傷つけても、誰がやったのか分からない。
この状態が続けば、住民は「日本は外国人に甘い」と感じる。
実際には、私有地への侵入や器物損壊などは、単なるマナー違反ではなく法令に触れる可能性がある。京都府の資料でも、悪質な行為について京都府警察が対応すると明記されている。
ルールは、掲示するだけでは意味がない。破った場合に不利益があるから機能する。
日本人にも外国人にも、同じ基準で厳しく対応するべきだ。
地域住民の生活が後回しにされている
政府は観光を成長産業として扱い、2026年3月に決定した観光立国推進基本計画でも、2030年に訪日外国人旅行者数6,000万人、旅行消費額15兆円という目標を維持している。
一次情報:観光庁「観光立国推進基本計画」
ただし、数を増やすだけでは危険だ。
観光客が増えて国全体の収入が伸びても、地域住民がバスに乗れない、夜に眠れない、家の前にごみを捨てられるという状態では、持続可能な観光とは呼べない。
住民の生活を犠牲にして観光収入を増やす政策は、長く続かない。
政府も現在は、観光客の集中やマナー違反を公的な課題として認め、オーバーツーリズム対策を支援している。
一次情報:観光庁「オーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた取組」
問題は、対策の速度が観光客の増加に追いついていないことだ。
一部の迷惑行為が外国人全体の印象を悪くしている
ルールを守る外国人観光客は多い。静かに寺社を見学し、ごみを持ち帰り、地域の店で買い物をする人もいる。
しかし、SNSやニュースで広がるのは、文化財を傷つけたり、店員に暴言を吐いたり、危険な撮影をしたりする映像だ。
その結果、一部の人の行為が外国人全体の行為として受け取られる。
これは正確ではない。しかし、住民側に我慢だけを求めれば、感情的な排除論が強まるのも当然だ。
差別を減らすためにも、悪質な違反者には早い段階で厳しく対応しなければならない。
外国人観光客を一括して排除すれば解決するのか
国籍だけを理由に排除するのは現実的ではない
外国人観光客を一括して排除すれば、迷惑行為だけでなく、観光収入や雇用、地域の売上も同時に失われる。
2025年には訪日外国人によって約9.5兆円が消費されている。宿泊施設、飲食店、交通機関、百貨店だけでなく、地方の小さな店にも影響がある。
また、「外国人」というだけで入国や施設利用を拒否すれば、ルールを守っている人まで同じ扱いになる。
それでは問題行為への対策ではなく、単なる国籍差別になってしまう。
必要なのは「外国人を排除すること」ではない。「文化や自然、住民の生活を傷つける者を排除すること」だ。
この違いを曖昧にしてはいけない。
観光客の人数には上限が必要である
無制限に観光客を受け入れながら、「マナーを守ってください」と呼びかけるだけでは無理がある。
狭い道路に何千人も集めれば混雑する。小さな寺院に団体客が次々と入れば、静かな環境は失われる。自然の登山道に人が集中すれば、環境への負荷が増える。
これは国籍以前に、受け入れ能力の問題だ。
予約制、時間指定、人数制限、入場料の値上げなどを導入し、観光客の総数を管理する必要がある。
「お金を払えば何をしてもいい」という話ではない。集めた料金を警備、清掃、文化財の修復、自然保護、住民向け交通対策に使うのだ。
悪質な違反には罰金や再入場禁止を適用するべき
注意看板だけでは、故意にルールを破る人には効果がない。
私有地への侵入、文化財への落書き、器物損壊、危険区域への侵入などには、既存の法律や条例を適切に適用するべきだ。
観光施設でも、悪質な利用者については退場、再入場禁止、損害賠償請求などを明確にする必要がある。
重大な犯罪については、刑事手続や出入国管理上の判断も含め、法令に基づいて処理すればよい。入国管理は、問題のない外国人を円滑に受け入れる一方で、厳格な審査を行う制度として運用されている。
一次情報:出入国在留管理庁「出入国手続」
ただし、軽いマナー違反だけで直ちに国外退去にできるわけではない。処分は法律と証拠に基づいて行わなければならない。
感情ではなく、明確な基準で厳しく対応することが重要だ。
日本の文化と自然を守るために必要な対策
入国前からルールを伝える
日本に着いてから小さな看板を見せるだけでは遅い。
航空券やホテルを予約した時点で、日本の法律、立入禁止区域、撮影マナー、ごみ処理、公共交通の利用方法などを案内するべきだ。
航空会社、旅行予約サイト、旅行会社、動画配信サービス、SNS広告などを使えば、旅行前から情報を届けられる。
特に団体旅行については、旅行会社やガイドにも説明責任を持たせるべきだ。
「知らなかった」という言い訳を減らすには、入国前の説明が必要になる。
多言語表示は短く分かりやすくする
長い説明文を何か国語にも翻訳して並べても、ほとんど読まれない。
必要なのは、禁止行為と罰則が一目で分かる表示だ。
「立入禁止」「撮影禁止」「違反者には罰金」「防犯カメラ作動中」など、短い言葉と絵で示した方が伝わる。
さらに、文化的な理由も説明する必要がある。
単に「触るな」と書くだけでなく、「この建物は数百年前から保存されており、接触によって劣化する」と説明すれば、理解されやすくなる。
観光税や入場料を地域住民に還元する
観光によって発生する清掃、警備、交通整理、トイレ整備などの費用を、地域住民の税金だけで負担するのは不公平だ。
宿泊税、入山料、文化財保全料などを導入し、観光客にも必要な費用を負担してもらうべきである。
ただし、料金を取るだけでは意味がない。
何に使ったのかを公開し、地域の清掃、文化財の修復、自然保護、住民向け交通サービスなどに確実に使う必要がある。
観光で利益を得るなら、観光によって生じた損失も観光収入から補う。これが当然の仕組みだ。
有名観光地への集中を減らす
京都、富士山、鎌倉、奈良など、世界的に有名な場所だけに観光客を集め続ければ、混雑は悪化する。
政府は地方への誘客を進めているが、単に別の地域を宣伝するだけでは不十分だ。交通手段、案内、宿泊施設、決済環境なども整備する必要がある。
早朝や夜間への時間分散、予約制の導入、混雑状況のリアルタイム表示なども有効だ。
観光客を増やす政策から、観光客の場所と時間を管理する政策へ切り替えなければならない。
「外国人排除」ではなく「違反者排除」を徹底するべき
外国人観光客による文化・自然への被害は、決して無視できない。
私有地への侵入、文化財への落書き、竹林を傷つける行為、ごみのポイ捨て、危険な登山などは、厳しく対応するべきだ。
日本の文化や自然は、一度失えば簡単には戻らない。「観光収入があるから我慢しろ」という考え方では守れない。
一方で、すべての外国人観光客を国籍だけで排除する考えにも賛成できない。ルールを守り、日本の文化を尊重して旅行する人まで敵として扱えば、日本自身の信用を失う。
必要なのは、曖昧な「おもてなし」ではない。
守るべきルールを旅行前に伝える。観光客の人数を管理する。必要な費用を負担してもらう。そして、悪質な違反者には罰金、退場、損害賠償、再入場禁止などを実際に適用する。
国籍ではなく行為で判断するべきだ。
日本の文化と自然を尊重する人は歓迎する。しかし、日本の法律を無視し、地域住民の生活や文化財を傷つける人まで歓迎する必要はない。
守らない者には厳しく退場してもらう。その明確な姿勢こそ、日本の観光地と住民の生活を守る現実的な答えである。

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