日本ではなぜ夫婦別姓が認められないのか？
現在、日本では民法750条により、結婚すると夫婦は「同一の氏（姓）」を名乗らなければならないと定められています。夫婦どちらかが姓を変更する必要があり、現実的には9割以上のケースで女性が改姓を余儀なくされています。
この制度は「家族の一体感を保つため」とされていますが、実際には多くの問題や不公平を生んでいます。世界的に見ると、日本以外で夫婦同姓を法律で義務づけている国はほとんど存在せず、日本の制度は国際的にも異例です。
改姓による個人のアイデンティティの喪失
結婚により姓を変えることで、多くの人が「自分らしさ」や「これまで築いてきた名前に対する誇り」を失うと感じています。特に仕事や学術の場面で旧姓が広く認知されている場合、改姓によって実績とのつながりが断たれることになり、精神的なストレスや社会的な不利益を被ることになります。
例えば、研究者や著者の場合、論文や著書が旧姓で掲載されていると、改姓後のキャリアとの一貫性が損なわれることがあります。ビジネスの場でも、名刺や社内外の信用に影響を与えるケースが少なくありません。
改姓手続きがもたらす膨大な手間とコスト
姓を変更することで、以下のような書類や契約のすべてを変更しなければならなくなります。
- 運転免許証
- 銀行口座
- クレジットカード
- パスポート
- 保険・年金関係
- 賃貸契約やローン契約
- 勤務先の名簿やメールアドレス
- SNSやメールアカウントなどのオンラインサービス
これらの変更には膨大な時間と手間、場合によっては費用もかかります。多くの女性が出産や転居と同時にこの作業を強いられることになり、精神的・肉体的な負担は非常に大きいものです。
子どもとの姓が一致しないことへの不安
「夫婦別姓にしたら子どもの姓はどうなるのか？」という疑問や不安がよく挙げられます。しかし、夫婦別姓を認めたうえで「子どもの姓は夫婦で選ぶ」という制度設計は十分可能です。
現在の制度下でも、親と子の姓が異なるケースはすでに存在しており、例えば再婚家庭や国際結婚の場面では一般的です。それにもかかわらず「家族の一体感が損なわれる」という理由で夫婦別姓が認められないのは、制度としての整合性に欠けていると言えるでしょう。
キャリア女性への不利益とジェンダー格差
日本での改姓制度は、実質的に女性にだけ大きな負担を強いる仕組みになっています。結婚後も姓を変えずに働き続けたいと願う女性がいても、法律上それは認められておらず、「事実婚」や「旧姓使用」というグレーゾーンで対応せざるを得ません。
このような制度の不備は、女性の社会進出を妨げる要因の一つとなっており、ジェンダー平等の観点からも見直しが求められています。
事実婚を選ばざるを得ない人々の増加
夫婦別姓ができないために「法律婚」を諦め、「事実婚」を選ぶカップルが増えています。しかし、事実婚では以下のような法的な不利益を被る可能性があります。
- 税制上の控除が受けられない
- 配偶者ビザや永住権の申請に不利
- 相続権が認められない
- 医療現場での面会・同意が制限される
「夫婦としての実態があるにもかかわらず、法律上は赤の他人として扱われる」という現状は、制度が現代社会に追いついていない証拠です。
国際的な評価と日本の遅れ
国連の女子差別撤廃委員会（CEDAW）は、日本に対して再三にわたり「夫婦別姓の法整備を進めるべき」と勧告を出しています。また、OECD加盟国の中でも、夫婦同姓を強制しているのは日本のみという状況です。
こうした国際的な批判は、観光立国・経済大国としての日本のイメージや国際的信頼にも影響を与えかねません。グローバル化が進むなかで、制度のアップデートは急務です。
夫婦別姓を選べる社会へ：制度の選択肢化こそが重要
重要なのは「全ての夫婦に別姓を強制すること」ではなく、「同姓か別姓かを自由に選べるようにすること」です。同姓を望む人がそれを選べるようにしつつ、別姓を希望する人にはその選択肢を用意する。それだけの話です。
個人の信念、キャリア、ライフスタイルを尊重できる社会こそ、持続可能で多様性のある未来につながります。
まとめ：制度がもたらす無言の圧力からの解放を
「結婚したら姓を変えるのが当たり前」という考え方は、もはや時代遅れになりつつあります。今後は、誰もが自分の名前を守りながらパートナーと法的にも家族になれる選択肢が必要です。
夫婦別姓をめぐる議論は、単なる姓の問題にとどまらず、個人の尊厳、ジェンダー平等、社会の多様性という大きなテーマと深く関わっています。
選択肢のある社会は、誰にとっても生きやすい社会です。私たちは今、その実現のための第一歩を踏み出す時に来ているのではないでしょうか。
コメント