ASRockのビデオカード売り場を見ると、かなり不思議なことに気づきます。
AMDのRadeonはある。Intel Arcもある。ところが、NVIDIAのGeForceだけがない。
「ASRockにはGeForceを作る技術がないのか?」
そんなはずはありません。ASRockはすでにハイエンドのRadeonからIntel Arcまで製品化しています。それなのに、圧倒的なシェアを持つNVIDIAだけ扱わない。これは少し不自然ではないでしょうか?
私も以前は「AMDとの独占契約でもあるのだろう」と考えていました。しかし、現在の製品構成や過去のASRock関係者の発言まで調べると、話はそれほど単純ではありません。
結論から言えば、ASRockがNVIDIA製ビデオカードを出さない最大の理由は、技術力よりもNVIDIAを中心としたAIB業界の力関係にある可能性が高いです。
しかもASRock自身も、かなり意味深な発言を残しています。
ASRockは本当にNVIDIA製ビデオカードを販売していない
まず確認しておきたいのは、現在のASRockのラインアップです。
2026年時点のASRock公式ビデオカードページを見ると、大きく分けて、
- AMD Radeon
- Intel Arc
の2種類が並んでいます。
RadeonではRX 9000シリーズなどを展開し、IntelについてもArc BシリーズやArc Proまで扱っています。
ところが、NVIDIA GeForceはありません。
これは数年前だけの話ではありません。ASRockがビデオカード市場へ進出してから現在まで、GeForce搭載カードを本格的に販売していないのです。
ASRockがビデオカード市場へ参入したのは2018年
ASRockがビデオカード市場へ本格参入したのは2018年です。
最初に投入したのが「Phantom Gaming」シリーズでした。
搭載GPUはRadeon RX 580やRX 570など、すべてAMD製です。
当時ASRockのCEOは、AMDについて「強力で信頼できるパートナー」と説明しています。AMD側もASRockとの協力を歓迎していました。
つまりASRockのGPU事業は、最初からAMDとの強い協力関係によって始まったわけです。
ASRock公式 Phantom Gamingグラフィックスカード市場参入発表
ただし、ここだけを見ると「AMDとの独占契約があるからNVIDIAを扱えない」と考えたくなります。
ところが、その説明では現在のASRockを説明できません。
「AMDとの独占契約」が理由とは考えにくい
ASRockは2022年からIntel Arc搭載ビデオカードにも参入しました。
現在ではIntel Arc B580、B570など複数のIntel GPUを販売しています。つまり、少なくとも現在のASRockは「AMDしか扱えないメーカー」ではありません。
AMDとIntelを同時に扱っています。
この事実はかなり重要です。
もしASRockとAMDの間に「他社GPUを販売してはいけない」という強い独占契約が現在も存在するなら、Intel Arcを販売することも難しいはずです。
ところがASRockは普通にIntel製GPUを販売しています。
そのため私は、「AMDとの独占契約だけが原因」という説は現在ではかなり無理があると考えています。
もっと別の事情を見る必要があります。
ASRock関係者が語った「NVIDIA製VGAは難しい」という発言
ここから一気に話がおもしろくなります。
2024年、韓国のPCメディアQuasarZoneがASRock関係者へのインタビューを掲載しました。
そのインタビューについてWccftechやHotHardwareが報じた内容によると、ASRock側はNVIDIA製ビデオカードを作る可能性について、簡単ではないという趣旨の回答をしています。
さらに、NVIDIAの市場支配が非常に強くなり、NVIDIA製VGAを製造すること自体が大きな力を持つようになったという説明までしています。
そしてASRockについては、現在AMDとIntelのVGAを作っているため、**「今すぐNVIDIA VGAを製造するのは難しい」**という内容が報じられました。
ここはかなり重要です。
ASRock側は、
「技術的に作れない」
とは言っていません。
むしろ話の中心は、長年NVIDIAと取引してきたメーカーと、現在のGPU市場におけるNVIDIAの強い立場です。
私はこの発言こそ、ASRockにGeForceがない理由を考える最大のヒントだと思っています。
ただし注意も必要です。
このNVIDIAに関する質疑は、現在公開されているQuasarZoneの記事では確認できません。現在の記事には別内容のQ13が掲載されています。そのため、この発言についてはWccftechやHotHardwareなどが当時掲載した内容を基に判断する必要があります。
つまり、公式に「NVIDIAから拒否された」と発表されたわけではありません。
ここを混同してはいけません。
NVIDIAのビデオカード市場は既存メーカーが強すぎる
では、なぜASRockにとってNVIDIA参入が難しいのでしょうか。
私はここにAIB市場特有の事情があると考えています。
NVIDIAにはすでに大量の有力パートナーがいる
NVIDIAのGeForceには、
- ASUS
- MSI
- GIGABYTE
- ZOTAC
- Palit
- Gainward
- PNY
- Colorful
- INNO3D
- GALAX
など、多くのメーカーが存在します。
NVIDIA自身が公開しているGeForce RTX製品のパートナー一覧にも、こうしたメーカーが並んでいます。
その中にASRockはありません。
つまりNVIDIAから見れば、GeForceを販売する会社が足りなくて困っている状態ではありません。
ここがAMDやIntelとの大きな違いだと私は考えています。
NVIDIAの市場シェアがあまりにも大きい
さらに厄介なのが市場シェアです。
Jon Peddie Researchによると、2025年第4四半期のAIB市場ではNVIDIAのシェアがさらに拡大しました。報道では約94%に達したとされています。
これは尋常ではありません。
GPUメーカーがAIBメーカーを探すというより、AIBメーカー側がNVIDIA製品を扱いたい立場になりやすい市場構造だと考えるほうが自然です。
2024年に報じられたASRock関係者の「NVIDIA VGAを製造することが力になった」という趣旨の発言とも一致します。
ASRockほどのメーカーでも、単に「RTXを作りたいです」と言えば翌日からGPUが送られてくるような世界ではないのでしょう。
残念ながらPC業界も友情でGPUを配っているわけではありません。
ASUS・MSI・GIGABYTEだけ事情が違う理由
ASRock関係者の発言として報じられた内容では、ASUS、GIGABYTE、MSIについても触れられています。
この3社はAMDとNVIDIAの両方のビデオカードを長期間販売しています。
しかし、この3社はASRockよりかなり早い時期からグラフィックスカード市場で活動してきました。
つまり、GPUメーカー同士の力関係が現在ほど固まっていなかった時代からNVIDIAとの関係を築いています。
ASRockは違います。
ASRockがGPU市場へ参入したのは2018年です。
すでにGeForce市場には強力なメーカーが何社も存在していました。
ここで後からASRockが入ろうとしても、
「ぜひお願いします」
とNVIDIA側が迎え入れる必要性はそれほど大きくありません。
むしろ既存パートナーとの供給、価格、製品数、販売地域などを考えれば、メーカーを無制限に増やす必要もないでしょう。
ASRockの参入が難しいという説明には、十分な説得力があります。
では、なぜIntel ArcはASRockから発売できたのか?
ここで逆の疑問が出てきます。
「NVIDIAが難しいなら、なぜIntelとは簡単に組めたのか?」
私はむしろ、この違いが答えを分かりやすくしていると思います。
Intel Arcは新規参入したGPUブランドです。
当然ですが、Intelとしては自社GPUを販売してくれるAIBメーカーを増やしたい立場です。
ASRockのように、
- 世界規模の販売網がある
- マザーボードで高い知名度がある
- すでにGPU設計の経験がある
- Phantom GamingやSteel Legendなどのブランドを持っている
メーカーは魅力的です。
実際、ASRockはArc AシリーズからBシリーズへとIntel製GPUのラインアップを拡大しています。
一方のNVIDIAはすでに多数のパートナーを抱え、市場でも圧倒的です。
同じGPUメーカーでも、ASRockを必要とする度合いがまったく違う。
ここが大きなポイントでしょう。
「GeForce Partner Program」が原因なのか?
ASRockとNVIDIAについて調べると、「GeForce Partner Program」、通称GPPの話が出てくることがあります。
確かに時期だけを見ると怪しく感じます。
ASRockがPhantom GamingでGPU市場へ参入したのが2018年3月。
NVIDIAがGPPを終了すると発表したのが2018年5月です。
あまりにも近い。
NVIDIA自身も2018年5月4日にGPPを終了すると公式発表しています。
しかし、ここから、
「ASRockがGeForceを作れないのはGPPのせいだ」
と結論付けるのは無理があります。
なぜならGPPそのものは2018年に終了しているからです。
2026年になってもASRockからGeForceが登場していない以上、GPPだけを現在まで続く直接的な原因と考えることはできません。
当時のGPUメーカーとAIBメーカーの関係を考える材料にはなりますが、それ以上ではありません。
ここは都市伝説と事実を分けるべきです。
NVIDIAがASRockを嫌っているという証拠もない
もう一つありがちな説があります。
「NVIDIAがASRockを嫌っているのでは?」
これも証拠はありません。
NVIDIAがASRockのGeForce参入を正式に拒否したという公式発表は、少なくとも公開情報からは確認できません。
ASRock側も「NVIDIAから断られた」とは公表していません。
したがって、
「NVIDIAがASRockを締め出している」
と断定するのは危険です。
確認できるのは、
ASRockはAMDとIntelのGPUを販売しているがNVIDIA製品は扱っていない。そしてASRock関係者が、NVIDIA製VGAへの参入は難しいという趣旨の説明をしたと報じられている。
ここまでです。
それ以上は推測になります。
ただ、その推測をする材料はかなりそろっています。
ASRockにとっても無理にGeForceへ参入する必要がない
NVIDIA側の事情だけではありません。
ASRock側にも理由があるはずです。
ASRockは現在、RadeonだけでもTaichi、Phantom Gaming、Steel Legend、Challengerなど複数ブランドを展開しています。
Intel Arcにも同じブランドを広げています。
この状態からGeForceへ参入すれば、さらに多くの製品開発、冷却設計、基板設計、検証、在庫管理、販売サポートが必要になります。
GeForce市場は巨大ですが、そのぶんASUS、MSI、GIGABYTE、ZOTACなど強敵だらけです。
苦労して参入しても、簡単に利益が出るとは限りません。
それならRadeonとArcで独自の立場を取る。
私は経営判断として十分に理解できます。
今後ASRock製GeForceが登場する可能性はあるのか
可能性はゼロではありません。
2024年に報じられたASRock関係者の発言も、「永久に作らない」と断定したものではありません。
GPU市場の力関係が変われば状況も変わります。
たとえば、
- NVIDIAがAIBパートナーを増やす
- 既存パートナーが撤退する
- ASRockのGPU事業がさらに大きくなる
- NVIDIAとASRockの間で新しい提携が成立する
といった変化があれば、ASRock GeForceが誕生する可能性はあります。
実際、GPU業界ではEVGAのようにNVIDIAとのビデオカード事業から撤退したメーカーも存在します。
メーカーの関係が永遠に固定されているわけではありません。
ただし、2026年現在のASRock公式ラインアップを見ても、AMDとIntelが中心です。NVIDIA GeForce参入を示す公式発表も確認できません。
そのため、少なくとも現時点では「ASRock RTX 5090」や「ASRock RTX 5070」のような製品を期待する段階ではないでしょう。
まとめ:ASRockがNVIDIA製ビデオカードを出さない本当の理由
ASRockがNVIDIA製ビデオカードを出さない理由を調べてみると、「AMDとの独占契約だから」という単純な説明では足りません。
ASRockはすでにIntel Arcを販売しています。つまりAMD専業ではありません。
それでもNVIDIAだけがない。
さらに2024年には、ASRock関係者がNVIDIAの強い市場支配に触れながら、現在NVIDIA製VGAを製造することは難しいという趣旨の回答をしたと複数メディアが報じています。
私はここが一番重要だと考えています。
ASRockにGeForceがない理由は、技術不足というより、
NVIDIAが圧倒的なシェアを持つ現在のGPU市場で、後発のASRockが新しくNVIDIA AIBメーカーになるハードルが高いから
と見るのが最も自然です。
もちろん契約内容は公開されていないため、「これが秘密の契約だ」と断定することはできません。
しかし、ASRockはRadeonだけでなくIntel Arcまで作れるメーカーです。
それでもGeForceだけ作っていない。
この状況を見る限り、問題は作れるかどうかではなく、NVIDIA製品を作れる立場に入ることのほうが難しいのでしょう。
GPUの世界は性能競争だけではありません。
誰がチップを供給し、誰に製造を認め、どのメーカーがどの陣営の商品を売るのか。表からは見えにくいメーカー同士の力関係も、製品ラインアップを大きく左右しています。
ASRockの売り場に存在しないGeForceは、その事情をかなり分かりやすく映しているのかもしれません。

コメント