発達障害のひとつであるASD(自閉スペクトラム症)は、社会生活や職業生活で困難を感じることが多く、支援や配慮が必要な障害のひとつです。そんなASDが「障害年金の対象になるのか?」と疑問を持つ人も多いでしょう。実は、ASDでも一定の条件を満たせば障害年金を受け取ることが可能です。この記事では、ASDが障害年金の対象となるケースや認定基準、申請の流れまでをわかりやすく解説します。
ASDとは?自閉スペクトラム症の基本理解
ASD(Autism Spectrum Disorder)は、対人関係やコミュニケーションの難しさ、興味や行動の偏りなどを特徴とする発達障害です。
近年では「自閉症」「アスペルガー症候群」などを含む広い概念として扱われています。
ASDの主な特徴は以下の通りです。
- 対人関係の築きにくさ
 - 状況や空気を読むのが苦手
 - 特定の分野に強い興味を持つ
 - 予定外の変化に強い不安を感じる
 
このような特徴により、日常生活や職場での適応が難しい場合があります。
ASDは障害年金の対象になる?
結論から言えば、ASDは障害年金の対象になります。
ただし、すべてのASD当事者が自動的に受給できるわけではありません。
「生活や仕事にどの程度の支障が出ているか」が認定のポイントです。
障害年金の対象となる発達障害の例
- 自閉スペクトラム症(ASD)
 - 注意欠如・多動症(ADHD)
 - 学習障害(LD)
 - 広汎性発達障害
 
これらの発達障害は、精神の障害として「精神障害者保健福祉手帳」や「障害年金」の対象に含まれています。
ASDで障害年金が受け取れる条件
障害年金の受給には、次の3つの条件をすべて満たす必要があります。
1. 初診日の要件
ASDの症状が初めて診断された日、または最初に医療機関を受診した日を「初診日」といいます。
この初診日において、国民年金または厚生年金に加入していることが必要です。
2. 保険料納付の要件
初診日の前日において、
- 保険料を納めた期間と免除された期間を合わせて全期間の3分の2以上あること
または、 - 直近1年間に保険料の未納がないこと
 
このいずれかを満たす必要があります。
3. 障害認定日の要件
初診日から1年6か月を経過した日、またはそれ以前に症状が固定した日が「障害認定日」とされます。
この時点で、日常生活や就労が困難であると判断された場合、障害年金が支給されます。
ASDで受けられる障害年金の種類
日本の障害年金には、主に以下の3種類があります。
- 障害基礎年金(国民年金加入者向け)
 - 障害厚生年金(厚生年金加入者向け)
 - 障害手当金(軽度の場合に一時金として支給)
 
ASDの場合、一般的には「精神の障害」として扱われ、精神の障害用の等級表に基づいて判断されます。
ASDの障害等級の目安
障害年金の支給には、障害の程度を示す「等級」が設定されています。
ASDの症状の重さや社会生活への影響度により、次のように分類されます。
| 等級 | 生活・就労の状況 | 年金の種類 | 
|---|---|---|
| 1級 | 常に他人の援助が必要な状態 | 障害基礎年金のみ | 
| 2級 | 日常生活に著しい制限がある | 障害基礎年金または厚生年金 | 
| 3級 | 労働に著しい制限がある(厚生年金のみ) | 障害厚生年金のみ | 
このように、生活の困難さが大きいほど上位の等級が認定されます。
ASDの障害年金で重視されるポイント
ASDで障害年金を申請する場合、診断書だけでなく「日常生活の困難さ」が重要な判断基準になります。
具体的には以下の点が重視されます。
- 対人関係がうまく築けない
 - 職場での適応が難しい
 - 感情のコントロールが困難
 - 金銭管理や家事が自力で行えない
 - 通院や服薬の管理に介助が必要
 
これらが医師の診断書や第三者の意見書などに記載されることで、認定されやすくなります。
ASDの障害年金申請に必要な書類
申請に必要な書類は、以下の通りです。
- 年金請求書(所定の用紙)
 - 診断書(発達障害専用の様式あり)
 - 病歴・就労状況等申立書
 - 年金手帳または基礎年金番号通知書
 - 戸籍謄本または住民票
 
特に「病歴・就労状況等申立書」は、本人の生活状況を細かく記入する重要な書類です。
ASDで障害年金が不支給になる主な理由
残念ながら、申請しても不支給となるケースもあります。主な理由は次の通りです。
- 診断書の内容が不十分
 - 日常生活の困難さが具体的に記載されていない
 - 初診日が特定できない
 - 保険料納付要件を満たしていない
 
ASDは目に見えにくい障害であるため、書類上で「どれほど生活に支障があるのか」を丁寧に伝えることが大切です。
障害年金の申請を成功させるコツ
ASDで障害年金を確実に受け取るためには、以下の3つのポイントを押さえましょう。
- 専門医の診断を受けること
ASDに詳しい精神科または発達障害専門医で診断を受け、適切な診断書を作成してもらう。 - 書類の整合性を保つこと
医師の診断書と本人の申立書の内容が一致していることが重要です。 - 社会保険労務士(社労士)に相談すること
発達障害に詳しい社労士に依頼すれば、書類作成のサポートや不備の防止ができます。 
ASDで障害年金を受け取っている人の事例
- Aさん(30代男性・ASD)
職場でのコミュニケーションが困難で、転職を繰り返していたが、障害基礎年金2級に認定。
現在は就労支援を受けながら週3日の勤務を継続。 - Bさん(20代女性・ASD+ADHD)
日常生活の管理が難しく、家族のサポートが必要。障害厚生年金3級を受給。 
このように、ASDでも個々の生活状況に応じて柔軟に認定されるケースがあります。
ASDで障害年金を申請する際の注意点
- 再審査請求が可能:一度不支給になっても、再度審査を申請できます。
 - 更新の必要あり:症状の改善・悪化に応じて、数年ごとに再認定が行われます。
 - 自治体の障害福祉サービスと併用可能:障害手帳や福祉制度との併用で支援を拡大できます。
 
ASDの障害年金は生活の安定につながる支援制度
ASDの人が社会で自立して生活していくには、安定した経済的支援が欠かせません。
障害年金はそのための重要な制度であり、適切に申請すれば確実に生活の助けとなります。
自分ひとりで判断せず、医師や社労士、家族、支援機関に相談しながら手続きを進めることが大切です。
まとめ
ASD(自閉スペクトラム症)は、一定の条件を満たせば障害年金の対象になります。
- ASDは精神障害として認定される
 - 日常生活・就労への支障が基準
 - 初診日・保険料納付・認定日の要件を満たす必要あり
 - 専門医と社労士のサポートが成功のカギ
 
障害年金は、ASDのある人が安心して暮らすための大切な制度です。
正しい知識を持ち、早めに相談・申請することで、より安定した生活を築くことができます。

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