FIPとは?猫にとって致命的なウイルス性疾患の正体
FIP(猫伝染性腹膜炎)は、猫コロナウイルス(FCoV)に感染した猫の一部が発症する致死性の高い疾患で、多くの飼い主にとって非常に恐れられている病気です。コロナウイルス自体は一般的に無害な腸内ウイルスですが、突然変異を起こすことでFIPウイルス(FIPV)へと変化し、免疫反応の暴走を引き起こします。この暴走によって腹膜や胸膜、神経系、臓器などに重篤な炎症が起こり、発症後は短期間で命を落とすこともあります。FIPは主に1歳未満の若齢猫や、免疫力が低下している猫に多く見られるのが特徴です。
FIPの種類とそれぞれの症状
FIPには大きく分けて「ウェットタイプ(滲出型)」と「ドライタイプ(非滲出型)」の2種類があります。両方が混合した「混合型」も存在します。
ウェットタイプ(滲出型)
腹腔や胸腔に液体(滲出液)が溜まり、以下のような症状が見られます。
- お腹が膨れる(腹水の貯留)
- 呼吸困難(胸水の貯留)
- 発熱(抗生剤が効かないタイプ)
- 食欲不振
- 元気消失
このタイプは進行が非常に早く、早期に治療を開始しなければ数日〜数週間で死亡することも珍しくありません。
ドライタイプ(非滲出型)
体内に液体は溜まりませんが、各臓器や神経に肉芽腫性病変が現れ、以下のような症状が出ます。
- 慢性的な発熱
- 目の炎症(ブドウ膜炎、眼底出血)
- 黄疸
- 神経症状(痙攣、麻痺、旋回運動)
- 貧血
- 体重減少
ドライタイプは進行が比較的遅く、診断が難しい分、見逃されやすい側面があります。
FIPの診断方法とその難しさ
FIPは確定診断が非常に難しい疾患とされてきました。なぜなら、症状や血液検査所見が他の病気と似ているからです。確定診断には、病変組織の病理検査や免疫染色など高度な検査が必要となるため、臨床では「臨床診断(限りなくFIPが疑われる)」という形で診断がなされることが多くあります。主な診断アプローチは以下の通りです。
- 血液検査(蛋白分画:A/G比、γグロブリン値など)
- エコー検査(腹水や胸水の確認)
- PCR検査(腹水・胸水中のFCoV RNAの検出)
- α1-AG(急性期蛋白)の上昇確認
- 眼底検査や神経学的検査(ドライ型の場合)
FIPは治る病気なのか?治療の現状とGモルヌピラビルの可能性
かつてFIPは「不治の病」とされてきましたが、近年希望の光が差し込みつつあります。2020年以降、海外で開発された「GS-441524」という抗ウイルス薬の登場により、治療可能な疾患として見直され始めました。日本では未承認薬であるため、正規の流通はされていませんが、個人輸入や一部の動物病院経由で入手する飼い主が増加しています。
また、近年注目を集めているのが「モルヌピラビル(Molnupiravir)」です。新型コロナウイルス治療薬として人間用に開発されたこの薬が、FIPに対しても抗ウイルス効果を示すという報告があり、SNSやブログでも「奇跡的に回復した」との症例がいくつも報告されています。
ただし、いずれも自己責任下での使用となるため、信頼できる獣医師と密に連携をとることが不可欠です。
FIPにかかったらどうする?治療の流れと費用の目安
FIPの治療は迅速な判断と開始が生死を分けるカギとなります。以下は一般的な治療の流れです。
- 臨床診断と検査
- 治療薬の選定(GS-441524製剤やモルヌピラビル)
- 投薬期間の設定(通常84日間が推奨)
- 経過観察と定期的な血液検査
- 寛解後のモニタリング(再発リスクもあるため)
費用に関しては、薬剤費だけで数十万円〜100万円超になることも珍しくなく、金銭的な負担が非常に大きい病気でもあります。クラウドファンディングを活用する飼い主も近年増加傾向にあります。
猫コロナウイルスとどう付き合うか?FIPの予防は可能か
FIPそのものを100%予防する手段は現時点で存在しませんが、FIPの原因となる猫コロナウイルス(FCoV)の感染を予防・制御することで発症リスクを減らすことは可能です。
- 多頭飼育環境ではトイレを小まめに掃除する(糞口感染が主)
- 感染猫と未感染猫を分離する
- ストレスを減らし免疫力を保つ
- 子猫時代の感染予防(ブリーダーや保護団体の衛生管理が重要)
FCoVに感染しても、ほとんどの猫は無症状または軽い下痢程度で済むため、FIPに発展しないよう「発症させない生活環境」が最も重要です。
飼い主ができること──FIPと闘う猫に寄り添う覚悟
FIPの治療は長期戦です。毎日の投薬、こまめな血液検査、高額な費用、そして再発の不安。飼い主の心身ともに大きな負担となります。しかし、それでも「愛猫を救いたい」という想いが、SNSやブログ、口コミを通じて多くの飼い主を支えています。
FIPを「治らない病気」と諦めるのではなく、正しい情報を持ち、できる限りの準備と行動を取ることが、命を救う可能性を最大化します。最新の研究・治療法は日々進歩しており、「希望がある病気」に変わりつつある今こそ、声を上げ、情報を共有することが求められています。
FIPと向き合うすべての猫と飼い主に、希望と支援が届くことを心から願います。
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