「力士のトレーニングは、ひたすら重い物を持って体を大きくするもの」
そんなイメージを持っている人は多いかもしれません。
しかし実際には、相撲の強さを作っているのは、派手な筋トレだけではありません。
むしろ重要なのが、四股、すり足、鉄砲などの非常に地味な「基礎練」です。
日本相撲協会でも、四股・鉄砲・すり足を相撲を代表する基本動作として紹介しています。
では、なぜ100kgを大きく超えるような力士が、毎日のように同じ基本動作を繰り返すのでしょうか?
私自身、筋トレについて調べれば調べるほど、この「地味な動作を繰り返す」という相撲の考え方はかなり合理的だと感じます。
結論から言えば、力士の基礎練は、筋力だけではなく、下半身・体幹・柔軟性・バランス能力をまとめて鍛えるためのトレーニングです。
しかも、四股やすり足なら特別な器具がなくてもできます。
ジムで高価なマシンを使わなければ強くなれないと思っているなら、一度このトレーニングを試す価値はあります。

力士の基礎練とは?なぜ四股を何度も繰り返すのか
力士の稽古というと、激しくぶつかり合う「ぶつかり稽古」を想像しやすいです。
もちろん実戦的な稽古も重要です。
しかし、その前に必要になるのが基礎です。
日本相撲協会は「相撲健康体操」の中で、相撲の代表的な基本動作として四股・鉄砲・すり足を紹介しています。
これらの動作には、重心を安定させ、足腰を鍛え、身体の中心軸を安定させる工夫があると説明されています。
参考:日本相撲協会「相撲健康体操」
さらに相撲界には、
「四股十両、鉄砲幕内」
という教訓まであります。
基本に忠実な四股ができれば十両、理にかなった鉄砲ができれば幕内にふさわしいと言われるほど、それだけ基本動作は奥が深いという意味です。
参考:日本相撲協会「大相撲クイズ No.1093」
つまり、四股は初心者だけが行う練習ではありません。
強くなったから卒業するメニューではなく、強くなるほど重要性が分かるタイプの練習なのです。
筋トレでもフォームを無視して重量だけ増やす人がいますが、相撲は何百年も前から「まず基本をやれ」と教えているわけです。
ここはかなり本質的だと思います。
力士の基礎練メニュー7選
ここからは、力士の代表的な基礎練と、自宅でも取り入れやすいトレーニングを紹介します。
1.四股|力士トレーニングの王道
力士の基礎練と聞いて、最初に思い浮かぶのが四股ではないでしょうか。
四股は単純に足を高く上げて地面を踏む運動ではありません。
日本相撲協会では、両足を開き、軸足に体重を乗せながら反対側の足を上げ、その後、上げた足を力強く下ろす基本動作として説明しています。
参考:日本相撲協会「四股の基本動作」
四股で特に使われるのが、
・太もも
・お尻
・股関節周辺
・腹部
・背中
・ふくらはぎ
などです。
さらに片足で体重を支えるため、バランス能力も必要になります。
実際にゆっくり四股をやってみると分かりますが、見た目ほど楽ではありません。
片足になった瞬間に身体がグラグラするなら、脚力だけでなく体幹やバランス能力にも改善の余地があります。
初心者なら、まず左右10回程度からでも十分です。
回数を増やすことより、身体が左右に大きく傾かないことを意識したほうがいいでしょう。
2.すり足|強い下半身と重心移動を作る
次に重要なのが「すり足」です。
相撲では、普通に歩くように足を高く上げて移動するわけではありません。
低い姿勢を維持しながら、足を地面に近い位置で動かします。
この動きを繰り返すことで、腰を落とした状態のまま前へ進む感覚を覚えていきます。
見た目は地味ですが、実際に腰を落として30秒ほど続けてみると、太ももがかなりきつくなります。
ポイントは、
・腰の高さを大きく変えない
・上半身を起こす
・膝とつま先の方向をそろえる
・慌てて速く動かない
ことです。
自宅なら、数メートル程度の安全なスペースでもできます。
まず「10歩進んで戻る」を数回行う程度から始めるだけでも十分でしょう。
3.鉄砲|腕ではなく全身で押す
「鉄砲」も相撲を代表する基礎練です。
相撲部屋では鉄砲柱に向かって行います。
大切なのは、腕だけで押すことではありません。
足から腰、体幹、肩、腕へと力を伝えていくことで、身体全体を連動させます。
鍛えられる部分は、
・胸
・肩
・腕
・背中
・腹部
・下半身
とかなり広いです。
自宅で本物の鉄砲柱を設置する人はまずいないでしょうし、賃貸住宅で壁を全力で叩けば別の問題が発生します。
そのため一般家庭では、壁に手を当てて軽く押す動作に置き換える方法があります。
壁を破壊する競技ではないので、力任せに行う必要はありません。
特に最初は、足、腰、上半身が連動する感覚を覚えることを優先しましょう。
4.股割り|力士の柔軟性を支える基礎
大きな身体の力士が驚くほど柔らかい理由のひとつが、日常的な柔軟運動です。
代表的なのが「股割り」です。
日本相撲協会の相撲指導でも股割りが取り入れられており、身体の柔軟性を保つことがケガの予防につながると紹介されています。
参考:日本相撲協会「相撲部屋開放 写真レポート」
股関節周辺が硬い人が、いきなり力士のような股割りをするのはおすすめしません。
初心者の場合は、
1.無理のない範囲で脚を開く
2.背筋を伸ばす
3.ゆっくり身体を前へ倒す
4.痛みが出る直前で止める
程度で十分です。
柔軟性は一日で手に入るものではありません。
無理に開脚してケガをしてしまえば完全に本末転倒です。
5.蹲踞(そんきょ)|低い姿勢を安定させる
相撲では「蹲踞」という姿勢も頻繁に登場します。
つま先を開き、腰を低く落とした状態で姿勢を保ちます。
一見すると座っているだけに見えますが、姿勢を安定させるには足首、股関節、下半身の柔軟性とバランスが必要になります。
一般的な筋トレではあまり行わない姿勢なので、相撲らしい身体の使い方を体験できる動作のひとつです。
ただし、膝や足首が硬い人には負担がかかります。
最初から深く腰を落とす必要はありません。
痛みが出ない範囲から徐々に慣らすべきです。
6.腰割り|下半身と股関節をまとめて鍛える
四股と合わせて取り入れたいのが腰割りです。
足を広めに開き、つま先と膝を外へ向けながら腰をゆっくり落としていきます。
一般的なスクワットに近い部分もありますが、相撲では股関節をしっかり開いた姿勢を作ります。
腰割りでは、
・太もも
・内もも
・お尻
・股関節周辺
をまとめて使います。
私も普通のスクワットと比較してみると、腰割りは特に内もも周辺を使っている感覚が強いと感じます。
自宅では10回程度から始めれば十分です。
ただし膝だけを内側へ入れないよう注意してください。
7.ぶつかり稽古|実戦に近い全身運動
力士の稽古を語るなら、ぶつかり稽古も外せません。
相手の胸へぶつかり、そのまま押していく稽古です。
瞬発力、脚力、体幹、心肺機能などをまとめて使う非常に激しいトレーニングになります。
ただし、これは自宅で気軽に再現するメニューではありません。
経験のない人同士が全力でぶつかれば、首・肩・膝などを痛める危険があります。
一般の人が力士トレーニングを取り入れるなら、四股・すり足・腰割りなどから始めたほうがはるかに安全です。
「本物っぽいから」という理由だけで、いきなり人間同士でぶつかる必要はありません。
自宅でできる力士基礎練メニュー
相撲部屋に入門するわけではなく、筋トレとして取り入れたいだけなら、全部を本格的に行う必要はありません。
私なら最初は次のように組みます。
初心者向け5〜10分メニュー
・腰割り 10回
・四股 左右10回
・すり足 往復3セット
・壁を使った軽い鉄砲 左右10回
・股関節ストレッチ 30秒程度
これだけでも十分です。
慣れてきたら回数やセット数を少しずつ増やします。
力士と同じ回数をいきなり真似する必要はありません。
プロの力士は、それまで何年も稽古を積んでいます。
運動不足の人が「今日から力士になるぞ」と突然大量の四股を踏めば、翌日に階段と和解できなくなる可能性のほうが高いです。
身体の状態に合わせて増やしていくべきです。
四股だけ毎日やっても効果はある?
四股だけでも、下半身やバランス能力を使う運動にはなります。
日本相撲協会も、四股を下半身を鍛える重要な稽古として紹介しています。
ただし、「四股だけやれば全身の筋トレは全部不要」という意味ではありません。
筋肉を大きくしたいのであれば、目的に合わせてスクワット、腕立て伏せ、懸垂、ウェイトトレーニングなどと組み合わせるほうが合理的です。
個人的には、
筋力を伸ばす筋トレ+身体を動かす基礎練
という組み合わせが使いやすいと感じます。
四股は「筋肉を大きくする種目」というより、足腰、柔軟性、体幹、バランスをまとめて使う動作として考えたほうが分かりやすいです。
力士基礎練はダイエットにも使える?
四股やすり足は、大きな筋肉が集まる下半身を使うため、運動習慣を作る方法として使えます。
ただし、四股を数十回しただけで急激に脂肪が落ちるわけではありません。
ダイエットの基本は、
・食事管理
・日常活動
・有酸素運動
・筋力トレーニング
などを組み合わせることです。
力士基礎練は、その中の「身体を動かす習慣」として取り入れるのが現実的でしょう。
特に器具が必要ないのは大きなメリットです。
力士基礎練をするときの注意点
力士の基礎練はシンプルですが、身体への負荷が小さいとは限りません。
膝や腰に痛みがあるなら無理をしない
四股や腰割りでは深く腰を落とします。
そのため、膝や腰に問題がある人が無理に深い姿勢を取るのは避けるべきです。
痛みがある場合は運動を中止し、必要に応じて医師や専門家へ相談してください。
最初から足を高く上げすぎない
四股というと「足を高く上げなければならない」と考えがちです。
しかし重要なのは高さを競うことではありません。
日本相撲協会が紹介する四股でも、体重移動をしながら軸足で身体を支えることが重要になります。
まずは低い位置から、安定したフォームを作るべきです。
回数よりフォームを優先する
100回の雑な四股より、10回の丁寧な四股。
私はこのくらいの意識でいいと思っています。
これはスクワットや腕立て伏せでも同じです。
疲れて姿勢が崩れた状態で回数だけ増やしても、目的から離れてしまいます。
力士基礎練についてよくある質問
力士は毎日四股を踏むの?
四股は相撲を代表する基本稽古です。
日本相撲協会も四股・鉄砲を非常に重要な基本として紹介しています。
ただし、実際の稽古内容や回数は部屋、力士、体調、場所前などによって異なるため、「全力士が毎日必ず○回」と一律に考えるべきではありません。
四股はスクワットの代わりになる?
似ている部分はありますが、完全に同じではありません。
スクワットは上下方向の動きが中心ですが、四股では片足で身体を支える場面があり、股関節の動きや左右への体重移動も大きくなります。
両方取り入れても問題ありません。
力士の基礎練は女性でもできる?
できます。
日本相撲協会の「相撲健康体操」も、相撲の基本動作をもとに、幅広い年齢や性別の人が行える体操として作られています。
ただし、本格的な力士の稽古をそのまま再現するのではなく、自分の体力に合わせて負荷を調整しましょう。
参考:公益財団法人日本相撲協会「相撲健康体操」
まとめ|力士の強さは「地味な基礎練」から作られている
力士というと、大きな身体と圧倒的なパワーばかりに注目してしまいます。
しかし、その強さの土台になっているのは、
・四股
・すり足
・鉄砲
・股割り
・蹲踞
・腰割り
・実戦的な稽古
といった、地道な基礎練です。
特に四股・鉄砲・すり足は、日本相撲協会も相撲を代表する基本動作として紹介しています。
つまり、何となく「昔からやっている謎のトレーニング」ではありません。
長い相撲の歴史の中で残り続けてきた、身体を作るための基本なのです。
そして面白いのは、その多くが特別なトレーニング器具を必要としないことです。
四股なら畳一枚程度のスペースでも始められます。
最新のトレーニングマシンも、高価なダンベルも必要ありません。
まず左右10回。
それだけでも構いません。
派手なトレーニングを探す前に、何百年も力士たちが繰り返してきた「地味な基礎」を試してみる。
意外と、それが一番身体の弱点を教えてくれるトレーニングになるはずです。


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