京都・嵐山に泊まるなら、駅前の新しいホテルで本当にいいのだろうか?
便利さだけを考えれば、それでもいい。しかし、せっかく京都まで来て、どこにでもありそうなホテルで夜を過ごしてしまう。それでは少し、もったいないと私は思う。
そんなときに気になるのが、渡月橋の南詰に構える老舗旅館「渡月亭」だ。
創業は明治30年。現在の場所に移ってからも嵐山の景色とともに歴史を重ね、客室、天然温泉、京会席という日本旅館らしい楽しみを残している。しかも、ただ古いだけではない。2023年には一部客室がリニューアルされ、半露天風呂付きの部屋も用意されている。渡月亭
個人的に面白いと思うのは、京都屈指の観光地である嵐山の中心部にありながら、宿そのものを目的地にできることだ。
観光して、温泉に入り、京料理を食べる。
それだけなら珍しくない。
だが渡月亭の場合、その背景に100年以上続く宿の時間と、さらにその向こうに1000年以上の嵐山の歴史が重なる。
「嵐山の歴史を纏う、京都の隠れ家」という言葉は、思った以上にこの宿の性格をよく表している。
渡月亭とは?渡月橋のすぐそばにある明治創業の老舗旅館
渡月亭は、京都市西京区嵐山中尾下町にある料理旅館だ。
場所は渡月橋の南側。京都市公式の京都観光Naviでも、渡月橋南詰に位置する宿として紹介されている。【京都市公式】京都観光Navi
まず、この立地が強い。
嵐山まで来ているのに、宿から観光地までさらに電車やバスに乗る必要がある。そんな移動は地味に疲れる。
渡月亭なら、宿を出ればすぐ嵐山だ。
朝の散歩にも向いているし、夕方まで観光してから宿へ戻るにも便利である。
公式情報:渡月亭公式サイト
創業は明治30年、1897年までさかのぼる
渡月亭の歴史を調べてみると、単に「明治創業の老舗です」で終わらないところが面白い。
公式サイトによると、明治20年ごろ、清凉寺の門前には複数の旅籠があり、その一つが「きくや」だった。
明治30年、つまり1897年4月1日、初代の古川金治郎がこの「きくや」を譲り受けて商売を始めたという。渡月亭
ところが時代が変わる。
交通が便利になると、愛宕詣でのために宿泊する人が減っていった。
そこで大正時代に入ると、初代は現在の嵐山方面への移転を決断する。
移転先が渡月橋のほとりだった。
そこで屋号も「きくや」から「渡月亭」へ変更したという。渡月亭
私はこの話を知って、渡月亭の印象がかなり変わった。
老舗旅館というと、「昔から同じ場所でずっと営業していました」というイメージを持ちやすい。
実際には違う。
交通の変化によって客が減り、場所を移し、名前まで変えて生き残った宿なのだ。
歴史は、古いものを守るだけでは続かない。
渡月亭の100年以上という時間は、むしろ変化を続けてきた結果なのである。
公式情報:渡月亭「6つの魅力」
「渡月亭」という名前そのものに嵐山の歴史が入っている
宿の名前になった渡月橋にも、当然ながら長い歴史がある。
京都市公式の京都観光Naviによれば、渡月橋の最初の架橋は834~848年ごろとされている。
さらに、亀山上皇が橋の上を移動する月を見て、「くまなき月の渡るに似る」と述べたことから「渡月橋」と呼ばれるようになったとされる。現在の橋は1934年に完成したものだ。【京都市公式】京都観光Navi
つまり「渡月亭」という名前は、単なる和風のネーミングではない。
嵐山という土地の歴史そのものから生まれた名前なのだ。
こういう背景を知ってから泊まると、宿の見え方が変わる。
ただの京都旅行ではない。
渡月橋を渡り、昔から人が歩いてきた嵯峨野を歩き、そのすぐそばの宿で夜を過ごす。
京都で老舗旅館に泊まる価値は、豪華な設備だけでは測れないと私は思う。
渡月亭の客室|碧川閣と秀山閣の違いを知って選びたい
渡月亭には「碧川閣」「秀山閣」「松風閣」という3つの館があるが、宿泊に使われているのは碧川閣と秀山閣の2館だ。
現在、客室は合計21室。
碧川閣が川辺側、秀山閣が山手側となっている。渡月亭
ここは予約前にきちんと見ておきたい。
「渡月亭に泊まる」と言っても、選ぶ客室によって体験はかなり変わるからだ。
景色を重視するなら碧川閣が魅力的
碧川閣は全5室。
公式サイトでは、嵐山を望める露天風呂付き客室2室、半露天檜風呂付き客室1室、半露天風呂付き客室2室が案内されている。渡月亭
中でも気になるのが、上階にある客室だ。
たとえば「清凉の間」には和室、茶室、ベッドルーム、半露天檜風呂があり、和室から渡月橋や大堰川、愛宕山方面を眺められる。
嵐山まで来たなら、景色まで宿泊料金の中に入れてしまいたい。
私はそう考えるので、記念日などで泊まるなら碧川閣はかなり気になる。
ただし注意したい点もある。
客室によっては「露天風呂付き」と書かれていても、その湯が天然温泉とは限らない。
たとえば碧川閣の一部露天風呂付き客室について、公式サイトは天然温泉ではないと明記している。
「部屋風呂=温泉」と思い込んで予約すると、人間は簡単に悲しい顔になる。
予約時には客室ごとの説明を確認したほうがいい。
公式情報:渡月亭の客室案内
温泉を重視するなら秀山閣も強い
一方の秀山閣は全16室。
天然温泉付き客室が1室、檜風呂付き客室があり、2023年8月には半露天檜風呂付き客室3室がリニューアルされている。渡月亭
中でも「嵐山の間」は、客室内の風呂に天然温泉を使った部屋だ。
外の景色ではなく、室内につくられた庭を眺めながら温泉に入る設計になっている。
これは面白い。
絶景を全面に出す碧川閣とは方向が違う。
外へ向かって開くというより、部屋の中に小さな世界を作っている。
人の多い嵐山を歩いたあとなら、こういう閉じた静けさのほうが落ち着く人もいるはずだ。
嵐山天然温泉に入れるのも渡月亭の大きな魅力
京都の観光は、とにかく歩く。
寺へ行き、庭を見て、竹林へ行き、また歩く。
夕方には「京都らしい風情」より先に足の疲れを感じていることも珍しくない。
そこで効いてくるのが温泉だ。
秀山閣には嵐山天然温泉の大浴場がある
渡月亭では、秀山閣に天然温泉の大浴場が設けられている。
嵐山温泉は2004年3月に開湯。
泉質は単純温泉で、公式サイトでは低張性アルカリ性温泉と案内されている。宿泊者の大浴場利用時間は、現在の公式案内では16時~24時、朝6時~9時となっている。渡月亭
碧川閣と秀山閣は地下でつながっているため、碧川閣の宿泊者も外へ出ずに大浴場へ移動できる。渡月亭
この点は地味に重要だ。
冬の京都で、浴衣姿のまま一度外へ出る。
風情と言えば聞こえはいい。
普通に寒い。
館内移動だけで済むのはありがたい。
貸切風呂「月読ノ湯」もある
さらに秀山閣には、嵐山天然温泉を使った貸切風呂「月読ノ湯」がある。
定員は4名まで。
現在の公式案内では45分4,400円、105分8,800円となっている。料金や利用時間は変更される可能性があるため、予約時に再確認したい。渡月亭
夫婦やカップル、家族旅行なら選択肢に入る。
大浴場が苦手な人にも使いやすい。
温泉そのものを旅の目的にする宿ではないかもしれない。
しかし、嵐山観光と温泉を一つの流れにできる。
これが渡月亭の強さだと思う。
夕食は京会席|「京都に泊まる意味」を食事でも感じられる
旅館を選ぶとき、私は食事をかなり重視したい。
なぜなら、夕食を外で食べるならホテルでもいいからだ。
旅館に泊まるなら、「この宿で食べる理由」がほしい。
渡月亭では、季節の食材を使った京会席を提供している。
公式サイトでは、温かい料理は温かいうちに、冷たい料理は冷たいうちに運ぶことや、季節に合わせて料理内容を変えていることが説明されている。渡月亭
公式情報:渡月亭のお料理
京料理は料理だけを食べるものではない
京会席の魅力は、派手な大皿料理とはかなり違う。
少量ずつ料理が出てきて、器が変わり、季節の食材が入り、盛り付けにも季節感が出る。
一品だけを切り取れば地味に感じる人もいるだろう。
しかし全部そろうと印象が変わる。
渡月亭も、料理だけでなく掛け軸、生け花、器、部屋の設えまで含めた「おもてなし」を重視すると説明している。渡月亭
ここは老舗旅館らしい部分だ。
大量に食べたいなら別の選択肢がある。
京都まで来て、その土地の季節や文化まで食事から感じたい。
そんな人に京会席は合っている。
渡月亭が「京都の隠れ家」に感じられる理由
「隠れ家」と聞くと、人里離れた山奥の宿を想像するかもしれない。
渡月亭は真逆だ。
渡月橋のすぐそばにある。
観光地の中心と言っていい場所である。
それでも私は、渡月亭には「隠れ家」という表現が似合うと思う。
理由は場所ではなく、時間の使い方にある。
昼間の嵐山と朝夕の嵐山は別物になる
嵐山は人気観光地だ。
特に桜や紅葉の季節には、多くの観光客が訪れる。京都市も渡月橋について春と秋を中心に多くの観光客でにぎわう場所と説明している。【京都市公式】京都観光Navi
その嵐山に「泊まる」と、日帰り観光とは違う時間帯を使える。
夕方。
夜。
そして早朝。
この差は大きい。
昼間に人でいっぱいだった場所を、翌朝もう一度歩いてみる。
同じ渡月橋でも感じ方は変わるはずだ。
私は観光地ほど「朝」を見たいと思う。
有名な場所をさらに一つ増やすより、人が少ない時間に同じ場所を見るほうが旅の記憶に残るからだ。
渡月亭の立地は、その使い方と相性がいい。
渡月亭は嵯峨野・竹林観光の拠点としても使いやすい
渡月亭に泊まるなら、渡月橋だけ見て終わるのはもったいない。
嵯峨野方面へ歩けば、竹林の小径、天龍寺周辺など、嵐山らしい場所をまとめて回りやすい。
宿へ荷物を置いてから歩けるのも大きい。
京都観光で何が面倒か。
荷物である。
キャリーケースを引きながら石畳や混雑した観光地を歩くのは、風情というより修行に近い。
宿を拠点にして身軽に歩けるだけでも、嵐山で一泊する意味はある。
渡月亭へのアクセス|阪急嵐山駅から近い
渡月亭の住所は京都市西京区嵐山中尾下町54-4。
公共交通機関では阪急嵐山駅から徒歩約5分、嵐電嵐山駅から徒歩約5分、JR嵯峨嵐山駅からは公式ページによって約15~18分と案内されている。渡月亭
京都駅から市バス28系統を利用する場合は、「嵐山公園」停留所から徒歩約1分。
車の場合は駐車場があり、公式案内では10台、高さ2mまでとなっている。渡月亭
公式情報:渡月亭のアクセス案内
JR嵯峨嵐山駅からの送迎は事前確認がおすすめ
一点だけ注意したい。
公式サイト内でも送迎について案内に差がある。
アクセスページでは15時~19時にJR嵯峨嵐山駅への迎えを行う旨が掲載されている一方、FAQでは送迎を見合わせている旨の記載も残っている。渡月亭
そのため、送迎を前提に予定を組む場合は、宿泊日前に渡月亭へ直接確認するのが確実だ。
Webサイトという文明の利器も、ページ同士で話が食い違うことくらいはある。
渡月亭がおすすめなのはこんな人
渡月亭は、ただ安く京都へ泊まりたい人向けの宿ではない。
むしろ、
- 京都らしい旅館に一度は泊まりたい
- 嵐山を朝夕までゆっくり楽しみたい
- 温泉も京料理も楽しみたい
- カップルや夫婦で落ち着いて過ごしたい
- 記念日の旅行で少し特別な宿を選びたい
- 新しいホテルより歴史のある宿に魅力を感じる
こうした人との相性がいい。
逆に、館内の新しさや最先端の設備を最優先する人なら、京都駅周辺の新しいホテルのほうが合う可能性はある。
ここは好みが分かれる。
渡月亭で買うのは、単純な「部屋の広さ」だけではない。
立地、料理、温泉、景色、そして宿が過ごしてきた時間まで含めて選ぶ宿なのだ。
まとめ|渡月亭は嵐山の歴史を「見る」のではなく「泊まって感じる」宿
京都にはホテルが山ほどある。
新しくて便利なホテルも増えた。
それでも渡月亭のような宿が残っているのは、単に建物が古いからではない。
1897年に始まり、時代の変化に合わせて嵐山へ移り、渡月橋から名前を取り、今もその場所で客を迎えている。渡月亭
そして、そのすぐ横にある渡月橋は、さらに1000年以上前まで歴史をさかのぼれる。【京都市公式】京都観光Navi
客室から景色を見る。
嵯峨野を歩く。
温泉に入る。
京会席を食べる。
早朝の渡月橋へ出てみる。
一つひとつは派手ではない。
だが、それらが同じ場所でつながると、京都旅行はかなり濃くなる。
個人的には、これこそ老舗旅館に泊まる面白さだと思う。
観光地を次々と消化するだけの京都旅行から、少し離れてみる。
渡月亭は「嵐山を見に行くための宿」ではなく、嵐山の中で一晩を過ごすための宿だ。
「渡月亭:嵐山の歴史を纏う、京都の隠れ家」という言葉が似合う理由は、そこにある。

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