「雲は空の高いところにあるもの」と思っていないだろうか。
実は、それは半分正しく、半分間違っている。
雲は1万m近い上空にできることもあれば、地上から数百mほどのかなり低い場所にできることもある。さらに低くなり、雲の底が地面まで届けば、私たちが「霧」と呼んでいる状態になる。
では、雲ができる高さは何によって決まり、雲が低いときはどんな時なのか?
結論から言えば、地上付近の空気が湿っていて、少し上昇しただけで水蒸気が水滴になる状態では、雲は低い位置にできやすい。
特に、湿度が高い日、雨の前後、朝方、山の近くなどでは雲底が低くなることがある。
ただし、「雲が低い=必ず雨が降る」と考えるのは少し乱暴だ。
空を見て天気を考えるなら、雲の高さだけでなく、雲の種類や広がり方まで見る必要がある。
雲ができる高さはどれくらい?
気象庁では、雲を高さなどによって大きく「上層雲」「中層雲」「下層雲」に分けている。
おおよその高さは次のようになる。
| 分類 | よく現れる高さ | 主な雲 |
|---|---|---|
| 上層雲 | 約5〜13km | 巻雲・巻積雲・巻層雲 |
| 中層雲 | 約2〜7km | 高積雲・高層雲・乱層雲 |
| 下層雲 | 地面付近〜約2km | 層雲・層積雲・積雲・積乱雲 |
気象庁の教材でも、下層雲は地面付近から約2km、中層雲は約2〜7km、上層雲は約5〜13kmによく現れると説明されている。
ただし、この数字は「絶対にこの高さ」という意味ではない。
その日の気温や湿度、大気の状態によって高さは変わる。さらに積雲や積乱雲のように、低いところからできて上空まで大きく成長する雲もある。
特に積乱雲は少々ややこしい。
分類では下層雲だが、雲の上部は中層や上層まで伸びることがある。分類は主に雲底などの特徴を見たものであり、「積乱雲は2km以下にしか存在しない」という意味ではない。
私たちが「雲の高さ」と感じているのは雲底であることが多い
地上から雲を見た場合、気になるのは雲の一番下の部分だ。
これを**雲底(うんてい)**という。
たとえば山の頂上が雲に隠れているとき、「今日は雲が低いな」と感じるだろう。
実際には雲そのものに厚みがあるため、雲の上端と下端では高さがかなり違う場合がある。そのため「雲が低い」という話では、主に雲底の高さを考えるとわかりやすい。
航空気象でも雲底の高さは重要な観測対象で、空港ではシーロメーターなどを使って観測されている。
そもそも雲はどうして空中にできるのか?
雲の高さを理解するには、雲ができる仕組みを知る必要がある。
雲の正体は、空気中に浮いている小さな水滴や氷の粒だ。
空気の中には、目には見えない水蒸気が含まれている。
その空気が上昇すると、周囲の気圧が低くなるため膨張する。そして空気は膨張すると温度が下がる。
温度が十分に下がると、それまで水蒸気として存在していた水分が小さな水滴や氷の粒になる。
それが集まって見えるものが雲だ。
つまり、
空気が上昇する → 空気が冷える → 水蒸気が水滴になる → 雲ができる
という流れになる。
雲は、何もない空に突然出現しているわけではない。
見えなかった水蒸気が、温度低下によって見える水滴に変わっているのだ。
空気が湿っているほど少し上昇しただけで雲になりやすい
ここが「雲が低いとき」を考えるうえで重要になる。
空気が乾いている場合、かなり冷えなければ水蒸気は水滴にならない。
つまり、ある程度高いところまで空気が上昇する必要がある。
逆に、すでに湿度が高く、水蒸気をたくさん含んでいる空気ならどうだろう。
少し温度が下がっただけで、水蒸気が水滴に変わり始める。
そのため、湿った空気ほど低い高度で雲ができやすくなる。
難しそうに見えるが、かなり単純な話だ。
乾いた空気は、かなり冷やさないと雲にならない。
湿った空気は、少し冷やすだけで雲になる。
この違いが雲底の高さにも表れる。
雲が低いときはどんな時?
空を見て「今日の雲、やけに近くないか?」と感じることがある。
錯覚の場合もあるが、本当に雲底が数百m程度まで下がっていることも珍しくない。
雲が低くなりやすい代表的な条件を見てみよう。
湿度が高く、空気が水蒸気を多く含んでいるとき
まず考えたいのが湿度だ。
地上付近の空気がすでにかなり湿っている場合、少し上昇して冷えるだけで飽和状態に近づく。
その結果、低い場所から雲ができる。
雨の日や雨上がりに山を見ると、中腹まで雲が下がっているように見えることがある。
これは理解しやすい例だ。
地上付近まで空気がかなり湿っているため、低い場所でも雲が作られやすくなっている。
気温と露点温度の差が小さいとき
雲底の高さを考えるときに便利なのが露点温度だ。
露点温度とは、空気を冷やしていったとき、水蒸気が凝結し始める温度のことだ。
気温が20℃で露点温度が5℃なら、かなり温度を下げなければならない。
ところが、
気温20℃
露点温度19℃
なら、わずか1℃ほど冷えるだけで飽和状態に近づく。
つまり、気温と露点温度の差が小さいほど、地上付近の空気は雲になりやすい。
実際に気象庁の航空気象観測でも、気温と露点温度の差は雲底の高さを推定するために利用されている。
一次情報:気象庁・那覇航空測候所「温度計・湿度計」
天気予報を見るとき、私は湿度だけでなく気温と露点温度の差もかなり面白い数字だと思っている。
湿度だけを見るより、「あと何℃冷えたら水滴ができやすいのか」という感覚を持ちやすいからだ。
朝方など地表付近の空気が冷えたとき
晴れた夜は、地面から熱が逃げて地表付近の気温が下がることがある。
これが放射冷却だ。
気象庁では放射冷却を「地表面の熱が放射によって奪われ気温が下がること」と説明している。
湿った空気が地表付近にあり、夜から明け方にかけて気温が下がれば、地面のすぐ近くで水滴ができることがある。
そして極端に低くなれば霧になる。
朝起きたら町全体が白く包まれている。
あの状態は、「雲がなくなった」のではない。
むしろ雲と非常に近い現象が地面まで降りてきた状態と考えたほうがわかりやすい。
山の近くで湿った空気が持ち上げられたとき
山沿いでは、平地より雲が低く見えることが多い。
理由の一つは地形だ。
風によって運ばれてきた空気が山にぶつかると、斜面に沿って強制的に上へ持ち上げられることがある。
上昇した空気は冷える。
十分に湿っていれば、その途中で雲ができる。
そのため、山の中腹だけが雲に包まれるような状態になることがある。
登山やドライブで山へ向かうと、麓では普通の曇り空だったのに、標高が上がった瞬間に周囲が真っ白になることがある。
山の上だけ急に別世界になったように感じるが、実際には人間のほうが雲の高さまで上がっている場合もある。
雨の前後や低気圧の影響を受けているとき
雨の前後にも低い雲は現れやすい。
広い範囲で湿った空気が入り、空全体が雲で覆われてくると、下層にも雲が増えることがある。
乱層雲などは空を広く覆い、雨や雪を長く降らせることがある。気象庁も、乱層雲について雨や雪がしばらく続くことが多いと説明している。
ただし、ここで注意したい。
低い雲を見つけたからといって、必ず雨になるわけではない。
層雲や層積雲などは低い位置に現れるが、まとまった雨を降らせない場合もある。
高さだけを見て天気を断定するのは危険だ。
雲が地面まで低くなると「霧」になる
雲がどこまで低くなることがあるのか。
答えは、ほぼ地面までだ。
気象庁の気象衛星センターでは、雲底が地面に接している状態を霧、接していない状態を層雲として説明している。
しかも衛星から見ると両者を区別するのが難しいため、解析ではまとめて扱うこともある。
一次情報:気象庁・気象衛星センター「霧の監視」
つまり、
「ものすごく低い雲」
と
「霧」
には、私たちが思っているほど大きな違いはない。
山にかかっている層雲の中へ車で入れば、運転している人から見れば霧の中を走っているように感じる。
空から見るか、地上から見るか。
高さの関係が変わるだけで、非常に近い現象なのだ。
雲が低いと雨が降るの?
ここは勘違いしやすい。
低い雲が広がっているからといって、必ず雨が降るわけではない。
たとえば層雲は非常に低いところにできるが、雨が降らない場合もある。
層積雲も下層にできる雲だが、晴天時にも見られる。
一方で乱層雲のように厚い雲が広がれば、長く雨や雪が降る場合がある。
さらに積乱雲は雲底が比較的低くても、上方向へ非常に大きく発達する。
こちらは雷や激しい雨を伴う危険な雲になる。
だから私は、低い雲を見るなら「高さ」だけではなく、次の3点をセットで見るのがわかりやすいと思う。
- 雲が空全体に広がっているか
- 雲が厚く、暗くなっているか
- 上方向へ大きく成長しているか
低く薄い雲が少し出ているだけなのか。
低く厚い雲が空一面を覆っているのか。
もくもくと上へ成長しているのか。
同じ「低い雲」でも意味は大きく違う。
雲の高さは季節によっても変わる?
雲の高さは一年中まったく同じではない。
大気の温度や湿度は季節によって変化するからだ。
さらに、雲を上層・中層・下層に分類するときの高さも、緯度などによって違いがある。
日本付近で「下層雲は約2km以下」と覚えるのはわかりやすいが、自然現象を2,000mの線でスパッと切ることはできない。
空はそこまで人間の教科書に協力的ではない。
雲を見るときは、「何mだからこの雲」と数字だけで決めるのではなく、形、高さ、広がり方を合わせて見る必要がある。
気象庁でも雲を10種類に分け、上層雲、中層雲、下層雲として観測している。
一次情報:気象庁・札幌管区気象台「いろいろな雲」
雲の高さを自分で判断する方法
正確な雲底高度を目で測るのは難しい。
それでも、身近なものを使えば「今日はかなり低い」という程度なら判断できる。
山の標高と比べる
一番わかりやすいのは山だ。
標高1,000mの山の頂上が雲の中に入り、中腹の500m付近が見えているなら、少なくともその方向では雲底が500〜1,000m程度の範囲にある可能性がある。
もちろん山との距離や地形によって見え方が違うため、正確な測定にはならない。
それでも日常的な観察にはかなり使える。
高層ビルや鉄塔と比べる
都市部なら高い建物も目安になる。
高層ビルの上部が完全に雲に隠れているなら、その場所の雲底はかなり低い。
東京スカイツリーのような高さが公開されている建造物なら、おおよその感覚もつかみやすい。
ただし、雲底は場所によって高さが違う。
数km離れた建物の上が隠れているからといって、自分の真上の雲底も完全に同じ高さとは限らない。
空港の気象情報を見る
少し本格的に調べるなら、空港で使われているMETARという航空気象情報を見る方法もある。
METARでは、雲量とともに雲底の高さが記録される。
たとえば「SCT030」であれば、雲量が3/8〜4/8、雲底の高さが3,000フィートという意味になる。3,000フィートは約900mだ。
気象庁の航空気象情報でも、雲底高度は100フィート単位で示されている。
一次情報:気象庁・那覇航空測候所「METAR・TAFの見方」
普段の天気予報より少し難しいが、「今、本当に雲が低いのか」を数字で確認できるのは面白い。
まとめ|雲が低いときは地上付近の空気が湿っていることが多い
雲は決まった高さに浮かんでいるわけではない。
おおまかには、
- 下層雲:地面付近〜約2km
- 中層雲:約2〜7km
- 上層雲:約5〜13km
によく現れる。
そして雲が低くなりやすいのは、地上付近の空気が湿っていて、少し冷えるだけで水蒸気が水滴になれる状態だ。
湿度が高い日、気温と露点温度の差が小さい日、朝方、雨の前後、山沿いなどでは低い雲が現れやすい。
極端な状態では、雲底が地面に接して霧になる。
だから「今日は雲が低い」と感じたとき、単に空が暗いだけだと思って終わらせるのは少しもったいない。
山がどこまで見えているか。雲は薄いのか厚いのか。空一面に広がっているのか。上へ成長しているのか。
そこまで見ると、雲はただ浮かんでいる白い塊ではなくなる。
空気がどれだけ湿り、どこで冷え、どこで水滴になったのか。
雲の高さには、その日の空気の状態がかなり正直に表れている。

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