「配偶者が亡くなっても、遺族年金は5年間しかもらえない」
こんな情報を見て、不安になった人も多いのではないでしょうか。これまで一生受け取れた年金が、突然5年で終了するなら、実質的な改悪に見えるのも当然です。
しかし、結論から言うと、すべての遺族年金が5年で打ち切られるわけではありません。
見直される中心は「遺族厚生年金」です。すでに受給している人、60歳以降に配偶者を亡くした人、一定年齢以上の女性などは、基本的に影響を受けません。
一方で、若い世代の女性の中には、将来受け取れる期間が短くなる可能性があります。男性は逆に、これまで受給できなかった人が新たに対象になります。
つまり、この改正は単純な改悪ではありません。しかし、「男女平等」という言葉だけで済ませてよい内容でもないのです。制度を知らずに公的年金だけを頼るのは、かなり危険だと私は感じます。
2025年の遺族年金制度改正とは
改正法は2025年に成立した
2025年6月13日、年金制度を見直す改正法が国会で成立しました。正式名称は「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律」です。
遺族年金に関する主な変更は、2028年4月から始まる予定です。女性については一気に変更せず、20年ほどかけて段階的に見直されます。
一次情報は、厚生労働省「遺族厚生年金の見直しについて」で確認できます。
変更されるのは主に遺族厚生年金
遺族年金には、大きく分けて次の2種類があります。
「遺族基礎年金」は、国民年金に関係する制度です。原則として、18歳になった年度の3月31日までの子どもがいる配偶者、または子ども本人が対象になります。
「遺族厚生年金」は、亡くなった人が会社員や公務員などで、厚生年金に加入していた場合に支給される制度です。今回、大きく見直されるのはこちらです。
ネットでは「遺族年金が5年で終了する」と一括りにされています。しかし、遺族基礎年金と遺族厚生年金を混ぜて説明すると、話がおかしくなります。人間は複雑な制度を一行に縮め、そこから大騒ぎする生き物ですが、まず制度を分けて考えるべきです。
現在の遺族厚生年金には大きな男女差がある
子どものいない妻は30歳以上なら無期給付
現在の制度では、子どものいない妻が夫を亡くした場合、死別時の年齢によって受給期間が変わります。
30歳未満の妻は、原則として5年間の有期給付です。一方、30歳以上の妻は、基本的に期間を定めない無期給付になります。
つまり、30歳以上で夫を亡くした妻は、再婚などで受給権を失わない限り、長期間にわたって遺族厚生年金を受け取れる仕組みです。
子どものいない夫は55歳未満だと受給できない
妻を亡くした夫の場合、現在は条件がかなり厳しくなっています。
子どものいない夫が55歳未満で妻を亡くしても、原則として遺族厚生年金は支給されません。55歳以上で妻を亡くした場合でも、実際に支給が始まるのは60歳からです。
妻を亡くした30代や40代の男性は、妻が厚生年金に加入していても受け取れない可能性があります。
一方、夫を亡くした30歳以上の女性には無期給付があります。共働き世帯が増えた現在、この男女差をそのまま残すのは難しいというのが、今回の見直しの背景です。
2028年から何が変わるのか
60歳未満は男女とも原則5年間になる
見直し後は、18歳年度末までの子どもがいない60歳未満の配偶者について、男女とも原則5年間の有期給付になります。
男性は2028年4月から新制度が適用されます。女性については、2028年4月から20年かけて対象年齢が段階的に引き上げられます。
施行直後に新しく影響を受ける女性は、18歳年度末までの子どもがおらず、2028年度末時点で40歳未満の人です。厚生労働省は、新たに対象となる30代女性を年間約250人と推計しています。
男性は新たに受給できるようになる
男性にとっては、今回の改正が改善になるケースが多くあります。
現在は、子どものいない夫が55歳未満で妻を亡くすと、原則として遺族厚生年金を受け取れません。見直し後は、60歳未満の男性も5年間の有期給付を受けられるようになります。
厚生労働省は、施行直後に新しく対象となる男性を年間約1万6,000人と推計しています。
男性については、明らかに保障が広がります。今回の制度改正を「すべての人が損をする改悪」と言うのは正確ではありません。
「5年で完全に打ち切り」は誤解である
5年間の支給額は約1.3倍になる
新制度では、5年間の有期給付に「有期給付加算」が上乗せされます。
厚生労働省の説明では、5年間に受け取る遺族厚生年金の年額は、現在の約1.3倍になる予定です。また、有期給付を受ける際の年収850万円未満という収入要件も廃止されます。
受給期間は短くなるものの、当初の生活再建に使える金額を増やす設計です。
ただし、給付が1.3倍になっても、これまで無期給付だった人が長生きすれば、生涯の受取総額が減る可能性はあります。ここは「増額されるから問題なし」と簡単に片付けるべきではありません。
収入が少ない人は5年後も継続給付を受けられる
5年間が終了した後も、障害年金の受給権がある人や、収入が十分でない人には「継続給付」が用意されます。
厚生労働省の説明では、単身で就労収入が月額約10万円程度以下の場合、継続給付が全額支給されます。収入が増えると支給額が少しずつ調整され、遺族厚生年金の金額にもよりますが、月収が20万円から30万円程度を超えると支給が終了する仕組みです。
したがって、「5年が来たら、収入や健康状態に関係なく全員ゼロになる」という説明は誤りです。
ただし、継続給付には所得による判定があります。ある程度働ける人は支給が終わるため、公的年金だけで生活を守れる制度ではなくなると考えるべきです。
改正の影響を受けない人
すでに遺族厚生年金を受給している人
2028年4月より前から遺族厚生年金を受け取っている人は、今回の見直しによって受給期間を5年に変更されることはありません。
現在受給している人の年金が、2028年になった瞬間に終了するわけではないのです。
60歳以降に配偶者を亡くした人
60歳以降に遺族厚生年金の受給権が発生する人は、これまでと同じく無期給付が基本です。
「すべての配偶者が5年間になる」という理解は間違いです。
2028年度に40歳以上になる女性
女性については経過措置があります。
2028年度に40歳以上になる女性は、今回の有期給付化の影響を受けません。女性の対象年齢は2028年から20年かけて、少しずつ引き上げられる予定です。
今40代や50代の女性が「将来は全員5年で終了する」と心配する必要はありません。
子どもがいる家庭はどうなるのか
子どもが18歳年度末になるまでは現行制度と同じ
18歳になった年度の3月31日までの子どもがいる場合、子どもが対象年齢にある間の給付内容は、基本的に現在と変わりません。
障害年金の障害等級1級または2級に該当する子どもは、20歳未満まで対象になります。
子どもが対象年齢を超えた後は、配偶者に対して増額された有期給付がさらに5年間支給され、所得や障害の状態によっては継続給付も受けられます。
子どもの加算額は増える
改正後は、遺族基礎年金における子どもの加算額が、年間約23万5,000円から約28万円へ増額される予定です。
また、これまで親と同居していることなどを理由に遺族基礎年金を受け取りにくかった子どもについても、受給対象が広げられます。施行は2028年4月の予定です。
子育て世帯については、単純な給付削減ではなく、保障を広げる内容も入っています。
中高齢寡婦加算も段階的に縮小される
現在は40歳から65歳まで加算される
中高齢寡婦加算は、一定の条件を満たした40歳以上65歳未満の妻に対して、遺族厚生年金へ上乗せされる制度です。
現在は、夫を亡くした妻にだけ支給され、妻を亡くした夫には同じ加算がありません。
新しく発生する加算は25年かけて縮小される
2028年4月以降に新しく発生する中高齢寡婦加算は、25年かけて段階的に縮小され、最終的には廃止される予定です。
ただし、施行日前からすでに受給している人は影響を受けません。また、施行後に受け取り始めた場合も、受給開始時に決まった金額は65歳になるまで維持されます。
この部分は、将来の女性にとって実質的な給付削減になり得ます。男女差をなくす必要性は理解できますが、長期間仕事を離れていた人の生活再建が本当に5年で可能なのかは、別の問題です。
遺族年金の改正は実質改悪なのか
若い女性には改悪になる可能性がある
現在の制度では、子どものいない妻が30歳以上で夫を亡くすと、原則として無期給付を受けられます。
改正後は、対象となる年齢の女性について原則5年間になります。収入が一定以上ある場合、5年後の継続給付はありません。
有期給付加算があっても、長期間受給するはずだった人は、生涯の受取総額が減る可能性があります。この人たちにとっては、実質改悪と感じるのも無理はありません。
若い男性には改善になる
一方、これまで遺族厚生年金を受け取れなかった60歳未満の男性は、新たに5年間の給付対象になります。
共働きで妻の収入が家計を支えている世帯にとって、妻の死亡後に夫が遺族年金を受け取れない現在の制度は明らかに不自然です。この点は改善と言えます。
制度全体では「保障の作り直し」である
私は今回の改正を、単純な改悪とも、完全な改善とも考えていません。
正確には、配偶者を一生扶養する制度から、死別後の数年間を支援する制度へ変えようとしているのです。
国は、死別後も働ける人には働いて生活を立て直してほしいと考えています。しかし、実際には年齢、健康状態、介護、職歴、地域の雇用など、さまざまな事情があります。
制度上は男女平等になっても、生活の条件まで自動的に平等になるわけではありません。そこを無視すると、ただの給付削減になります。
遺族年金の改正に向けて今からできる備え
夫婦それぞれの年金記録を確認する
まず、夫婦それぞれが国民年金だけなのか、厚生年金にも加入しているのかを確認する必要があります。
「ねんきんネット」では、自分の加入記録や将来の老齢年金見込額を確認できます。ただし、将来受け取る遺族年金の金額は、配偶者の加入期間や報酬によって変わるため、必要に応じて年金事務所で確認するべきです。
公的年金は、保険料を払っていれば自動的に何でも出る魔法の財布ではありません。加入状況と受給条件の確認が必要です。
生活費5年分を基準に保障を考える
改正後は、60歳未満の配偶者に対する遺族厚生年金が原則5年間になります。
そのため、生命保険や貯蓄を考えるときは、少なくとも次の費用を整理する必要があります。
- 毎月の生活費
- 住宅ローンや家賃
- 子どもの教育費
- 葬儀や相続手続きの費用
- 収入を回復するまでの期間
ただし、不安だからといって高額な生命保険へ入ればよいわけではありません。遺族年金、死亡退職金、会社の弔慰金、住宅ローンの団体信用生命保険、預貯金を差し引いて不足分を計算するべきです。
保険会社に言われるまま大きな保障を買うと、今度は保険料で現在の家計が死にます。実に人間らしい本末転倒です。
夫婦のどちらが亡くなっても生活できる形にする
これからは「夫が妻を養う」という前提ではなく、夫婦のどちらが亡くなっても家計が続く形を作る必要があります。
特に共働き世帯では、妻の収入や家事・育児の負担も金額に置き換えて考えるべきです。妻が亡くなった場合、夫の収入が残っても、保育や家事代行などの支出が増える可能性があります。
反対に、片働き世帯では、収入を得ていなかった配偶者が仕事に戻るまでの期間を長めに考える必要があります。
NISAや現金で自分の保障を作る
公的年金制度は今後も変わる可能性があります。だからこそ、制度だけに依存せず、自分でも資産を準備するべきです。
ただし、死亡直後に必要なお金をすべて投資へ回してはいけません。株式市場が下落しているときに配偶者が亡くなれば、安値で資産を売ることになります。
生活防衛資金は現金で確保し、それを超える長期資金をNISAなどで運用する形が現実的です。年金、保険、現金、投資を分けて持つことが重要です。
まとめ
2025年に成立した遺族年金の制度改正では、遺族厚生年金の男女差が見直されます。
2028年4月以降、子どものいない60歳未満の配偶者は、男女とも原則5年間の有期給付になります。ただし、女性は20年かけて段階的に対象が広がります。
すでに遺族厚生年金を受給している人、60歳以降に配偶者を亡くした人、2028年度に40歳以上になる女性などは、基本的に影響を受けません。
また、5年間の給付額は現在の約1.3倍になり、収入が少ない人や障害状態にある人には継続給付があります。男性や子育て世帯については、保障が広がる部分もあります。
そのため、「遺族年金が全員5年で打ち切られる」という情報は誤りです。
しかし、若い女性や将来の中高年女性にとって、生涯の受取総額が減る可能性は否定できません。男女平等という目的があっても、生活への影響まで小さいとは限らないのです。
制度改正を必要以上に恐れる必要はありません。しかし、何も知らずに「国が何とかしてくれる」と考えるのは危険です。
自分と配偶者の年金記録を確認し、生活費、生命保険、現金、NISAなどを組み合わせて備えるべきです。制度が変わってから慌てるのでは遅いのです。

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