「含み損が出てる株、会計に入れたほうがいいの?」「評価益って利益扱いになるの?」
個人事業主が株式投資をしていると、ここで思考がフリーズする。
結論を先に少しだけ言うと、多くのケースで“評価損益は会計に入れない”のが正解。
ただし、条件を踏み外すと税務上も管理上も痛い目を見る。ここがややこしい。
個人事業主と株式投資は「原則、別世界」
個人事業主の会計は、事業で稼いだお金を正しく計算するためのもの。
一方、株式投資は多くの場合「事業とは無関係な資産運用」だ。
この分離が理解できていないと、帳簿がカオスになる。
原則ルール:事業用でなければ会計に入れない
個人事業主が保有する株式のうち、次のようなものは事業とは切り離す。
- 余剰資金での資産運用としての株式
- 長期保有の投資目的株
- NISAや特定口座で管理している株式
これらは事業用資産ではないため、
評価損益(含み益・含み損)を会計に計上しない。
つまり、株価が上がっていようが下がっていようが、
帳簿上は「なかったこと」にするのが正解。
なぜ評価損益を会計に入れないほうがいいのか
ここが一番大事なポイント。
理由①:税金は「実現主義」だから
税務の世界はとても現実主義だ。
売っていない利益や損失は、存在しないものとして扱う。
- 売却していない → 利益も損失も確定していない
- 確定していない → 課税も損金算入もされない
評価損を会計に入れてしまうと、
「まだ確定していない損失で利益を減らしている」
という状態になり、税務的にアウト寄りになる。
理由②:事業の成績が歪む
事業は順調なのに、
株価下落のせいで帳簿上は赤字。
これはもう、会計として意味を失っている。
本来知りたいのは、
- 事業は儲かっているのか
- コスト構造は健全か
- 来年どう改善すべきか
株式の評価損益を混ぜると、
事業の健康診断にノイズを入れる行為になる。
じゃあ株式は一切会計処理しなくていい?
ここで話は少しだけ分岐する。
売却したときだけ「所得」として扱う
株式を売った瞬間、世界が切り替わる。
- 利益が出た → 譲渡所得
- 損失が出た → 譲渡損失
これは事業所得ではないが、
確定申告ではきちんと申告する必要がある。
ただし、
- 特定口座(源泉徴収あり) → 原則申告不要
- NISA → そもそも非課税
このあたりは口座区分で整理する。
会計ソフトに無理やり入れる必要はない
「お金が動いたから仕訳しないと気持ち悪い」
という感覚は、会計を真面目にやっている証拠でもある。
だが株式売買については、
- 会計ソフトに仕訳しない
- 年末に証券会社の年間取引報告書で把握
- 確定申告で処理
この分業が一番事故が少ない。
例外:株式が“事業そのもの”な場合
ここは少数派だが重要。
トレーダー的事業をしている場合
次のようなケースでは話が変わる。
- 株式売買を主たる収入源としている
- 継続・反復・営利性が明確
- 実態として事業レベルの取引量
この場合、株式は棚卸資産的な扱いになる可能性がある。
ただし、ここは税務署との解釈勝負ゾーン。
自己判断で突っ込むと危険なので、専門家の確認は必須。
評価損を計上したくなる心理の正体
少し哲学的な話をしよう。
含み損を見ると、人はこう思う。
「これ、経費にできたら楽なのに」
だがそれは、
未来の可能性を現在の事実にすり替えている。
会計は感情を処理する道具ではない。
起きた事実だけを淡々と記録する装置だ。
含み損は「気分が悪い」だけで、
「お金を失った」という事実ではまだない。
まとめ:評価損益は“見ない勇気”が正解
個人事業主が株式の評価損益を会計に入れるか迷ったら、
まずこの原則に立ち返る。
- 事業用資産か?
- 売却して確定しているか?
- 事業の実態を正しく表しているか?
多くの場合、答えはすべて「NO」になる。
そのときは、会計に入れない。
株式は株式、事業は事業。
世界を分けて考えることで、数字は驚くほどクリアになる。
会計は未来を読むための地図だ。
地図にノイズを書き込まないことが、長く生き残るコツになる。

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