高速道路を走っていると、ときどき「危険物積載車両は流出してください」といった案内を見ることがある。
「危険物って何?」「どんな車が高速道路を降ろされるの?」「タンクローリーは高速道路を走れないの?」と疑問に感じても不思議ではない。
しかも、普通の乗用車はそのまま進めるのに、大型トラックだけインターチェンジから降りていくこともある。道路会社の都合で、わざわざ遠回りさせているようにも見える。
しかし、理由を調べてみると話はかなり違った。
危険物を積んだ車が高速道路から降ろされる主な理由は、その先に危険物積載車両の通行が禁止・制限されたトンネルがあるからだ。
そして対象になるかどうかは、単純に「大きなトラックだから」では決まらない。
何を積んでいるのか。どれだけ積んでいるのか。どんな容器なのか。
ここが重要になる。
危険物を積んだ車が高速道路を降ろされるのはなぜ?
高速道路そのものが禁止されているわけではない
最初にここを間違えると、話が全部おかしくなる。
危険物を積んでいるからといって、すべての高速道路を走れないわけではない。
規制されているのは、主に水底トンネル、水際にある一定のトンネル、長さ5,000m以上の長大トンネルなどだ。
国土交通省によると、道路法第46条第3項により、道路管理者は水底トンネルなどの構造を守り、交通の危険を防ぐため、危険物を積んだ車の通行を禁止または制限できる。 (国土交通省)
つまり、
「危険物を積んだ車は高速道路禁止」
ではない。
正しくは、
「危険物を積んだ車の一部は、規制されたトンネルを通れないため、その手前のICで高速道路から降りる必要がある」
ということだ。
ここはかなり大きな違いである。
なぜトンネルだけ厳しく規制されるのか
では、なぜトンネルなのか。
私がこの制度を調べていて一番納得したのは、事故が起きたあとの話だった。
危険物を積んだ車が普通の道路で事故を起こしても危険なのは当然だ。しかし、トンネルの中では火災、爆発、有毒物質の流出などが起きたとき、被害が深刻になるおそれがある。
特に水底トンネルは、文字どおり海や川などの下を通っている。
簡単に逃げ道を増やせる場所ではない。
国土交通省も、規制の目的を「トンネルの構造の保全」と「交通の危険の防止」としている。国土交通省の資料では、危険物を運ぶ車の例としてタンクローリーなども示されている。 (国土交通省)
一台だけ遠回りさせるのは面倒に見える。
しかし、事故が起きたときに何百台もの車がトンネル内に閉じ込められる可能性まで考えれば、この規制はかなり現実的だと思う。
どんな車が危険物積載車両になる?
代表的なのはタンクローリー
「危険物を運ぶ車」と聞いて、一番分かりやすいのはタンクローリーだろう。
ガソリン、軽油、重油などを大量に運ぶ車だ。
車体に「危」の表示が付いている車を見たことがある人も多いはずだ。NEXCO中日本も、軽油や重油などを運ぶ燃料移送車について「危険物積載車」を示す「危」のマークを付けていると紹介している。 (NEXCO Central)
ただし、タンクローリーだけが対象ではない。
ここが少しややこしい。
火薬や高圧ガスを運ぶ車も対象になる
道路法関係の規定では、通行を制限できる危険物として、火薬類、高圧ガス、毒物・劇物、消防法上の危険物などが定められている。 (ジェイトラ)
たとえば、アセチレン、水素、LPガスなどの高圧ガスを運ぶ車も対象になり得る。
毒物や劇物を運ぶ車も同じだ。
さらに、爆発性が非常に高い火薬類や強い毒性を持つ物質などは、規制がさらに厳しくなる。
つまり「液体を積んだタンクローリーだけを止めている」という制度ではない。
車よりも、積んでいる物を見る。
この考え方を覚えておけば分かりやすい。
普通のトラックでも対象になる可能性がある
ここも意外だった。
大型車だから危険物積載車になるわけではないし、普通のトラックだから安全扱いになるわけでもない。
高速道路機構の案内を見ると、危険物によっては「普通自動車及び四輪以上の小型自動車」について、積載量や容器の条件が細かく決められている。高圧ガスについても、ガスの種類、積載数量、容器の内容積などによって通行できるかどうかが変わる。 (ジェイトラ)
だから、
「大型車だから高速を降ろされた」
という理解では少し足りない。
実際には、
積載物+数量+容器+積載方法+車両の種類
で判断される。
法律とは、どうしてこう簡単な話を五段階くらい難しくするのだろうと思うが、安全に関わる部分なので仕方がない。
危険物なら全部通れないわけではない
「通行禁止」と「通行制限」は違う
危険物には、大きく分けて「通行そのものが禁止されるもの」と、「条件を満たせば通行できるもの」がある。
ここも重要だ。
非常に危険性が高い爆発性物質や有毒物質などについては、通行禁止の対象になるものがある。
一方、高圧ガスなどには通行条件が設定されている。
たとえば高速道路機構は、可燃性ガスや毒性ガスの圧縮ガスについて、一定の場合には「ガス容積60立方メートル以下」かつ「容器の内容積120リットル未満」などの要件を示している。 (ジェイトラ)
だから「危険物」という言葉だけを見て判断するのも危ない。
同じ種類の危険物でも、
少量なのか。
大量なのか。
どの容器に入っているのか。
ここで扱いが変わることがある。
現場で運送する人にとっては、「危険物だからダメだろう」でも「少ないから大丈夫だろう」でもなく、道路管理者が公示している条件を確認する必要がある。
危険物積載車が降ろされる高速道路はどこ?
全国すべてのトンネルではない
では、トンネルなら全部ダメなのか。
これも違う。
国土交通省が2026年3月18日時点で公表している資料では、危険物積載車両の通行規制を行っている水底トンネル等は全国37か所となっている。 (国土交通省)
代表的なものとしては、関越トンネル、恵那山トンネル、飛騨トンネル、東京湾アクアトンネル、山手トンネル、肥後トンネル、加久藤トンネルなどがある。 (国土交通省)
東京や神奈川周辺では、羽田トンネル、東京港トンネル、多摩川トンネル、川崎航路トンネルなども入っている。
つまり日本中の高速道路で突然追い出されるわけではない。
規制トンネルがあるルートに入る前に、対象車両だけが別ルートへ回る仕組みだ。
恵那山トンネルでは手前のICから降りる場合がある
中央自動車道の恵那山トンネルも規制対象だ。
高速道路機構によると、恵那山トンネルは園原ICから中津川ICの区間にあり、対象となる危険物積載車両はトンネルを通ることができない。
東京・長野方面から来た場合には飯田山本ICから流出する必要があり、条件によっては神坂スマートICや中津川ICを利用することになる。 (ジェイトラ)
高速道路を普通に走っていたトラックが急にICへ向かうのは、運転手が道を間違えたわけではない。
その先へ行けないのである。
なぜ危険物積載車だけ一般道へ降ろすのか
遠回りになっても事故の被害を小さくするため
運送する側からすれば面倒だろう。
高速道路をそのまま走れば短時間で到着できるのに、途中で一般道へ降り、別ルートで規制区間を避けなければならない。
燃料も時間も余計にかかる。
それでも規制するのは、事故が起きた場合の被害が普通の交通事故とは比べものにならない可能性があるからだ。
危険物輸送中の事故について、国土交通省は、危険物が流出・噴出し、引火、火災、爆発につながれば大きな事故になる可能性があると注意している。 (国土交通省)
特に長いトンネルでは、事故現場から出口まで数kmあることもある。
そこへ大量のガソリンや可燃性ガスを積んだ車を無条件で入れる必要はない。
私はこの仕組みを知ると、「危険な車を排除している」というより、事故が起きたときに取り返しのつかない場所を避けていると考えるほうが近いと思った。
危険物積載車両通行止めの標識にも注意
「危険物」と書かれた丸い標識がある
規制区間では「危険物積載車両通行止め」の道路標識が使われる。
国土交通省の資料でも、危険物積載車両の通行を禁止または制限する区間の手前に、この標識を設置することが示されている。 (国土交通省)
一般のドライバーなら、ほとんど気にしたことがない標識かもしれない。
対象でなければ、そのまま通過するからだ。
しかし危険物を運ぶドライバーにとっては、見落とせない標識になる。
そして「知らなかった」では済まされない。
規制を無視してトンネルに入るとどうなる?
道路法違反になる可能性がある
対象車両が規制を無視してトンネルへ入るのは、単なる道路会社からの「お願い」ではない。
道路法に基づいた規制だ。
現在の道路法第103条では、第46条第3項による禁止または制限に違反して水底トンネルを通行した場合、6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金の対象になると定められている。 (e-Gov 法令検索)
古い高速道路会社のページでは「懲役」と書かれている場合もあるが、刑法改正により現在は「拘禁刑」という表現になっている。
ただ遠回りが嫌だから突っ切る。
そんな判断で済む制度ではない。
危険物積載車が高速道路を降ろされる理由は「車」ではなく「積み荷」にある
「どんな車が危険物で高速道路を降ろされるのか?」と聞かれると、最初はタンクローリーを思い浮かべる。
確かに代表例だ。
しかし、実際のルールはそれほど単純ではない。
火薬、高圧ガス、毒物・劇物、ガソリンなどの消防法上の危険物などを積んだ車が対象になり、その種類、量、容器、積み方によって通行できるかが変わる。 (ジェイトラ)
そして、高速道路そのものから排除されているわけでもない。
問題になるのは、水底・水際・長大トンネルなど、事故が起きた場合に大きな被害につながる可能性がある場所だ。
だから、その手前で高速道路を降りる。
一見すると「なぜこのトラックだけ降ろされる?」という妙な光景だが、理由を知れば筋は通っている。
むしろ数千メートルのトンネルの中で爆発してから「やっぱり入れないほうがよかった」と気付くほうが、人類らしい残念な失敗である。
危険物積載車が高速道路から降ろされるのは、危険物を積んでいるからではなく、その危険物を持ったまま通ってはいけない区間がこの先にあるからだ。
ここまで分かれば、高速道路で見かけるあの案内の意味もかなり違って見えるはずだ。

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