「マイコプラズマになった」「学校でマイコプラズマが流行している」と聞くと、かなり怖い病気のように感じるかもしれません。
しかも、「肺炎になる」「咳が何週間も続く」「普通の抗生物質が効かないことがある」などと聞けば、なおさらです。
では、マイコプラズマってなに? ウイルスなのか、細菌なのか、それとも肺炎そのものなのでしょうか?
結論から言えば、一般に話題になる「マイコプラズマ」は、肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)という細菌の一種です。この細菌がのどや気管支、肺などに感染すると、発熱や咳などが出ます。そして、その一部が「マイコプラズマ肺炎」になります。
つまり、「マイコプラズマに感染した=必ず肺炎になる」という意味ではありません。
ただし、ここで「それなら普通の風邪みたいなものか」と考えるのも早いです。咳が長く続くことがあり、まれに重症化することもあります。特に子どもがいる家庭では、知っておいて損のない感染症です。
マイコプラズマってなに?
マイコプラズマはウイルスではなく細菌
まず押さえておきたいのは、マイコプラズマはウイルスではないということです。
肺炎マイコプラズマは細菌に分類されています。
ただし、一般的な細菌とは少し違います。大きな特徴は、細胞壁を持っていないことです。
細胞壁とは、細菌の外側を守っている壁のようなものです。
多くの細菌にはこの壁があります。しかし、マイコプラズマにはありません。
この小さな違いが、治療ではかなり重要になります。
細菌の細胞壁を攻撃するタイプの抗菌薬は、そもそも攻撃する壁がないため、マイコプラズマには効きません。CDCも、ペニシリンなどのβラクタム系抗菌薬はマイコプラズマには効果がないと説明しています。
「細菌なら抗生物質を飲めば何でも治る」というほど、人間に都合よくできてはいないわけです。
マイコプラズマ感染症とマイコプラズマ肺炎は少し違う
ここは混同されやすいところです。
肺炎マイコプラズマに感染しても、全員が肺炎になるわけではありません。
感染すると、のどや気管支などに炎症が起こることがあります。軽い呼吸器感染症だけで終わる人もいます。
その中で肺まで炎症が広がり、肺炎になったものが「マイコプラズマ肺炎」です。CDCでも、マイコプラズマ感染症では気管支炎などが多く、肺炎になるケースもあるとされています。
私は「マイコプラズマ=肺炎」と丸暗記するより、
マイコプラズマという細菌に感染する → 呼吸器に症状が出る → 一部の人が肺炎になる
と考えたほうが、ずっとわかりやすいと思います。
マイコプラズマの主な症状は?
発熱・だるさ・頭痛・咳が代表的
厚生労働省によると、マイコプラズマ肺炎では主に次のような症状がみられます。
- 発熱
- 全身のだるさ
- 頭痛
- 咳
特に注意したいのが咳です。
発熱などが先に出て、咳は少し遅れて始まる場合があります。
最初は「少し風邪っぽいだけかな」と感じることもあります。
ところが、数日たってから咳が目立ってくる。
この時間差があるため、最初からマイコプラズマだと判断するのは簡単ではありません。
咳が長引きやすい
マイコプラズマで特に厄介なのが、咳です。
国立健康危機管理研究機構の情報では、発熱や全身のだるさ、頭痛などに続いて咳が出ます。また、解熱したあとでも咳が長く続く場合があります。
「熱が下がったから治った」と思ったのに、咳だけ残る。
これはマイコプラズマでは珍しい話ではありません。
一方で、長引く咳がすべてマイコプラズマというわけでもありません。風邪、喘息、百日咳、COVID-19など、咳が続く原因はいくつもあります。
症状だけで勝手に決めつけるのは危険です。
肺炎でも比較的元気な場合がある
マイコプラズマ肺炎は、肺炎になっていても比較的症状が軽く見える場合があります。
CDCでは「walking pneumonia」と呼ばれることがあると説明されています。肺炎なのに寝込まず、日常生活を続けられるほど症状が軽い人がいるためです。
ここが少し怖いところです。
「元気だから肺炎ではない」とは言い切れません。
咳をしながら普通に学校や仕事へ行ける人もいるため、本人が気づかないまま周囲へ広げる可能性もあります。
マイコプラズマは子どもがかかる病気?
子どもや若い人に多い
マイコプラズマ肺炎は、特に子どもや若い人で多くみられます。
厚生労働省によると、日本で患者として報告される人のうち約80%が14歳以下です。ただし、大人にも感染します。
国立健康危機管理研究機構も、幼児期、学童期、青年期を中心に発生するとしています。
学校、保育施設、家庭など、人との距離が近い環境では感染が広がることがあります。
だからといって、「子どもの病気」と決めつけるのは違います。
大人でも感染します。
子どもから親へ、兄弟から兄弟へと家庭内で広がることも考えておいたほうがいいでしょう。
マイコプラズマはうつる?
咳やくしゃみなどで感染する
マイコプラズマは人から人へ感染します。
主な感染経路は飛沫感染と接触感染です。
感染している人が咳やくしゃみをすると、細菌を含んだ飛沫が周囲に出ます。それを近くにいる人が吸い込むことで感染する可能性があります。
また、家族や学校の友人など、近い距離で長い時間を過ごす人の間で感染が起こることがあります。
そのため、
- 学校
- 保育園や幼稚園
- 家庭
- 寮
- 人との距離が近い場所
などでは注意が必要です。
潜伏期間は2~3週間ほど
マイコプラズマは、感染してすぐ症状が出るとは限りません。
国立健康危機管理研究機構では、潜伏期間は通常2~3週間とされています。
これが感染経路をわかりにくくします。
昨日会った人から感染して今日発熱した、という単純な話とは限りません。
症状が出たときには、「誰から感染したのかわからない」ということも十分あり得ます。
マイコプラズマはどうやって検査する?
症状だけでは判断しにくい
発熱して咳が出たからといって、すぐマイコプラズマと判断できるわけではありません。
風邪やインフルエンザなど、ほかの呼吸器感染症でも似た症状が出るからです。
医療機関では症状や診察結果を確認し、必要に応じて検査を行います。
国立健康危機管理研究機構では、咽頭ぬぐい液や痰を使った抗原検査、遺伝子を調べる検査、血液を使った検査などが紹介されています。
肺炎が疑われる場合には、胸部X線検査などが行われることもあります。
つまり、自宅で「咳が長いからマイコプラズマだ」と確定させることはできません。
ここは医療機関の仕事です。
マイコプラズマはどうやって治療する?
肺炎では抗菌薬が使われる
マイコプラズマ肺炎では、抗菌薬による治療が行われます。
ただし、先ほど説明した通り、マイコプラズマには細胞壁がありません。
そのため、細胞壁に作用するタイプの抗菌薬は効きません。
マクロライド系など、マイコプラズマに効果が期待できる抗菌薬が使われます。どの薬を使うかは年齢や症状、薬剤耐性などを考えて医師が判断します。
ここで大切なのは、以前もらった抗菌薬を自分の判断で飲んだり、家族の薬を使ったりしないことです。
抗菌薬なら何でも同じではありません。
むしろ、マイコプラズマはその違いが非常にわかりやすく出る感染症です。
抗菌薬が効きにくいマイコプラズマもいる
さらに話を面倒にしているのが、薬剤耐性です。
マクロライド系抗菌薬が効きにくい「マクロライド耐性マイコプラズマ」も確認されています。
そのため、薬を飲み始めても改善しない場合には、医師が経過を確認して治療を変更することがあります。
抗菌薬は「強い薬なら勝てる」というゲームではありません。
原因となる菌、患者の年齢、症状、耐性などを考えて選ぶ必要があります。
マイコプラズマを予防するには?
手洗いと咳エチケットが基本
マイコプラズマには、現在承認されたワクチンはありません。
そのため、予防では基本的な感染対策が重要になります。
具体的には、
- 手をしっかり洗う
- 咳やくしゃみをするときは口や鼻を覆う
- 咳が出ている人との濃厚な接触をできるだけ避ける
- タオルなど身の回りの物の共有に注意する
といった対策です。
派手な方法ではありません。
しかし、厚生労働省や国立健康危機管理研究機構、CDCも手洗いや咳エチケットを基本的な予防策として挙げています。
感染症対策というものは、だいたい驚くほど地味です。
そして、その地味な対策が結局いちばん重要だったりします。
マイコプラズマで病院に行ったほうがいいのはどんなとき?
咳や発熱だけなら必ずマイコプラズマとは限りません。
しかし、症状がなかなか改善しない、咳が悪化している、喘鳴があるなどの場合は医療機関への相談を考えるべきです。
特に息苦しい、呼吸が苦しいという症状がある場合は、早めの医療受診が重要です。CDCも呼吸困難がある場合には、すぐに医療機関を受診するよう案内しています。
マイコプラズマ感染症の多くは軽症ですが、重い肺炎になることもあります。
また、まれではあるものの、脳炎、溶血性貧血、腎機能障害、皮膚や粘膜の重い症状など、肺以外の合併症が起こることも報告されています。
「元気そうだから大丈夫」と決めつけないことです。
マイコプラズマについてよくある疑問
大人もマイコプラズマになる?
なります。
子どもや若い人に多い感染症ですが、大人にも感染します。
家庭内で子どもが感染したあと、家族にも咳や発熱が出た場合には、マイコプラズマを含めた呼吸器感染症の可能性を考える必要があります。
一度かかったらもう感染しない?
一度感染した人でも、再びマイコプラズマに感染することがあります。
CDCも、M. pneumoniaeには複数回感染する可能性があるとしています。
「昔かかったから大丈夫」とは言えません。
マイコプラズマと普通の風邪は見分けられる?
症状だけで完全に見分けることは難しいです。
マイコプラズマでは発熱、だるさ、頭痛、長引く咳などが特徴ですが、ほかの呼吸器感染症でも似た症状は出ます。
「咳が長い=マイコプラズマ」と自己判断するのではなく、必要であれば医療機関で診察や検査を受けるのが確実です。
まとめ
マイコプラズマってなに?と聞かれたら、まず**「呼吸器感染症を起こす細菌の一種」**と覚えておけば十分です。
肺炎マイコプラズマに感染すると、発熱、だるさ、頭痛、咳などが現れます。そして、一部の人ではマイコプラズマ肺炎になります。
特に知っておきたいのは、
- マイコプラズマは細菌の一種
- 感染しても全員が肺炎になるわけではない
- 子どもや若い人に多いが大人も感染する
- 飛沫感染や接触感染で広がる
- 潜伏期間は通常2~3週間ほど
- 咳が長く続くことがある
- 細胞壁がないため、一部の抗菌薬は効かない
- ワクチンはなく、手洗いや咳エチケットが基本
- 軽症が多い一方、重症化することもある
という点です。
個人的には、マイコプラズマで一番注意したいのは「肺炎ならもっと苦しそうなはずだ」という思い込みです。
比較的元気に見えても肺炎になっているケースがあります。逆に、咳が続いているだけでマイコプラズマと決めつけるのも間違いです。
怖がりすぎる必要はありません。
しかし、「ただの風邪だろう」と雑に片づけるのも違います。
咳や発熱が続く、症状が悪化する、呼吸が苦しい。そんな変化があるなら、自分だけで病名を決めず、医療機関に相談する。それが最も現実的な向き合い方です。

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