「ピーヒョロロロ……」
海や川の近くを歩いていると、空のかなり高い場所から聞こえてくる独特な鳴き声。姿が見えなくても、「トンビだ」と気づく人は多いはずです。
それにしても、なぜトンビはあれほど目立つ声で鳴くのでしょうか?
「縄張りを主張している」「仲間と会話している」「求愛している」など、いろいろな説明を見かけます。しかし、少し調べてみると話はそんなに単純ではありません。
トンビは実際に複数の鳴き声を使い、繁殖や警戒、ほかの個体とのやり取りに声を利用しています。一方で、私たちが聞く「ピーヒョロロ」を聞いただけで、「これは求愛」「これは縄張り」と100%判断できるわけでもありません。
むしろ、そこが面白いところです。
何となくのどかに聞こえるあの声も、トンビにとってはかなり重要なコミュニケーション手段なのです。
この記事では、トンビの「ピーヒョロロ」という鳴き声の意味から、よく鳴く時期、タカとの見分け方、人間の食べ物を狙うトンビへの注意点まで、できるだけ根拠を確認しながらわかりやすく解説します。

トンビの鳴き声「ピーヒョロロ」にはどんな意味がある?
最初に結論を言えば、トンビは鳴き声を使ってほかの個体とコミュニケーションを取っています。
日本野鳥の会は、トビの代表的な鳴き声を「ピーヒョロロ」と紹介しています。林野庁の中部森林管理局も「ピーヒョロヒョロヒョロ」と鳴くとしており、タカの仲間の中ではよく鳴く鳥だと説明しています。
実際の声を確認したいなら、日本野鳥の会が公開している鳴き声も参考になります。
ただし、「ピーヒョロロ=必ず縄張り宣言」と単純に覚えるのは少し危険です。
研究では、トビが侵入個体に対して複数種類の声を出すことが確認されています。長崎半島で繁殖するトビを調査した研究では、侵入個体に対する声のほか、警戒声と考えられる声、威嚇に使われる声なども記録されています。
つまり、トンビは思った以上に声を使い分けているのです。
周囲のトンビへの存在アピール
空高く旋回しながら「ピーヒョロロ」と鳴く姿を見ると、私はどうしても「ここにいるぞ」と宣言しているように感じます。
実際、トビは縄張り性を持つ鳥です。特に繁殖期には、巣の周辺へ入ってきた別のトビに対して攻撃したり、声を出したりする行動が確認されています。
声を出すことで、自分の存在を周囲へ知らせる役割があると考えるのは自然です。
ただし、鳴いただけで「縄張りを主張している」と決めつける必要はありません。相手との距離、繁殖期なのか、巣の近くなのかなど、状況によって意味は変わります。
トンビ側からすれば、一種類のセリフだけを延々しゃべっているわけではないのでしょう。
警戒や威嚇でも鳴く
のんびりした「ピーヒョロロ」という印象とは違い、トンビには警戒や威嚇に使われる声もあります。
長崎半島で行われた繁殖行動の研究では、「Pier-wi wi wi wi wi」のような声を警戒声、「Kicki-kik」のような声を威嚇声として記録しています。
特に巣の近くへ別のトビが入ってきた場合には、声だけでなく実際に攻撃するケースも確認されています。
つまり、鳴き方がいつも同じというわけではありません。
普段聞く長く伸びる声とは明らかに違う、短く激しい声を繰り返しているなら、周囲で何かが起きている可能性があります。
つがいのコミュニケーションにも声を使う
繁殖期には、オスとメスの間でも声が使われます。
Black Kite、つまりトビのコミュニケーションについてまとめた資料でも、繁殖期の前後に鳴き声を使ってペア同士がコミュニケーションを取ることが紹介されています。
さらに長崎半島の研究では、交尾前にメスがオスを呼ぶような発声をしたケースも記録されています。
ここまで来ると、「トンビはピーヒョロロと鳴くだけの鳥」という印象はかなり変わります。
声は縄張り、警戒、つがい同士のやり取りなど、複数の場面で使われているのです。
トンビがよく鳴く時期は繁殖期と関係している
「最近、トンビがやたら鳴いている」
そんな日が続くと、何か異常でも起きているのかと思うかもしれません。
しかし、まず考えたいのが繁殖期です。
国土技術政策総合研究所の資料によると、日本のトビは2月中旬ごろから営巣地を中心に動くようになり、オスがメスを追尾したり、2羽で帆翔したりする行動が見られるようになります。
巣作りは3月中旬ごろまでに進み、産卵はおおむね3月中旬から5月上旬です。
国土技術政策総合研究所「トビ Milvus migrans」
春に鳴き声が目立っても不思議ではない
繁殖期になると、トンビ同士の接触も増えます。
つがいで行動したり、巣を守ったり、別の個体が繁殖エリアへ近づいたりするからです。
そのため、春ごろにトンビの声をよく聞くようになったとしても、それだけで異常な行動とは言えません。
特に近くに営巣場所がある場合は、繁殖に関係した活動が増えている可能性があります。
「最近急に鳴くようになったから地震の前兆では?」などと想像したくなる気持ちはわかりますが、まず普通の生態を考えるべきでしょう。
自然現象は、何でも怪しいサインにすると話だけは派手になります。しかし、生き物には生き物なりの日常があります。
昼間に空を旋回しながら鳴く理由
トンビといえば、翼を大きく広げ、ほとんど羽ばたかずに空を旋回する姿も特徴的です。
林野庁によると、トビは上昇気流を利用し、尾羽で方向を調整しながら上空へ舞い上がります。
そのため、日中に上空を旋回しているトンビを見つけ、そのタイミングで「ピーヒョロロ」という声を聞くことも珍しくありません。
ただし、「昼だから鳴いている」「上昇気流があるから鳴く」とまで断定するのは避けたいところです。
飛んでいる時間が増えれば、結果として私たちが鳴き声を聞く機会も増えます。
この程度に考えておく方が無理がありません。
「ピーヒョロロ」と鳴けばトンビ?タカとの違い
空を飛んでいる大型の鳥を見ると、「トンビ?タカ?」と迷うことがあります。
そもそもトンビ、標準和名では「トビ」もタカ科の鳥です。
つまり、生物学的には「トンビとタカがまったく別物」というより、トビもタカの仲間なのです。
鳴き声はトンビを見分ける大きなヒントになる
林野庁の猛禽類に関する資料では、代表的な声として次のような違いが紹介されています。
- トビ:「ピーヒョロロ」
- オオタカ・ハイタカなど:「キッ」「キー」系
- サシバ:「ピックイー」
- ノスリ:「ピィヨー」「ピー」系
空から長く伸びる「ピーヒョロロ」という声が聞こえた場合、トビを疑うかなり強い手掛かりになります。
姿が小さくしか見えなくても、声なら意外にはっきりわかります。
尾羽を見るとさらに判断しやすい
姿まで確認できるなら、尾にも注目です。
日本野鳥の会は、トビについて「バチ型の尾」を特徴として紹介しています。翼開長は約157~162cmとされており、実際にはかなり大きな鳥です。
空を旋回し、
「ピーヒョロロ」と鳴く。
そして尾の中央が少しくぼんで見える。
ここまでそろえば、かなりトビらしくなります。
トンビの鳴き声が「怖い」「不気味」に聞こえるのはおかしい?
「ピーヒョロロ」という声を、のどかだと感じる人もいれば、寂しい、不気味、怖いと感じる人もいます。
私はむしろ、この差がおもしろいと思っています。
同じ鳴き声なのに、青空の下で聞けばのどかに感じ、曇った日に遠くから聞けば妙に寂しく感じることがあるからです。
ただし、鳴き声が怖く聞こえたからといって、トンビが人間に対して威嚇しているとは限りません。
人間が感じる「怖い」「寂しい」という印象と、鳥が声を出している理由は別です。
声の意味を知りたいなら、音だけでなく周囲の状況も見る必要があります。
近くに巣があるのか。
別のトンビがいるのか。
何羽も集まっているのか。
激しく追いかけ合っているのか。
そうやって観察すると、ただの「ピーヒョロロ」が急に生き物同士のやり取りに見えてきます。
トンビが近くで鳴いているときは食べ物にも注意
トンビの声を楽しむだけなら平和なのですが、海岸や観光地では少し話が変わります。
トンビは人間の持っている食べ物を狙うことがあります。
神奈川県は、三浦半島から相模川周辺の海岸などで、トビが人の食べ物を狙って飛びかかる被害が発生しているとして注意を呼びかけています。人間から餌をもらうなどして食べ物を覚えたトビが、後方上空から急降下し、食べ物を持ち去るケースもあります。
鳴き声がしたから襲われるわけではない
ここは勘違いしやすいところです。
近くで「ピーヒョロロ」と聞こえたからといって、そのトンビがあなたを狙っているとは限りません。
むしろ食べ物を奪うトビは、人の後方上空から接近することがあります。
鎌倉市も、トビは上空から食べ物を確認し、斜め後ろから静かに飛んでくるとして注意を呼びかけています。
海岸や公園でトンビが旋回しているなら、
- 食べ物を頭上に持ち上げない
- 上空から食べ物が見えない場所で食べる
- 屋根や日傘を利用する
- トンビへ餌を与えない
- 小さな子どもが食べ物を持っている場合は特に注意する
といった対策をしておくべきです。
トンビは人間を食べようとしているわけではありません。
狙っているのは、だいたい人間より弁当です。
そこは妙に現実的な鳥です。
トンビの鳴き声を聞いたら周囲も観察すると面白い
トンビの「ピーヒョロロ」という声は、日本ではかなり身近な自然の音です。
しかし、意味を知ってから聞くと印象は変わります。
鳴き声が聞こえたら、まず空を探してみてください。
高い場所を一羽だけで旋回しているのか。
二羽で飛んでいるのか。
別のトンビを追いかけているのか。
木や電柱に止まって鳴いているのか。
季節はいつなのか。
こうした情報が加わるだけで、「なぜ鳴いているのか」を考える材料が一気に増えます。
反対に、声だけを聞いて「縄張りだ」「求愛だ」と断定してしまうと、せっかくの面白さを潰してしまいます。
トンビの声は、もっと複雑です。
まとめ|トンビの「ピーヒョロロ」は意味のあるコミュニケーション
トンビの「ピーヒョロロ」という鳴き声は、ただ空を飛びながら適当に出している音ではありません。
トビはよく鳴くタカ科の鳥で、繁殖期のペア同士のやり取りや、侵入個体への警戒・威嚇など、さまざまな場面で鳴き声を使っています。国内の研究でも、複数種類の発声が確認されています。
一方で、「ピーヒョロロを聞いたから絶対に縄張り宣言」「春に鳴いたから必ず求愛」と単純には決められません。
ここはかなり重要です。
鳴き声の意味を考えるなら、鳴き方だけでなく、季節、周囲の個体、飛び方、巣との距離なども一緒に見るべきです。
私たちには同じ「ピーヒョロロ」に聞こえていても、トンビ同士ではまったく違う状況なのかもしれません。
次にあの声が空から聞こえてきたら、少しだけ立ち止まって周囲を見てみてください。
ただの鳴き声だったものが、トンビたちのやり取りに聞こえてくるはずです。


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