「ハービーレザーって聞くけど、正直ブライドルレザーと何が違うの?」
革製品を選ぶとき、ここを曖昧にしたまま“高級そう”という理由だけで選んでしまう人は少なくない。けれど結論から言うと、ハービーレザーとブライドルレザーは似て非なる存在で、用途も経年変化の方向性もまったく違う。違いを知らずに選ぶと、「思っていたのと違う…」という地味だが深刻な後悔につながる。今日はその正体を、遠回りせずに解きほぐそう。
ハービーレザーとは何か
ハービーレザーの定義と名前の由来
ハービーレザーとは、アメリカの老舗タンナー Wickett & Craig が製造する高品質な牛革の総称として、日本で定着した呼び名だ。正式には特定の革の種類名ではなく、「同社が手がけるベジタブルタンニンなめし革」を指す文脈で使われることが多い。
最大の特徴は、北米産の上質な原皮を使い、伝統的な植物タンニンなめしで時間をかけて仕上げている点にある。化学的に急速処理された革とは異なり、繊維の奥までタンニンが浸透し、コシと弾力を両立した革質になる。
製法の特徴と革の性格
ハービーレザーは、ドラムでガンガン回して作る革ではない。
ゆっくり、じっくり、繊維と対話するようになめされる。その結果、
・繊維密度が高く、型崩れしにくい
・最初から過度に硬すぎない
・使い始めから“手に馴染む兆し”がある
という性格を持つ。財布やベルト、手帳カバーなど、「毎日触れるもの」に向いた革だ。経年変化は比較的穏やかで、色艶がじわじわ深まっていくタイプ。いわば生活に溶け込む革である。
ブライドルレザーとは何か
ブライドルレザーの歴史的背景
ブライドルレザーは、もともと馬具(ブライドル=頭絡)用に開発された革だ。代表的な生産元として知られるのが、イギリスの名門タンナー J&E Sedgwick。
この革は「強度こそ正義」という思想で作られている。
ロウ引きという強烈な個性
ブライドルレザー最大の特徴は、ロウ(ワックス)を革の内部まで染み込ませる“ロウ引き”工程だ。これにより、
・非常に高い耐久性
・水分への耐性
・カチッとした硬さ
を獲得する。その副産物として現れるのが、表面に浮き出る白い粉状のロウ、いわゆる「ブルーム」。これは欠陥ではなく、品質が高い証拠とされる。
ただし、最初はかなり硬い。新品のブライドル財布が「板みたい」と言われるのは誇張ではない。
ハービーレザーとブライドルレザーの決定的な違い
革質と触感の違い
ハービーレザーは、しなやかさとコシのバランス型。
ブライドルレザーは、明確に硬さ重視。
同じ「ベジタブルタンニンなめし」でも、仕上げの思想が違う。ハービーは“人の手に合わせる革”、ブライドルは“道具としての革”だ。
経年変化(エイジング)の方向性
ハービーレザーは、
・色が深くなる
・艶が内側から滲み出る
・シワが自然に入る
ブライドルレザーは、
・ブルームが取れて鏡面のような艶
・形を保ったまま光沢が増す
どちらが優れている、ではない。どちらの老い方が好きかの問題だ。
メンテナンス性の違い
ハービーレザーは、比較的素直。乾燥したら軽くオイル、基本はブラッシングで十分。
ブライドルレザーは、ロウが入っている分、過度なオイルは逆効果になることもある。メンテナンスは控えめが正解だ。
用途別に見るおすすめの選び方
財布・カードケースの場合
毎日開閉し、ポケットに入れるならハービーレザーが向く。最初から扱いやすく、ストレスが少ない。
ブライドルは「育つまで耐える覚悟」がある人向けだ。
ベルト・鞄の場合
強度が求められるベルトや、形を保ちたい鞄にはブライドルレザーが真価を発揮する。
一方、軽さやしなやかさを求めるならハービーが快適だ。
「高級革=正解」ではないという話
革選びでよくある失敗は、「有名だから」「高いから」という理由だけで選ぶことだ。
ハービーレザーもブライドルレザーも、どちらも一流。ただし、性格が真逆に近い。
硬さにロマンを感じるか。
手に吸い付く感触を愛せるか。
この問いに答えずに選ぶと、革は黙って不満を溜め込む。革は嘘をつかない。使い手との相性が、そのまま表情になる。
まとめ:違いを知ると、革はもっと面白くなる
ハービーレザーは、生活に寄り添いながら静かに育つ革。
ブライドルレザーは、時間と忍耐を要求する代わりに、圧倒的な存在感を返してくる革。
どちらが上かではない。
どちらがあなたの時間の使い方に合うかだ。
革製品は、買った瞬間が完成ではない。
使い続けた時間そのものが、価値になる。
違いを知った今、次に手に取る革は、きっと前より雄弁になる。

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