土地や建物の名義を変更する(=所有権移転登記を行う)というのは、専門家に任せるイメージが強い人が多いかもしれません。しかし、必要書類を揃え、登記申請をきちんと書けば、個人でも十分対応できる手続きです。手続きを自分でやることで、司法書士への手数料を節約できる一方、制度を正しく理解しないと、書類不備や税金面で思わぬ落とし穴にはまる可能性もあります。本記事では、名義変更を「相続」「贈与」「売買」「財産分与(離婚など)」などの主なケースごとに、自分で手続きを進めるための具体的な流れ・必要書類・税金・ポイントを網羅します。
所有権移転登記(名義変更)とは
所有権移転登記とは、不動産(土地・建物)の所有者が変わった際に、法務局にその変更を申請して、登記簿上の所有者(名義)を新しい所有者に書き換える手続きです。 (サライ.jp|小学館の雑誌『サライ』公式サイト)
登記をしなければ、法的に第三者に対して所有権を主張できない(対抗要件が弱くなる)状態になったり、将来的に売却や抵当権設定が難しくなったりする場合があります。 (相続ナビ)
また、2024年4月からは「相続による不動産名義変更(相続登記)」が義務化されており、正当な理由なく申請しないと罰則がある場合もあるため注意が必要です。 (SUUMO)
名義変更が必要になる主なケースとその特徴
相続による名義変更
- 所有者が亡くなったとき、被相続人(亡くなった方)から相続人に所有権を移す場合。 (福知オフィス)
- 遺産分割協議をして、相続人全員がだれがどの不動産を相続するか合意する必要があります。 (福知オフィス)
- 取得する書類は戸籍(被相続人・相続人)、住民票、遺産分割協議書などが必要。 (SUUMO)
- 登録免許税は相続の場合、評価額の0.4%など低めの税率が適用されることが多い。 (リエステート)
- 法務局へ申請し、申請が完了すれば名義が相続人に正式に変更されます。郵送申請も可能。 (e-isansouzoku.com)
贈与による名義変更
- 生前に所有者(贈与者)が無償で不動産を他人(受贈者)に名義を移す場合。 (不動産売却デスク)
- 贈与契約書が必要で、公正証書にすることもよくあります。 (SUUMO)
- 印鑑証明(贈与者)、住民票(受贈者)、固定資産税評価証明書、登記識別情報(旧名義人の権利証)など用意。 (SUUMO)
- 登録免許税は、贈与の場合評価額の2%など高めに設定されている。 (リエステート)
- 贈与税がかかる可能性があるので、申告が必要。 (SUUMO)
売買による名義変更
- 不動産を売買して、新しい所有者へ名義を移す場合。 (いえーる住宅研究所)
- 売買契約書を作成し、代金の決済などを経て、登記申請を行います。 (不動産売却デスク)
- 登録免許税は評価額に対して一定率(ケースにより異なる)が課される。 (ライフルホームズ)
- 売り主・買い主が共同で申請するのが基本。ただし司法書士が関与するケースが多い。 (いえーる住宅研究所)
離婚・財産分与による名義変更
- 夫婦が離婚する際に、財産(不動産)を分けるため名義を変更する場合。 (いえーる住宅研究所)
- 財産分与契約書を作成、合意した名義に基づき所有権移転登記。
- 登録免許税や税務処理(譲渡所得など)を確認。
自分で名義変更をする手順(個人申請の流れ)
書類準備
- 戸籍・住民票などの取得
- 固定資産税評価証明書の取得
- 市町村役場または自治体で評価証明書を取得。これが登録免許税の基準になる。 (SUUMO)
- 遺産分割協議書など必要書類の作成
- 相続:相続人全員の合意で遺産分割協議書を作成。署名・押印を忘れずに。
- 贈与:贈与契約書を作成。公正証書も検討。
登記申請書の作成
- 法務局所定の「所有権移転登記申請書」を記入。
- 申請書には、申請人(新所有者)、登記義務者(旧所有者)、物件情報(地番・家屋番号)、取得原因(相続・贈与など)を記載します。
- 登記識別情報(旧所有者の登記済証またはID)を添付。
税金の計算と納付
- 登録免許税:固定資産税評価証明の額をベースに計算。相続なら0.4%、贈与なら2%など。 (リエステート)
- 贈与税:贈与の場合、年間110万円を超えると贈与税がかかる。 (ライフルホームズ)
- 不動産取得税:売買の場合は取得時に発生。ただし、相続では課税されない。 (ライフルホームズ)
申請の提出
- 完成した登記申請書と必要書類を、所管の法務局に提出。
- 遠方の場合は郵送で申請可能。 (e-isansouzoku.com)
- 提出後、不備がなければ審査があり、登録が完了。
完了後の手続きと管理
- 登記が完了すると、新しい名義人として登記簿に記録されます。
- 登記完了後は、登記識別情報(新しい権利証)を大切に保管。
- 相続登記義務がある場合(2024年以降)、期限内に確実に申請を行う。 (SUUMO)
個人で進める際のメリット・リスク
メリット
- 司法書士への報酬を節約できる。自分でやれば、登録免許税と書類取得費用以外のコストが抑えられる。 (e-isansouzoku.com)
- 自分で進めることで、手続きの構造や税金を理解できる。
- スケジュールを自分で管理でき、慌てずに準備ができる。
リスク・注意点
- 書類不備による申請の補正や再提出が発生すると、時間と手間がかかる。 (e-isansouzoku.com)
- 登記申請書の作成ミス(記載ミス・もれ)があると、法務局から差し戻される可能性がある。
- 税金の計算を誤ると、思わぬ額の登録免許税・贈与税を請求される。
- 相続人間の協議がもめると遺産分割協議書の作成自体が難しくなる。
成功させるための実践的ポイント
- 事前に市役所や法務局など役所窓口で相談:不明点を確認しておくことで、後の手戻りを防ぐ。
- 書類を揃える順番を明確に:戸籍 → 住民票 → 固定資産税評価証明 → 契約書類 という流れ。
- 複雑な相続案件(相続人が多い/未成年がいる/海外住所がある等)は専門家への相談を検討。
- 登記申請書の記載例を法務局サイトでダウンロードして、見本に沿って作業。
- 提出前に書類のコピーを取っておく:補正の際に参照用になる。
よくある質問(Q&A)
Q. 登記を放置しても大丈夫?
A. 名義変更をしないままだと、第三者に所有を主張できなくなったり、将来的な売却や借入時に問題が生じる可能性があります。また、相続登記義務化の対象であれば、期限内に申請しないと過料が課されるケースもあります。 (SUUMO)
Q. 法務局まで遠くて行けない/忙しい場合は?
A. 登記申請は郵送で行うことが可能です。 (e-isansouzoku.com) また、委任状を使って家族や代理人に申請を任せることもできます。
Q. 自分でやってミスしたらどうなる?
A. 不備があると、法務局から補正の連絡が来て書類を直す必要があります。最悪の場合、申請が受理されず再び準備からやり直す手間がかかるため、慎重に進めましょう。
まとめ
個人で土地・建物の名義変更(所有権移転登記)を進めることは可能であり、正しい知識と準備があれば大きなコスト削減につながります。ただし、相続・贈与・売買といった名義変更の理由によって、必要書類や税金が大きく異なるため、自分のケースに応じた流れをあらかじめ把握しておくことが重要です。不備を避けるためには、書類取得から申請までを段取りよく整理し、市区町村役場や法務局などの窓口を活用して確認しながら進めましょう。最終的に、司法書士に依頼するか自分でやるかは、書類の複雑さや税額、時間を考えて判断してください。

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