不動産の名義変更は、相続対策や家族間の資産整理、住宅ローン完済後の手続きなど、人生の節目で行われることが多い。一方で「名義を変えただけなのに税金がかかるのか」「贈与税の対象になる場合とならない場合の違いが分からない」といった疑問を抱える人も少なくない。不動産は金額が大きいだけに、判断を誤ると高額な贈与税が課税されるリスクがある。ここでは、不動産名義変更が贈与税の対象になるケースとならないケース、贈与税の算定方法、税額計算の考え方、注意点までを体系的に整理する。
不動産名義変更と贈与税の基本的な考え方
不動産の名義変更が贈与税の対象になるかどうかは、「実質的に無償で財産を移転したかどうか」で判断される。登記上の手続きが名義変更であっても、その背景に売買、相続、離婚による財産分与などの法律関係があれば、必ずしも贈与税がかかるわけではない。
贈与税は、生存している個人から個人へ財産を無償、または著しく低い対価で移転した場合に課税される税金である。不動産は高額資産であるため、名義を変えただけでも「実質は贈与ではないか」と税務署に判断されるケースが多い点が特徴といえる。
贈与税の対象になる名義変更の代表例
親から子へ不動産を名義変更した場合
親名義の土地や建物を子へ名義変更する場合、対価の支払いがなければ原則として贈与税の対象となる。たとえ「将来相続する予定だから」「同居して家を管理しているから」といった事情があっても、名義変更時点で贈与が成立したとみなされる。
夫婦間で不動産の名義を移した場合
夫から妻、または妻から夫へ自宅などの不動産を名義変更した場合も、基本的には贈与に該当する。ただし、婚姻期間が20年以上の場合に利用できる配偶者控除(いわゆるおしどり贈与)を使えば、一定額まで贈与税が非課税となる場合がある。
共有名義の持分割合を変更した場合
もともと共有名義で登記されている不動産について、持分割合を一方に増やすと、その増えた部分は贈与と判断されることがある。例えば、夫婦で2分の1ずつの持分だった不動産を、妻のみの名義に変更した場合、夫から妻への贈与があったとみなされる。
贈与税の対象にならないケース
相続による名義変更
被相続人が亡くなったことにより不動産を取得し、相続登記を行う場合は贈与税ではなく相続税の対象となる。相続税の基礎控除内であれば、税金がかからないケースも多い。
正当な売買による名義変更
親子や夫婦間であっても、時価相当の売買代金を支払って不動産を取得した場合は贈与ではなく売買と扱われる。この場合、贈与税はかからないが、不動産取得税や譲渡所得税など別の税金が関係してくる点には注意が必要である。
離婚に伴う財産分与
離婚に伴い、財産分与として不動産の名義を変更する場合、原則として贈与税はかからない。ただし、分与額が明らかに過大である場合や、実質的に贈与と判断される場合には課税される可能性がある。
贈与税の算定方法の基本構造
贈与税の計算は、以下の流れで行う。
- 贈与を受けた不動産の価額を算定
- 基礎控除(110万円)を差し引く
- 残額に税率を乗じて税額を算出
重要なのは、名義変更した不動産の「評価額」をどのように算出するかである。
不動産の評価額の算定方法
土地の評価方法
土地の評価額は、原則として相続税評価額を用いる。具体的には、路線価方式または倍率方式で算定される。路線価が定められている地域では、路線価に土地の面積を乗じて評価額を算出する。路線価のない地域では、固定資産税評価額に倍率をかけて計算する。
建物の評価方法
建物については、固定資産税評価額がそのまま贈与税評価額となる。建築費や時価ではなく、毎年市町村から通知される固定資産税課税明細書に記載の金額が基準となる点が特徴である。
共有不動産の場合の評価
共有名義の不動産を贈与する場合は、全体の評価額に持分割合を乗じた金額が贈与財産の価額となる。持分の一部を贈与した場合も、その割合に応じて評価を行う。
贈与税額の具体的な計算イメージ
課税価格の計算
贈与税では、1年間(1月1日から12月31日まで)に受け取った贈与財産の合計額から基礎控除110万円を差し引いた金額が課税価格となる。不動産の名義変更が1年のうちに行われた場合、同年中の他の贈与財産と合算して計算する必要がある。
税率の適用方法
贈与税の税率は累進課税であり、課税価格が高くなるほど税率も高くなる。直系尊属(父母・祖父母)から20歳以上の子や孫への贈与には特例税率が適用され、それ以外の場合は一般税率が適用される。
税額計算時の注意点
不動産の評価額は数百万円から数千万円になることも多く、基礎控除を差し引いても高額な課税価格が残るケースが多い。その結果、税率が高い区分に該当し、想定以上の贈与税が発生することがある。
名義変更時に見落としがちな税金と費用
不動産名義変更では贈与税だけでなく、登録免許税や不動産取得税が発生する場合がある。贈与による名義変更の場合、登録免許税は固定資産税評価額の2%が原則であり、相続時より高い税率が適用される点には注意が必要だ。また、司法書士報酬などの実務費用も考慮する必要がある。
贈与税リスクを抑えるための考え方
名義変更の目的を明確にする
節税目的だけで安易に名義変更を行うと、かえって税負担が重くなることがある。相続を見据えた長期的な視点で、相続時精算課税制度や段階的な贈与など、複数の選択肢を比較検討することが重要である。
評価額の把握と事前試算
名義変更前に、不動産の評価額を正確に把握し、贈与税の概算を試算しておくことで、想定外の税額に慌てるリスクを減らせる。土地と建物を分けて評価する意識も大切だ。
他の制度との比較検討
場合によっては、名義変更を行わず、そのまま相続まで待つほうが税負担が軽くなることもある。相続税の基礎控除や配偶者控除などと比較し、全体最適で判断する視点が欠かせない。
不動産名義変更と贈与税の要点まとめ
不動産の名義変更は、形式だけでなく実質に注目して贈与税の対象かどうかが判断される。無償または著しく低い価格で名義を移せば、原則として贈与税が課税される。不動産の評価額は相続税評価額や固定資産税評価額を基準に算定され、基礎控除を差し引いた後に累進税率で税額が決まる。
名義変更は一度行うと簡単には元に戻せないだけでなく、税務上の影響も長く残る。贈与税がかかるかどうか、いくらになるのかを事前に把握し、相続や売買など他の方法と比較したうえで判断することが、後悔しない不動産名義変更につながる。

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