ASD(自閉スペクトラム症)とは?
ASDとは「Autism Spectrum Disorder」の略で、日本語では「自閉スペクトラム症」と呼ばれる発達障害の一つです。かつては「自閉症」「アスペルガー症候群」などに分類されていた状態が、現在ではスペクトラム(連続体)として一括してASDと診断されるようになりました。つまり、症状の程度や現れ方には個人差があり、「この症状があればASD」と断言できる明確な境界はありません。
ASDの人々は、主に以下のような特徴を持ちます。
- 対人関係やコミュニケーションの困難
- 興味や行動の偏り、こだわり
- 感覚過敏・鈍麻(音・光・匂いなどへの強い反応)
ASDは見た目では分かりにくいため、誤解されることも多く、社会生活に支障が出やすい障害の一つです。
ASDの主な特徴
コミュニケーションの難しさ
ASDの人は、会話の意図を汲み取ることが難しかったり、表情やジェスチャーといった非言語的なサインを読み取るのが苦手だったりします。また、自分の興味のある話題を一方的に話してしまう傾向もあります。相手との「距離感」をうまく調整できず、人間関係でトラブルを抱えやすい傾向も見られます。
社会性の発達の遅れ
「空気を読む」「相手の立場に立って考える」といった、いわゆる“社会的な文脈”を理解するのが苦手です。そのため、グループ活動やチームワークの場面で周囲とのズレが生じやすく、「わがまま」「協調性がない」と誤解されることがあります。
限定的で反復的な行動・強いこだわり
ASDの大きな特徴の一つに、「同じ行動を繰り返す」「特定のものに強い興味を持つ」といった行動があります。たとえば、電車や天気、地図などに対して深い知識を持つ人が多く、時間やルーティンに強くこだわる傾向もあります。予定が変更になると不安が強まり、パニックになることもあります。
感覚の違い
聴覚や嗅覚、触覚などの感覚に過敏だったり、逆に鈍感だったりする場合があります。たとえば、「蛍光灯の音が気になって集中できない」「服のタグのチクチクが耐えられない」といった感覚過敏がある一方で、痛みに鈍いケースもあります。
ASDの原因は?
ASDの原因はまだ完全には解明されていませんが、脳の機能や神経の発達に関係する先天的な要因が関係していると考えられています。近年の研究では、遺伝的要素が大きく影響しているという報告が増えており、兄弟や親にASDの傾向がある場合、その子どももASDの可能性が高まるというデータもあります。
ただし、育て方や本人の努力が原因ではないことが、科学的に明らかになっています。親のしつけや愛情不足がASDを引き起こすという誤解は、早急に正す必要があります。
ASDはいつ分かる?診断のタイミング
ASDは早ければ1歳半〜2歳ごろから、言葉の遅れや人との関わり方の違いとして見られることがあります。幼児健診や保育園・幼稚園での観察をきっかけに専門機関を受診し、発達検査や医師の診察を通して診断されます。
成人になってから、自分で違和感を覚えて受診し、初めて診断される「大人のASD」も増えてきています。周囲との関係や仕事のストレスなどが契機となり、診断に至るケースが多いです。
ASDの人への接し方のポイント
ASDの人との関わりでは、「相手の特性を理解し、柔軟に対応する」ことが何より重要です。以下のような工夫が効果的です。
- 具体的な言葉で伝える:あいまいな表現を避け、明確に伝えることで誤解を防げます。
- 視覚的な情報を活用する:予定表やチェックリストなど、視覚支援が理解を助けます。
- 安心できる環境を整える:騒音や明るすぎる照明など、感覚に配慮した空間づくりが有効です。
- 変化は事前に伝える:予定変更などは早めに伝え、心の準備ができるよう配慮しましょう。
- 強みを活かす:興味のある分野や得意なことを活かせるような環境設定も大切です。
ASDの支援と社会の理解が求められている
ASDのある人が社会で生きづらさを抱えずに暮らしていくためには、周囲の理解と適切な支援が不可欠です。発達障害者支援法や障害者差別解消法など、法的な整備も進んでいますが、現場での実践的な対応にはまだ課題も多く残されています。
学校や職場、地域社会がASDの特性に応じた合理的配慮を行い、「違いを認め合う社会」を実現していくことが重要です。ASDを「できないこと」ではなく、「違った見方ができる力」として捉える視点が、今後ますます求められていくでしょう。
まとめ:ASDへの正しい理解が共生社会の第一歩
ASD(自閉スペクトラム症)は、特性の幅が広く、外見からはわかりにくい発達障害です。しかし、適切な理解と支援があれば、本人の力を十分に引き出し、社会の中で活躍できる可能性があります。「困っている人」ではなく「困っている環境」に目を向け、誰もが安心して自分らしく生きられる社会を目指していきましょう。
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